コロナ禍で始まった小学校理科・プログラミング教育
9面記事IT人材の育成として期待されるプログラミング教育
Society5・0社会を生きるために必要な資質・能力を子どもたちに育むことを目的に、今年度、小学校から完全実施を迎えた新学習指導要領ではプログラミング教育が必修化された。
その中で、総合的な学習の時間や算数と並んで主要教科となる理科は、第6学年・電気の利用で「センサーを活用したプログラミング」が教科書に掲載されるなど、プログラミング的思考を育む教科の1つとして取り組みが推進されている。
情報化が進んだ現代では、日常生活の身近な部分までプログラミングが使われており、仕事や暮らしに活かすことで便利で快適な社会の礎を築いている。子どもたちがその存在や仕組みを理解することは、もはや生きる上で欠かせないスキルといってもいいだろう。
また、産業界もこうしたプログラミング教育に対する期待の声は大きい。IT活用が今後の日本の経済成長や社会課題解決のカギを握る中、その担い手となるIT人材の育成強化が重要課題になっているからだ。さらに、先端教育機構が今年4~6月、都道府県・市区町村の首長に向けて実施したアンケートでも、約9割が小学生からのプログラミング教育に前向きという結果が出ているなど、官民通じてこれからの時代に必要な知識として認知されている。
論理的思考力やよりよい社会を築く態度を育成する
その上で、小学校段階での学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは、プログラミング言語を覚えたり、プログラミング技能を習得したりといったことではなく、論理的思考力を育むとともに、プログラムの働きや情報化社会がコンピュータを始めとする情報技術によって支えられていることに気づき、身近な問題の解決に主体的に取り組む態度や、コンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むことにある。
文部科学省では、このような小学校・プログラミング教育が新学習指導要領の中で円滑に実施されるよう、これまでの移行期間を通じてモデル校による実践事例を広めたり、研修教材を作成したり、プログラミング教育推進月間を設定したりと準備を進めてきた。
その甲斐もあり、今年1月に公表した「令和元年度・市町村教育委員会における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査」の結果では、小学校プログラミング教育の実施に向けて、約93%の教育委員会が、令和元年度末までに各校に1人以上、教員に実践的な研修を実施したり、教員が授業の実践や模擬授業を実施済みだったり、実施予定と回答するまでになっている。
授業数削減の中でも、協働的に学ぶ取り組みの重視を
しかし、いざふたを開けてみると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた休校措置や分散登校で授業に遅れが生じたことにより、その回復に努める学校現場では、準備や実践に時間がかかる「プログラミング」授業が思うように実施できなくなる懸念が高まった。
そこで、文部科学省は6月5日に発表した「新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の「学びの保障」総合パッケージ」で、個人でも実施可能な学習活動は授業以外の場で実施し、協働学習など学校でしかできない学習活動に重点化して指導を行うことで、新学習指導要領が目指す学びを着実に実現することを呼びかけている。
一方、プログラミング教育を推進する官民協働の「未来の学びコンソーシアム」では、家庭学習を含む自宅等でも、プログラミングの基本的な操作等の学習に取り組みやすいコンテンツを作成した。
「お家で学ぶはじめてのプログラミング・Scratchのはじめ方」では、子どもが初めてでもプログラミングができるようにわかりやすく解説。「ねこを動かしてニャーと言う」プログラムと、「アルファベットを動かしたり、色を変えたり、音を鳴らしたりする」プログラムが作れるようになっている。また、「Scratchで、ねこから逃げるプログラムを作ってみよう」は、マウスでねずみを動かして、動いているねこにつかまらずに家までたどり着いたら成功、ねこにつかまったら失敗というプログラムが作れるようになっている。
さらに、企業が無料提供する、自宅等で学習することを想定した子ども向けのコンテンツも多数公開している。
小学校理科でのプログラミング教育~第6学年「電気の利用」から~
小学校理科において、プログラミングを体験しながら論理的思考力を育むための学習活動には、前述した第6学年「電気の利用」での実践がある。ここでは、日常生活との関連としてエネルギー資源の有効利用という観点から、電気の効率的な利用について捉えることがめあてになっている。
授業では、最初に「人が来たときだけ点灯する玄関のライト」など、身の回りには人感センサーなどを使ってエネルギーを効率よく利用している道具があることに気づかせる。そこから、実際に「人が来たら点灯し、人がいなくなったら消灯する」など一連の動きをセンサーで制御するためのプログラミング活動に移る。これによって、自分たちが意図した動きができたかどうかを確認した後で、もう一度自分たちの生活に目を向け、電気を効率よく利用することについて考えさせることで、学習内容への理解を深めることがねらいになる。
もちろん、他の単元でもプログラミング体験を取り入れることは可能だが、そこには学習内容と関連付けることが大切になる。たとえば、この「電気の利用」の実践では、エネルギー資源の有効活用という視点が一貫していることが重要になるのだ。
また、新学習指導要領・理科では、これまで以上に課題解決型学習を重視していることから、個人が主体的に考える姿勢を大事にしながらも、仲間と協働しながら解決手段を見つけ出していく学習のあり方が求められる。その意味で、たとえ1人1台端末が整備されたとしても、個々がずっとプログラミングしているような授業はふさわしくないといえる。
仲間と一緒に学ぶ楽しさをプログラミング教育で
一方、こうした授業を5年や6年でいきなり始めようと思っても、ある程度のプログラミングの基本知識や技能がなければ難しいのも事実だ。文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引き」では、教育課程内で各教科等とは別に実施することも示されているため、できればその前の学年の段階からプログラミングの基礎に触れておく工夫が必要といえる。何より、プログラミング的思考は一度で身につくものではなく、何度も失敗したり、創意工夫したりして、徐々に身についていくものだからだ。
このような論理的思考力を育むことは、これまでの知識詰め込み型の教育では難しいといわれてきた。そうした点でもプログラミング教材を活用した授業には、子どもたちが夢中になって考え、仲間たちと相談しながら取り組める魅力があり、主体的で対話的な深い学びにつなげるには、まさに打ってつけの素材であるといえる。
コロナ禍による休校など閉塞感がつきまとう中で、あらためて仲間と一緒に学び合うことのすばらしさが見直されている。だからこそ、ぜひ先生方には「プログラミングは楽しい」と思えるような授業を実践し、子どもたちの笑顔を教室に取り戻してほしいと期待する。