学校施設の改善を加速する
10面記事第3次補正予算、21年度予算で防災機能の強化を
これからの学校施設はSociety5・0時代に適応した人材を育成するため、少人数授業や課題解決型学習など多様な学びのスタイルに応える高機能化を図っていくことが求められている。また、一方では安全・安心な学校づくりに向けて、計画的かつ効率的な長寿命化改修や、災害時に備えて防災機能を強化していく必要も生まれている。そこで本特集では、このような令和時代のスタンダードな学校施設のあり方や最新事例を紹介する。
政府が一体になって進める長寿命化へのシフト
現在の学校施設が抱えるもっとも大きな課題は、公立学校の約7割に進行している老朽化だ。この対策として文部科学省では、従来のように建替していくには財政上困難なため、建物ごとに長寿命化計画(個別施設計画)を策定し、計画的・効率的な保全・改修を図ることでライフサイクルを伸ばすことを打ち出している。
これにより、中長期的な維持管理等に係るトータルコストの縮減および予算の平準化を図りつつ、安全・安心な施設環境に改修するとともに、教育環境の質的改善を進めていく方針だ。
また、もう1つの課題になるのが、災害時に向けた防災機能の強化になる。なぜなら、公立学校の9割は地域の避難所として指定されているからで、避難者の生活拠点となる体育館を中心に耐震対策や必要な設備の整備が急がれている。
こうしたことから、文部科学省は全国の自治体が長寿命化のための計画・改修を速やかに実施できるよう、補正予算で1千億円強、今年度予算で約4千億円を確保。政府も「国土強靱化のための3カ年緊急対策」の重点課題として、学校施設の耐震化・防災機能強化に1千億円を計上した。
さらに、昨年は新型コロナの蔓延によって学校が休業になる不測の事態を招いたことから、再び感染が拡大した場合に備えて、オンライン授業を可能にする「GIGAスクール構想」の前倒しや、感染症対策となる設備・備品の導入を後押しする予算も手当てしているところだ。
快適な学習・教育環境に向けて予算を拡充
このような学校施設を取り巻く課題への対応が急ピッチで進められる中、文部科学省は来年度(2021年度)の概算要求でも、引き続き予算を拡充している。公立学校施設の整備では、1295億円(前年度695億円)を要求。内訳としては、「新しい生活様式」も踏まえ、健やかに学習・生活できる環境の整備として、教室や給食施設の空調設置のほか、トイレの改修(洋式化・乾式化)、給食施設のドライシステム化や災害時への対応(都市ガス、プロパンガスの2WAY化)を。個別最適化した学びを実現する施設環境の整備として、バリアフリー化工事への補助拡充、特別支援学校の整備、1人1台端末環境への対応を。多様な学習活動に対応する施設環境の整備として、施設の複合化・共有化、オープンスペースなど自由度の高い空間を整備して学習に有効活用するなどの内部改修を挙げている。
また、国立大学・高専等施設の老朽化対策に820億円(前年度361億円)を要求。老朽化した大学等の教育研究施設や高専の校舎・学生寮等のインフラを、戦略的リノベーション等により計画的・重点的に整備する。
私立学校も、施設・設備の整備に349億円(前年度249億円)を計上。公立校に比べて遅れている非構造部材の落下防止対策などの耐震化や、感染症対策を含む空調設備・換気設備を備えた教室の整備、高等学校のICT環境整備など、教育研究基盤となる設備・装置の整備を推進するとともに、私立幼稚園施設や認定こども園施設についても耐震化の予算を増額している。
コロナ下の学びを保障する感染症対策も
一方、今回の概算要求では、新型コロナを乗り切り、「新たな日常」を実現するための施策も重視されている。学校では基本的な感染症対策と学びの保障に取り組んでいるが、感染症対応が長期化する中で、実際行っている個々の感染症対策が地域の感染状況や最新の知見等に照らして適切かどうかについて判断できる専門家がいない、リアルタイムに情報を得ることが困難、消毒液等の保健衛生用品が継続的に必要などの課題が生じているからだ。
