コロナ時代の英語教育の取り組み~小・中学校の現場から~
8面記事新型コロナの影響によって学校のあり方自体を考えさせられているいま、現場では、これまでの取り組みを生かしたアイディアや時代の流れを受けた新たな試みで学びを深める工夫がなされている。さらに、小学校はまさに新学習指導要領全面実施の年でもある。本特集では、小学校と中学校の取り組み例を紹介する。
地域でのノウハウ共有と自己調整学習力を高める指導
服部 晃範 静岡県菊川市立小笠北小学校教諭
Withコロナでもできるアクティビティ集を作成・配布
コロナによる感染の広がりがピークアウトし、いよいよ学校再開がみえてきても、英語専科の私にとっては依然不安の方が大きかったです。というのも、学校が再開したとしても、児童同士のコミュニケーション活動がかなり制限された状態で英語の授業を行わなければならないことが明白だったからです。
小学校では、「話す・聞く」が学習の中心になってくるので、どのようにして子どもたちが話したり聞いたりする機会を保障できるのかが重要でした。また、今年度は新学習指導要領スタートの年。市内の多くの学校で同じ悩みを抱えているであろうということも容易に想像できました。私自身、地域の英語教育を推進していかなければならない立場であるので、各学校の授業の中で利用可能なアクティビティをまとめようと思い、作成に取りかかりました。
作成の際には、「密集して長時間活動するグループ活動はしない」「向かい合った近距離の対話活動は行わない」といった制約をクリアできるもので、担任の先生でもあまり負担なく授業に取り入れられるものという点を考慮しました。最終的に20個のアクティビティを選び、留意点やアレンジ例とともにまとめました。
作成したアクティビティ集は、学校再開後に活用できるように学校再開前にメールで市内の全小学校に配布しました。これが少しでも担任の先生方のコロナ禍における英語の授業づくりの参考になればと思いますし、今後も英語専科の自分だからこそできる情報の発信を続けていこうと考えています。
対話的な学習を行いにくい今だからこそ自分で考える力を鍛える
英語の授業に限らず、グループで教えあったりする活動もまた行うことが難しくなっています。そうした中で私が最近心がけていることは「一人一人がどのように学習したらいいのかを自分自身で考えられる力をつけること」です。とはいっても「自分で考えて学習しなさい」と言うだけでは多くの子どもは動くことができませんし、何も考えずにがむしゃらに頑張るのではなくて単元でつけてほしい力を身に付けるための努力をしてほしいところです。
そこで私が活用しているのが、単元終末の言語活動でパフォーマンス評価をするためのルーブリックです。Unit1では、単元終末の言語活動「自己紹介をしよう」の子どものパフォーマンスを教師が評価するためにこれを用いていました。Unit2以降では単元中盤でルーブリックを子どもに渡し、子ども自身が目標を立てたり、形成的に自分自身の学習を評価したりするための指標として活用できるようにしています。
これにより、「この前は詳しく話せていなかったから、今回はもっと自分のことを伝えられる内容にしたい」や「どうしても下を見てしまうから、今回は目線を意識してもっと伝えようとしたい」といったよりよいパフォーマンスを目指して学習に取り組む子どもが少しずつ増えてきています。
今後はこうした子どもたちのよりよい学習の仕方を学級内で広めたり、価値づけたりしていく中で、子どもたちが自分自身で学習していく力を高めていければと考えています。
インターネット・自律を合言葉に新たな学びの形を積極的に提案
江澤 隆輔 福井県坂井市立三国中学校教諭
コロナにより私がもっとも苦心したのが、学習保障です。学校に集まることができない状況の中、どうやって授業を届ければいいのか、すごく悩みました。私たち教師の仕事は数え切れないほど多く存在します。しかし、その根っこ、言い換えれば私たちのアイデンティティとも言える部分は授業なのです。その大事な授業ができない状況は、教師としての心が大きく揺らぎました。そして、それは今でも続いています。そこで、いつまたコロナの感染状況により休校になるか分からない中、私の行っている取り組みを紹介したいと思います。
授業動画や勉強方法をYouTubeで配信
私は英語の授業を自宅で撮影・編集し「現役教師系YouTuberえざわ先生」として動画を投稿しています。1年生の4月に見てほしい、習熟してほしい内容から始めて、5月分・6月分と時系列で順番に撮影・投稿しています。
また、並行して「英単語の覚え方」「英作文の作法」などといった勉強方法も投稿しています。さらに、同じように教員をしながら授業動画を投稿している全国の先生とコラボして、勉強の楽しさも伝えるようにしています。
これにより、生徒たちは学校で学習した内容を自宅でもう一度視聴できるので、授業の復習ができるようになりました。何より、学習内容を3年分投稿することができたら、次にいつまた休校になっても生徒たちの学びが止まることはないでしょう。
このYouTube投稿の活動を学校全体での取り組みにすることにはいたっていませんが、5Gの時代を目前に控えている今、オンラインとオフラインの「いいとこどり」での学習・教育の時代は必ず来ると信じています。
英語の授業の観点から考えると、自宅でできることは自宅で学習し(文法事項の理解)、友達が集まってくる学校でしかできないことを学校で行う(自宅で動画をみて理解した文法を使って、友達とコミュニケーションしてみる)ようになると思っています。そんな時代の手助けができたらとも思い、動画の投稿を続けようと思います。
自律的な学びを促すレファレンスブック
また、英作文の習熟のためのレファレンスブックを作成し、生徒たちがその冊子を見れば正しい英文を作れるようにしました。以前は、生徒たちが作った英作文を添削し合い、教え合いを行っていましたが、学校内での話し合い活動の制限で難しくなりました。そこで、「これさえ調べれば、自分の言いたいこと、表現したいことを正確に英作文できる」というレファレンスブックを独自に作成し、生徒たちに活用させています。英文を12のパターンと3つの区分(一般動詞を使うA区分・Be動詞を使うB区分・存在を表す英文のC区分)に分けて、語順を明示することで、生徒たちは友達との話し合いなどを極力減らしながら、英文を正確に作れるようになりました。このレファレンスブックは、3年分の形容詞や一般動詞、副詞、その他英作文をする上で気をつけるべきことや、過去出題された問題なども収録しており、生徒たちの自律性も養う一助となっています。
最後に、コロナ禍での教育はインターネットや自律がキーワードになってくると思い、このような取り組みを行っています。しかし、それと同時に学校でしかできないことを学校が行うことも大切ではないでしょうか。生徒たち同士のふれあいや先生たちとの関わりなど、コロナ禍の中でもできることをこれからも続けていこうと思っています。