エドテック活用で期待される学習効果と教育現場に求められること
トレンドここ数年、教育現場で注目が高まりつつあるエドテックの活用。しかし、具体的にエドテックとは何を指して教育にどのようなメリットや効果をもたらすのでしょうか。
経済産業省の「未来の教室」プロジェクトでは、エドテックの活用によって学習のさらなる効率化を目指しています。今回はエドテックのメリットや課題、活用するうえで教師や教育現場に求められるポイントについて解説します。
エドテックとは
エドテック(EdTech)とは、Education(教育)とTechnology(科学技術)をかけ合わせた造語で、発祥は2000年中期のアメリカです。目覚ましい進歩・発展を遂げるテクノロジーの力によって、旧態依然とした教育現場に革新的な変化をもたらすことを目指すビジネス領域全体を指します。
エドテックと並んでよく耳にするeラーニングは、情報技術を駆使したネットワークやコミュニケーションを活用して行う学習システムを指しますが、エドテックとは概念が異なります。世界各国でエドテックの市場規模が拡大し続けるなか、日本はIT環境の対応を含めまだまだ世界に遅れをとっている状態です。
出典:経済産業省『平成29年度商取引適正化・製品安全に係る事業(EdTechや民間教育サービス産業創出に向けた基礎調査)』
経済産業省の「未来の教室プロジェクト」
経済産業省は、過去の成功体験にとらわれることなく、時代の変化に合わせた新しい教育の実現を提言。令和の教育改革に向け、学校と民間教育、産業界等が協力し合い「未来の教室」を構築することを目指しています。
「未来の教室」プロジェクトにおいてコンセプトの柱となっているのが「学びのSTEAM化」と「学びの個別最適化」です。
「学びのSTEAM化」では、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術/教養)・Math(数学)を活用し文理融合の学びを実現することを目指しています。
一方、「学びの個別最適化」では、従来の一律・一斉・一方方向の授業形態から一人ひとりの認知特性や学習到達度などに合わせた自学自習と子ども同士の学び合いへ重きを移すことがねらいです。これら2つのコンセプトの実現には、エドテックの活用が欠かせません。
国内の先進事例からみるエドテックのメリットとこれからの課題
今後さらなる成長が期待されるエドテックですが、国内の学校ですでにエドテックを導入した授業やワークショップを展開しているところもあります。
AI型の教材を活用した授業で子どもたち一人ひとりに合わせた学びを構築できることが大きな強みとされているエドテック。授業に導入・活用した学校では、子どもたちからの反応もよく、楽しんで授業を受けている様子がみられているようです。
千代田区立麹町中学校の事例
麹町中学校では、数学の教材にAI型ドリル教材を導入し、フリーアドレス制で自学自習を実施。さらに、授業で学んだ数学の定理や数学的志向を用いてロボットを動かすワークショップを行い、インプットとアウトプットを両立させています。
生徒が受け身になりやすい従来の授業形態と異なり、子どもたちが数学を学ぶ意味や社会においてどのような場面で数学が活用されているかを理解できるのが強みです。子どもたちの学習意欲が高まることで、成績中下位層の生徒が学習を修了するまでの時間を短縮できる点もエドテックがもたらすメリットといえます。
静岡県袋井市立三川小学校の事例
立三川小学校では、算数の時間にエドテック教材を用いた自学自習と学び合いを実施し、子どもたち一人ひとりが端末機器を使ってエドテック教材に向き合いながら算数を学んでいます。
教員の話を一度で理解することが困難な子どもたちも端末機器を見直しながら粘り強く理解に努めるようになったり、子ども同士の学び合いが生まれるようになったり、学びの姿勢に変化が現れているようです。さらに、クラス全体の主体性の向上や生徒同士の会話が増えた点も担任教師により指摘されています。
これから乗り越えるべき課題
令和の教育改革にポジティブな影響を与えるものとして期待が高まるエドテックの導入ですが、乗り越えるべき課題もあります。
一つは、学校のICTインフラがまだまだ貧弱であることです。たとえば、学びのSTEAM化で示されるような個別に最適化された学びの実現には、1人1台の端末とそれらを利用できるインフラ環境の整備が欠かせません。
次にあげられるのが、教員・生徒ともに手一杯で創造性を発揮する余裕がないことです。現時点で日本の学校は従来の一律・一斉・一方向型の授業形態が定着しているところが多く、知識のインプットだけで手一杯になってしまっています。
ICTインフラの課題解決には、高速大容量通信や1人1台パソコンをはじめとしたICT環境の整備が必要です。
また、余裕のない教育現場の課題解決として、業務構造の抜本的改革の手法を用いた学校業務の見直し、さらに教師がデジタル・ファーストの考えで自らがチェンジ・メイカーとして学校外の人材と協働し続けるための環境づくりを行うことが求められます。
令和時代の学びのスタンダードとして期待が高まるエドテック
世界の教育現場で注目されるエドテックを導入した学習は、今後の日本における学びのスタンダードになることが期待されます。
現時点で世界から遅れをとっている日本では、学校のICTインフラの整備や教師の業務内容の見直しを含め乗り越えるべき課題が残っているのも事実です。
課題解決能力を持つチェンジ・メイカーの育成を目指す教育の実現に向け、まずは教師自身がチェンジ・メイカーとして学校外の人材とともに学び、協働し続けられる環境の整備を行うことがカギとなるでしょう。