そのため、学校における感染症対策の充実として169億円を計上。保健衛生用品の購入費や校舎消毒作業に関わる費用の補助とともに、感染症対策の専門医等の派遣、学校等欠席者・感染症情報システムの充実、特別支援学校のスクールバスの増便等を支援することを挙げている。
また、こうした感染症への対策としては、環境設備面だけでなく、補習・感染症対応等のための学習指導員、スクール・サポート・スタッフの活用などの人的支援や、ポストコロナの「新たな日常」を支える新技術開発などの研究活動の支援としても別途予算化されている。
加えて、令和時代のスタンダードな学校施設の実現に向けては、少人数によるきめ細かな指導や多様なカリキュラムに対応した環境整備が必要になる。したがって、専科教員や働き方改革を実現するための教員の加配とともに、ICTを有効に活用できる環境を整備するための予算も要求している。
国土強靭化を新たに5カ年計画で加速
さらに、政府が2018年から実施してきた「防災、減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策」が終了することを踏まえ、新たな国土強靭化計画である「5カ年加速化対策」の取りまとめが進められている。その予算は3カ年緊急対策の7兆円を大幅に上回る15兆円規模となる見込みで、その中では重点課題となっていた学校施設の防災機能の強化も引き続き含まれる予定だ。
こうした中、昨年12月15日に閣議決定した2020年度の第3次補正予算では、衛生環境改善や耐震対策、老朽化対策、防災機能強化等の整備を推進するための予算として、新たに2365億円が計上された。内訳としては、公立学校等1305億円、国立大学・高専等670億円、私立学校95億円、認定こども園150億円などになる。
また、Society5・0時代に不可欠な情報基盤整備をより一層加速させるため、「GIGAスクール構想」による小中学校1人1台端末の整備を高等学校にも拡充する予算として259億円、専門高校や大学の高度なデジタル化環境整備に334億円を盛り込んだ。
課題は体育館へのエアコン整備
子どもたちが快適に学習できる学校施設の改善として、ここ数年で一気に進展しているのが、普通教室へのエアコン整備になる。文部科学省が昨年9月に公表した公立小中学校等(小、中、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校、幼稚園など)の冷房設備設置率では、普通教室は93%に達しており、特別教室も57%まで伸びている。また、高等学校の設置率も87%、特別教室は46・8%と前年度より向上している。これは、熱中症への緊急対策として2018年度の補正予算が計上されたことが大きな要因として挙げられるが、10年前の設置率は2割にも満たなかったことを考えると大きな進展といえる。
その一方、学校の体育や避難所として利用する体育館の冷房設備設置率は、前年度の3・2%から9%に伸びているが、まだまだ整備が追いついていない。体育館のような広い空間にエアコンを設置するには大規模な工事が必要になるとともに、電気代や維持管理に係る費用も想定しておかなければならない。したがって、財政に余裕のない自治体にとっては、なかなか手を出しづらいのが実情だ。
それでも、年々猛暑が厳しくなっていることから、東京都を筆頭に設置費補助事業を推進する自治体も現れており、自治体によっては工場などで使用する大型扇風機やスポットクーラーなどを導入する動きが活発になっている。
防災機能の強化も含めた計画的な改善を
体育館でいえば、天井落下防止などの耐震化対策が未整備な地域も残っているほか、避難所機能としての多目的トイレやマンホールトイレの整備も急ぐ必要がある。とりわけマンホールトイレは、日頃の訓練等で設置の仕方や給水の方法などを確認し、いざというときに使えるように準備しておくことが大切だ。また、非常時の連絡手段となる公衆Wi―Fiなどの整備や、新型コロナに対応したゾーニングの工夫や感染症対策となる機器や備品も備えておかなければならない。学校の老朽化対策には、このような防災機能の強化という視点も含めて改善を実施していく、自治体の計画的な施策が求められている。