個別最適化された学びの概念とその実現に向けた取り組み
トレンド情報通信技術(ICT)の活用が当たり前となった現代社会において、時代や諸外国に取り残されることなく、ICT教育を取り入れた「個別最適化された学び」の需要が高まっているのは明らかです。
令和元年に文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想では、ICTの活用によって生徒だけでなく教員の力を最大限に引き出すことも目的とされています。
これからの学校教育で欠かせないものとなるICT教育に対応するためには教育者としてビッグデータやAIの活用など、個別最適化された学びを実現するための取り組みやポイントを押さえておくことが重要です。今回は個別化された学びやGIGAスクール構想の概念、個別最適化された学びを実現するための取り組みについて解説します。
個別最適化された学びとは
個別最適化された学びとは、文部科学省が目指すべき次世代の学校・教育現場として掲げた教育のスタイルを指します。
一人ひとりの理解状況や能力・適正に合わせた個別最適化された学びを行うことで、発達障害を持つ子どもや日本語指導が必要な子ども、特異な才能を持つ子どもなど多様な子どもたちが誰一人取り残されることがないようにするのが目的です。
令和元年に文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想では、貧困や虐待を早期に発見することを含め、「全ての子どもたちが安心して学べる機会につなげることの重要性」が説かれています。
ICT機器の活用で個別最適化された学びを目指すGIGAスクール構想
個別最適化された学びのベースはICT機器を活用した教育方法です。
GIGAスクール構想では、1人1台の端末や高速大容量の通信ネットワーク、デジタル教科書などのコンテンツを用いて外国人の児童・生徒や特別な支援が必要な子どもを含め、誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びを目指します。
1人1台端末の環境によってメリットを享受するのは生徒だけではありません。授業中に教員もICTの活用によって恩恵を受けることが期待できます。
・生徒一人ひとりの反応を確認できるようになる
・教育指導の質を向上できる
・業務負担を軽減できるなど
参考:GIGAスクール構想の目的とは? 予算や環境整備、指導者に求められるポイントを解説
個別最適化された学びの実現に向けた取り組み
公正に個別最適化された学びが求められていることを理解したうえでさらに重要となるのが実現に向けた取り組みです。
児童・生徒一人ひとりに応じて行う個別最適化された学びの実現には多様な協同学習のためのパイロット事業(試験事業)の展開やスタディ・ログの活用などが求められます。加えて、適切な指導を行うために必要な教員の指導力向上、教員への経験知の引き継ぎなども欠かせない取り組みの一つといえます。
スタディ・ログの活用
個別最適化された学びの実現には児童・生徒の学習状況を的確に把握することも大切です。
たとえば、スタディ・ログ(学習履歴)を含む教育ビッグデータを活用し、学びのポートフォリオとして電子化・蓄積すれば、教員が生徒一人ひとりの理解状況や能力、適正を把握することができるだけでなく、生徒自身が自らのデータを活用したり、学力定着を促したりするといったことも期待できます。
さらに、AIによってスタディ・ログを分析すれば、生徒一人ひとりに合わせた教材の提供も可能になり、より個別最適化された学びの実現が可能です。
学習環境の個別最適化
児童・生徒一人ひとりに合わせた学習環境の提供も個別最適化された学びの実現のために重要な要素です。
英語力に応じた異年齢・異学年集団の協同学習のように、年齢や学年ではなく、子どもの能力に合わせた学習環境の提供、アドバンスト・プレイスメント(早期履修プログラム)や飛び入学、早期卒業等の活用を促すことで、より生徒に寄り添い個別最適化された学習環境の実現が期待できます。
この取り組みと同時に苦手科目では下の学年の内容を学ぶことができるようにすることや、学外での幅広い学びのための休学・ギャップイヤーの活用を促すことも必要です。
教員のきめ細やかな指導
ICT機器や生徒一人ひとりに合わせた学習環境を整えても、教員の指導力が伴わなければ、個別最適化された学びの実現には期待できません。
文部科学省では、教育課程や教員免許、教職員配置といった一体的な制度の見直し、さらに研修や情報モラル教育など教員のICT活用指導力向上に向けたハード・ソフト両面での教育改革に取り組むことを提言し、情報教育指導充実事業として6億円の予算を割り当てています。
国の教育改革に加え、ベテランから若手教員への経験知の引き継ぎやビッグデータを活用した新たな知見の生成など、個々の子どもに応じたきめ細やかな指導を実現するためには教員同士の連携も欠かせません。
個別最適化された学びに必要なICTの活用と教員の指導力向上
タブレット端末や高速通信ネットワークの設置、ビッグデータなど先端技術を活用したICT教育は、Society 5.0時代を生きる多様な子どもたちの能力を最大限に引き出す新たな時代の教育を支えるスタンダードとなっていくはずです。
先端技術やデータの活用だけでなく、個々に合わせた環境整備、教員同士が連携し、指導力の向上を図ることで多様な子どもたちを誰一人取り残すことない個別最適化された学びを実現することが求められます。