電子黒板用PC、教室常設型という選択(後編)
10面記事エプソン社員による解説を聴く赤堀氏
学校のICT化が進み電子黒板を導入する学校が増えている。ICT化で教育の質を高めるべく研究や意見交換を行っている一般社団法人ICT CONNECT 21会長 赤堀侃司氏(専門:教育工学)が、エプソンスクエア丸の内のショールームでエプソンの電子黒板を体験。エプソン販売(株)販売推進本部PCMD部部長・鈴木衛氏と、GIGA環境で変化する学校教育における電子黒板への期待などについて意見を交わした(以下敬称略)。
赤堀 侃司 一般社団法人ICT CONNECT 21会長
「皆で画面を共有する」教育的意義
赤堀 エプソンさんの電子黒板を体験させていただきました。クリックできる場所に電子ペンを持っていくとカーソルが「指」マークに変わる機能など、デジタル教科書仕様に細やかに作られていますね。
鈴木 「マウスホバリング」ですね。デジタル教科書は隠れたリンクが多いので、的確に大きく示すことができると好評です。
赤堀 「大きく示す」のは授業ではとても大事なこと。ある中学校で理科の先生が「蒸留」の単元で、デジタル教科書に載っているさまざまな物質の沸点の表を抜き出して電子黒板に大きく映したところ、とたんに「水を蒸発させればエタノールを取り出せるのでは?」と、生徒がひらめいたそうです。
鈴木 目からの情報が発想を広げたのですね。
赤堀 皆で画面を共有することそのものにも意義があります。自分のPCのディスプレイを見るのと、スクリーンに投影された映像を皆で見ることの違いについて研究したところ、後者のほうが集中力や認知力が増すという結果も出ていますね。
鈴木 1人1台PC導入で授業のあり方も変化するのでしょうか。
赤堀 授業の最初に先生が「ねらい」を示し、授業中盤では子どもがPCなどで自己対話しながら調べたりグループ学習をしたりし、授業の最後に先生が「まとめ」をする、という形は変わりません。ねらいとまとめを電子黒板を用いてしっかりと提示することで、学びが構造化され、推測したり意見を述べたりできるような深い知識になります。授業の中盤でも、先生がポイントを伝えたいときに電子黒板は役立ちます。視覚で効果的に説明や比較ができる点がよいですね。
電子黒板は子どものポテンシャルを増幅させる
赤堀 エプソンさんが「1人1台PC導入で下向きになった目線を電子黒板で上向きにしたい」というビジョンを持っていると知り、共感しました。下を向くことは、孤独になるということです。コロナ禍で小中高生が再認識したのは、学校は人と人とがつながり合える場所だということ。「考え方の違いを認め合う」ことは学校教育の本質的な意義です。電子黒板は子どもと子ども、また子どもと先生をつなぐツールになると思います。
鈴木 電子黒板を導入いただいた教育委員会へのアンケートでは、「友達や先生と活発にやり取りできた」「友達の考え方や意見を知り自身の考えを見直すことに役立った」という感想が目立ちました。
赤堀 先生方が自身の授業モデルを変えるヒントにもなるのではないでしょうか。ある小学校低学年の先生が、指示した教科書のページを開けてくれない児童がいると悩んでいましたが、プロジェクターでそのページを大きく写したら、すぐに教科書を開いてくれたという例があります。子どもが指示されたページを開けられていないのに、授業をどんどん先に進めていたことにも気づいたそうです。
子どもには優れた学習道具として電子黒板を使わせてあげてほしいですね。鹿児島の中高一貫校で行われた「北方領土をどう活用するか」というテーマのオンライン授業を見ましたが、生徒が電子黒板を使い、現地の行政担当者に根拠を示しながら実に新鮮で現実的な提案をしていました。電子黒板は子どものポテンシャルを増幅させる装置なのだと実感しました。
鈴木 今後ICT機器メーカーに期待したいことはございますか。
赤堀 コンテンツがすべて入っていてすぐに使える常設PCが黒板とセットになっていて、しかもPCは非常にコンパクトでプロジェクター裏に格納できるのには感激しました。1人1台PCを配備して終わりではなく、電子黒板、ネットワークなどが共存してこそ、これから目指すべきハイブリッド型の教育が構築されていくはずです。現場志向のエプソンさんに今後も期待しています。