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2021年に注目したい教育キーワード10選

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特集 教員の知恵袋

 学校教育に求められる指導内容や方法、環境は時代ともに変化しています。たとえば、これまで黒板や教科書を使って行うのが当たり前だった学校の授業も令和時代が進むにつれて、ICTの活用が欠かせなくなると予想できます。
 本記事では、2021年以降さらに注目度が高まると予想される教育キーワード10選を紹介します。ぜひ、来年度以降の指導のヒントにしてみてはいかがでしょうか。

(1) 令和時代の日本型学校教育

 令和時代の日本型学校教育は、文部科学省が2020年時代に実現するのが望ましいと考える教育の姿を指します。「個に応じた指導」と「協働的な学び」によって全ての子どもたちの可能性を引き出すことを目的としています。
 幼児教育・義務教育・高等学校で目指すべきとされているのが下記のような姿です。

  • ・幼児教育:小学校との滞りない接続/PDCAサイクルの構築による質の高い教育の提供など
  • ・義務教育:先端技術の活用による資質・能力の確実な育成や協働的な学び合い/地域の構成員の一人としての意識の育成など
  • ・高等学校教育:社会的・職業的な自立および社会形成に主体的に参画するために必要となる資質・能力の育成/実社会の課題解決に活かすための探究的な学びや、STEAM教育などの教科横断的な学びなど

 学校における働き方改革やGIGAスクール構想の実現を加速させることにより、新しい時代の学校教育実現を目指します。

(2) 高校普通科改革

 文部科学省は、Society5.0時代にふさわしい仕組みづくりのうち、少子高齢化に対応した人づくり革命を明記しています。そのなかで高等学校における普通科改革や地域人材、グローバル人材の育成など、多用な高等学校教育の構築を進めることが示されています。
 また、現在全ての高等学校において70%以上の生徒が普通科に在籍している一方で、急激な社会の変化とともに高校生の学校生活に対する満足度や学習時間の減少、学習意欲の希薄化などの課題も顕在化しているのが現実です。
 これらの課題を踏まえ、文部科学大臣は2020年7月の会見で、高校生の学習意欲の喚起や、多様な生徒の学習ニーズに応じた教育活動の展開が必要と述べています。現在中央教育審議会で検討中の取組の一つとして、普通科の在り方を弾力的に大綱化し、各設置者の判断によって新たな学科を設置できるようにすることがあげられました。
 同会見内では、中央教育審議会の答申が年度内に取りまとめられる予定との発言もあり、来年度以降の文部省の取り組みに注目が集まります。

(3) 中学校で新学習指導要領が全面実施

 2020年4月から小学校にて全面実施となった新学習指導要領が2021年度から中学校においても全面実施されます。
 今回の改訂のねらいは「生きる力」の理念を具体化させること、教育の在り方をさらに進化させることです。新たに追加された社会と連携・協働しながら「社会に開かれた教育課程」の実現が重要であると記載されています。
 実現の方法として示されているのが、アクティブラーニング(主体的・対話的・深い学び)の視点から行う学習過程の改善です。また、今回の改訂では「何のために学ぶのか」という学習意義を共有しながら全ての教科を下記の3本柱で再整理していることが大きなポイントとなっています。

  •  1.知識および技能
  •  2.思考力、判断力、表現力等
  •  3.学びに向かう力、人間性等

 いよいよ全面実施となる中学校での新学習指導要領の考え方を再度確認し、来年度からの指導に備えることが大切です。

(4) 大学入学共通テスト

 大学入学共通テストの目的は高等学校段階において基礎的などの程度の学習達成ができているかを判定し、大学教育を受けるために必要な能力を有しているか把握することです。
 文部科学省は、従来のマークシート方式の問題に記述式の問題を導入することにより、自らの考えをまとめ、相手に理解してもらえるよう根拠に基づいた論述を行う思考力や判断力、表現力の評価を目指すとしています。
 同様に導入される英語4技能評価では、試験・検定を活用し「読む」「話す」「聞く」「書く」を適切に評価することを目指します。具体的には入学者選抜に活用するうえで必要とされる水準・要件を満たした資格・検定試験を大学入試センターが認定、試験結果およびCEFRの段階別成績表示を希望する大学に提供するという仕組みです。
 記述式問題の導入時期については、2021年1月の大学入学共通テストからの導入が見送られることとなったため、来年以降の文部科学省の発表に注目しましょう。

(5) 30人学級の実現

 文部科学省では、生徒指導面の課題の複雑・多様化といった問題や新学習指導要領をスムーズに実施すること。そして教員が子どもと向き合う時間を確保するための対応では、以前から35人または30人の少人数学級の推進や教職員定数の改善を目指した検討会議が行われてきました。
 そこへ2020年9月24日、自民党が新型コロナウイルスの影響による休校などを踏まえ、義務標準法の改正を文部科学大臣に申し入れました。
 この申し入れに対して、文部科学大臣は今後の教職員定数の減少を考慮しつつ、少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備の実現に向けて全力で臨むと発言しています。令和のスタンダードとなることが予想される少人数学級への取組の進捗から今後も目が離せません。

