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ジレンマの社会学

15面記事

書評

三隅 一人・高野 和良 編著
簡単に答えの出ない課題と向き合う

 評者がかつて民生委員を拝命し高齢者の見守りをしていた時、一番の課題が「親切とお節介」のジレンマだった。仲間たちも同様の悩みを語っていた。本書を読みたかったのも、そんな前提があったからでもある。われわれの生きてゆくこの社会はジレンマに満ちた世界と言っても過言ではないからだ。
 本書はそもそも、社会学を学ぶ学生のための教科書である。それ故、体裁も学ぶ目的、キーワードの提示、行動を促す問い掛け等、分かりやすく構成されている。加えて、4部、16章仕立ての内容も大学の講義時間を意識しているのだろう。いずれにせよ、課題と問題点が小見出しで明確に示され読み進める上で有益・有効である。
 一例を挙げよう。第II部(家族のジレンマ)の三つ目はLGBTが取り上げられている。一般論を言えば、第三者は寛容な態度を取れるだろう。直接関わりがないからだ。だが、家族であったらどうなのか、そして、同性婚やパートナーシップ制度に対する法的な対策など、一筋縄ではいかないジレンマの姿が浮かび上がる。簡単にはいかない課題が山ほどあることを他の事例でも本書が突き付けてくる。
 改めて思う。コロナ禍の今、じっくり考える時間はあるのだ。いろいろなジレンマの存在に自分なりの答えを模索するのもいいかなと。
(3080円 ミネルヴァ書房)
(八木 雅之・元公立小学校校長)

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