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主権者教育の推進はなぜ必要か。解決すべき課題とは

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特集 教員の知恵袋

 平成28年7月に選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、主権者教育の重要性が急激に高まりました。しかし、諸外国と比較すると日本国内の投票率はまだまだ低く、主権者教育が十分に行われているとは言い難い状況です。

 主権者教育を行ううえで学校教育が重要であることはいうまでもありませんが、子どもたちが幼少期の大半を過ごす家庭や地域と連携して行う主権者教育も同様に重視しなければなりません。

 今回は国内投票率の推移や諸外国との比較を含め、主権者教育推進の背景や課題、教育現場や家庭に求められることについて解説します。

主権者教育とは

 主権者教育とは、国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え判断し、行動していく主権者を育成することです。

 学校現場において政治や選挙等に関する学習内容をより一層充実させるために総務省と文部科学省は共同で「私たちが拓く日本の未来」という資料を作成し、全国の高校生へ副教材として配布しています。

主権者教育推進の背景にある若者の投票率

 日本の国政選挙ならびに統一地方選挙の投票率は年々低下し続けています。投票権が18歳に引き下げられた平成28年7月以降も全体の投票率が下がり続けているのが現状です。

 なかでも若者の投票率に関しては、OECD主要国平均で18~24歳の投票率が6割を超えているのに対して、日本の18~24歳の投票率は2014年の調査時点で3割程度とかなり低い割合であることが分かります。

 主要国のうち、特にヨーロッパ各国の若者の投票率が高い国々では、政治教育や主権者教育が積極的に行われています。低下し続ける日本の若者の投票率を上げるためには、学校・自治体レベルでの主権者教育のさらなる推進と定着が欠かせません。

学校の主権者教育と諸外国との比較

 日本の若者の投票率が低いことの一因は、これまで主権者教育を積極的に行ってこなかった学校教育にもあります。

 子どもたちが社会に興味を持ち積極的に政治に参加する未来を見据え、各学校段階で社会形成に参画するための資質・能力の形成を目指した教育が必要です。

教科間の連携や参加型学習を取り入れた学校教育

 新学習指導要領に基づいた主権者教育では、社会科・公民科以外の時間で主権者教育にかかわる内容相互の連携を図るなど、教育課程全体での取り組みが求められます。児童・生徒の負担にも配慮しながら、総合的な学習の時間や特別活動など、教科等間での連携を図ります。

 また、総務省のWebページでは高校生・大学生向けに主権者教育教材や動画が公開されています。たとえば参加型の学習教材では、ロールプレイやマニフェストの策定などを通じて社会問題の多様性や複雑性の理解、政治的判断力の育成を目指します。授業内でこれらの教材や動画を活用するのも効果的です。

諸外国で行われる主権者教育

 2014年の調査で18~24歳の投票率が6割を超えるスウェーデンでは、選挙期間中に教師が生徒を連れて候補者の事務所を尋ねることが定着化しています。

 また、同じく若者の投票率が高いドイツでは、教師が一方的に指導するという授業ではなく、生徒同士が1つのテーマについて話し合う訓練を小学校・中学校段階から行っています。さらに、連邦政治教育センターが学校で使用する教材開発を行うなど、政府機関が政治教育を支援しているのも特徴です。

主権者教育に必要な家庭・地域での取り組み

 子どもたちの人格形成の基礎が培われる幼少期の主権者教育においては、家庭や地域を対象として行う取り組みも重要な役割を担っています。

<主権者教育に有効な取り組みの例>
・保護者向けの学習機会の提供
・PTAと学校が連携して開催する親子参加型の行事
・家庭や地域を対象とした組みが必要

 子どもたちの主権者教育を充実したものにするには、まず保護者を含む地域全体がその重要性を理解することが大切です。

主権者教育の課題

 今後、推進が期待される主権者教育には学校教育における課題も残されています。

 文部科学省が令和元年度に行った調査では、「主権者教育を行った」と解答した学校が全体の9割以上との結果が出ている一方で、「現実的な政治的事象についての話し合い活動(平成27年通知)を実施した」と解答した学校は3割強に留まっています。

 また、指導にあたり選挙管理委員会や地方公共団体、NPOなどとの連携に関しても5割弱が「連携していない」と解答。

 そのほか、子どもたちが多面的かつ多角的に政治的事象や現実社会の課題について考察を深めるために、情報の収集・解釈のスキルや公正な判断力といったメディアリテラシーを育成しなければならない課題も残っています。

変化する主権者教育のカタチと求められる連携

 選挙権年齢が引き下がったことや若者の投票率が低下し続けていることを踏まえ、これまで以上に主権者教育の重要性が高まっています。年々低下する投票率を上げるためには、子どもたちが社会で起きている問題や政治に対し興味・関心を持つことから始めなければなりません。

 学校教育においては、総務省や文部科学省が提供する教材・副教材を活用しつつ、教科間での連携や参加型学習の導入によって社会問題に対する理解や政治的判断力の育成を目指します。加えて、子どもたちが幼少期のうちから社会とのかかわりを意識できるような学習機会やイベントの実施・支援も重要です。

 効果的な主権者教育の推進・定着には、学校での教育のみならず、家庭や地域を巻き込み社会全体が連携して取り組むことが肝要といえるでしょう。

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