(6) GIGAスクール構想の実現

 GIGAスクール構想とは、2019年12月に文部科学省が発表した教育改革案を指し、Global and Innovation Gateway for Allを略したものです。
 この構想では、子どもたち一人ひとりに対して個別最適化された創造性を育む教育や、情報通信・技術面を含めたICT環境の実現を目的としています。構想の実現で特に重要となるのが、学習者用端末の調達や安定した高速ネットワーク環境の整備、学習ツールや校務のクラウド化などの環境整備です。
 新型コロナウイルスの影響による臨時休校や昨今の情勢を考えると、GIGAスクール構想がこれからの教育における基準となることは想像に難くないといえます。

 関連記事 GIGAスクール構想の目的とは? 予算や環境整備、指導者に求められるポイントを解説

(7) 教科担任制の導入

 2020年6月、文部科学省は個別最適化された学びを実現する観点から2022年を目処に小学校高学年から教科担任制を導入すべきとの見解を示しました。
 教科担任制の導入では、ICTの効果的な活用や授業質の向上を目指しています。さらに、教師の持ちコマ数の軽減・授業準備の効率化によって教師が抱える負担の軽減を図ることもねらいの一つです。
 教科担任制の導入には、小学校高学年の教科担任制を踏まえた小学校教員養成課程と免許制度等の大幅な見直しといった検討すべき課題もあります。
 とくに9年間の義務教育を見通した教科担任制の在り方について、必要教科指導の専門性を高めるための教員養成や研修の仕組みの構築、校種を超えた配置の推進などの検討が必要とされています。

(8) 学びの保障

 学びの保障とは、新型コロナウイルス感染症対策による学校の臨時休業中でも下記4つの考えに基づいて子どもたちの学びを最大限に保障するという考え方です。

  •  1.臨時休業中も、学びを止めない
  •  2.速やかに、できるところから学校での学びを再開する
  •  3.あらゆる手段を活用し、学びを取り戻す
  •  4.柔軟な対応の備えにより、学校ならではの学びを最大限確保

 効果的な学習保障のために、指導方法の見直しや臨時休業中の登校日の設置や時間割の編成、入試を控えた生徒のうち特定の生徒が不利益を被らないようにするための評価基準見直しといった措置が必要です。
 ほかにも学習指導の充実には、教員の負担軽減や子どもたちの心のケアについても考えなければなりません。その対策にはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの追加配置、オンライン学習を行うためのICT環境の整備、教員のトレーニングも重要です。
 今後再び学校が臨時休業になる場合に備え、子どもたちの学びを保障するための取組と継続的な感染症対策を両立させることが重要です。
 関連記事 「学びの保障」と感染予防の両立。子どもの学びを支える考え方と支援策

(9) 通信制高校

 文部科学省が発表した資料によれば、2019年度時点で通信制高校に通う生徒の数は19万人を超えています。なお、生徒数が多いのが全日制、最も少ないのが定時制という結果です。
 実際、通信制の高等学校を第一希望とする生徒数は増加傾向にあり、不登校経験者や家庭の事情、発達障害等の特別な支援を要することなどを理由にしている生徒もいます。
 文部科学省は、平成28年に発覚したウィッツ青山学園高等学校の違法・不適切な学校運営等の問題を踏まえ、通信制高校における教育の質を確保し、さらに向上を図るためのガイドラインを策定しました。
 同ガイドライン内には、教職員の配置や連携施設との適切な協力・連携、学習指導要領の教育課程に基づいた適切な指導と評価を行うことなどが参照すべき指針として記載されています。
 通信制高校においては、ガイドラインに基づいて施設の確保や設備といった環境づくりに努めるほか、自己評価・第三者評価の実施によって教育の質の向上を図っていくことが求められます。

(10) 主権者教育

 2016年6月、改正公職選挙法が施行され、若者の政治離れに歯止めをかけるために選挙権年齢が18歳に引き下げられました。これにより有権者が増えて投票総数の増加が見込まれる一方、若者の投票率は低いままです。
 経済協力開発機構(OECD)の調査では調査国30カ国のうち、日本以外の国では高齢者と若者の投票率の差が20%であったのに対して日本は25.2%と大きな差がついていました。
 若者の政治参加を進め、高齢者と若者の投票率の差を埋めるには学校での主権者教育に力を入れる必要があります。
 総務省では、国や社会の問題を自分ごととして考え判断し、行動する主権者を現代に求められる主権者像として示しており、高校生や大学生の主権者教育に使用できる学習教材も公開しています。これらの教材を適切に授業に取り入れながら、効果的に主権者教育を行っていくことが大切です。

まとめ

時代や環境の変化を受け入れた柔軟な対応が必要

 2020年は予想外のパンデミックによって学校の臨時休業を求められ、学校教育も大きな影響を受けました。同時に学校教育の重要性や子どもたちの学びを継続的に支援することの必要性が改めて浮き彫りになったのも事実です。
 少子高齢化や子どもたちの学習意欲の低下、求められる能力の変化など、時代の変化や人々のライフスタイルの変化が学校教育に与える影響は決して小さくありません。これからの令和の時代、教員や学校に求められるのは、文部科学省の方針を基盤とし、時代の変化を受け入れた柔軟な指導かもしれません。

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