震災の記憶と教訓を「目に見える証」に遺す
12面記事気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館
被災した校舎を保存
2011年3月11日に発生した東日本大震災による大津波と大規模な火災は、気仙沼市において震災関連死を含む死者1152人、行方不明者214人に上る最大級の悲劇をもたらした。
気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館は、震災の記憶と教訓を将来に伝え警鐘を鳴らし続ける「目に見える証」として2019年3月に開館した施設だ。津波で4階まで被災した宮城県気仙沼向洋高校の旧校舎を「震災遺構」として保存し、展示や研修会場を備えた「震災伝承館」を併設する。
見学の一般的な流れは、震災遺構の見学前後に震災伝承館で映像や展示で学ぶ形をとる。所要時間は約60~90分。
まず、震災時や直後の映像、地震・津波の脅威と爪痕を展示で知った後、震災遺構である旧校舎に入る。津波で破壊された校舎内の様子や、4階の津波到達地点まで見学する。屋外では破壊された西側の壁面、津波で流され折り重なった車など、ありのままの姿で残された津波による被害を知ることができる。
復興の歩みを学ぶ
その後、再び伝承館へ戻り、救助や捜索、避難所の様子や仮設住宅での生活など、震災後の取り組み、復興の歩みを学ぶ。命の大切さを語る被災者の想いが込められた15分間の映像上映も行う。見学の最後には来場者が「感じたこと・伝えたいこと」を付箋に自由に書くスペースを設けている。修学旅行生など震災学習の際はおすすめのコーナーとなっている。付近には震災関連の図書コーナーも設置されており閲覧が可能だ。
震災遺構として保存されている気仙沼向洋高校は、情報海洋科、産業経済科、機械技術科を設置する伝統校。海から500メートルの位置にあり、日頃から防災意識の高い学校だった。震災当日は校舎に約170人の生徒がいたが、教員や生徒の瞬時の行動により一人の犠牲者も出さず全員無事避難できた。近隣の他校や仮校舎での教育活動を経て、2018年より新校舎への移転が完了している。
旧校舎を活用した震災遺構は展示や遺構見学だけでなく、体験プログラムも用意している。「語り部ガイド」は、震災の記憶の風化を防ぐ取り組みとして地域の語り部「けせんぬま震災伝承ネットワーク」と共同で行う。被災当時の写真を解説し、また、気仙沼市全体の話や屋上からの眺望を解説しながら見た人の心に残り、防災意識の向上につながるガイドとなっている。地元中高生の語り部ガイド育成にも力を入れる。
そのほか予約制で「防災セミナー」「ふりかえりワークショップ」など、学びをより深めるプログラムも用意しており、修学旅行や校外学習にも活用できる。
今年は東日本大震災から10年の節目にあたり、3月2日(火)から4月4日(日)までメモリアルイベントを開催する予定。特別フォーラムや語り部ガイドによる館内案内、クイズラリーなど、見学しながら防災意識を高められる企画を準備中だ。
新学習指導要領では防災・安全教育が重視されており、いかなる状況でも児童生徒が自らの命を守り抜くとともに、安全で安心な生活や社会を実現するために主体的に行動する態度を育成することが不可欠だとしている。同館での学びは子どもたちの「生きる力」を育むうえでも重要な役割を担っている。