「GIGAスクール構想」一人1台端末導入後の教育について考える <前編>
8面記事当初、2023年度中を目標としていた児童生徒への一人1台の教育用PC配備が2020年度中に前倒しになった。端末を活用した今後の授業について、ICTを活用した授業デザインの研修「Intel(R) Teachプログラム」を20年にわたり提供してきたインテル(株)の執行役員 井田晶也氏と、ICTを活用した授業改善の取り組みにより鳥取県のエキスパート教員に認定され、現在鳥取県教育センターでGIGAスクール構想の実現やICT活用推進を担当する岩崎有朋氏に話を聞いた。
井田 晶也 インテル株式会社執行役員(パートナー事業本部本部長兼クライアントコンピューティング事業統括)
子どもの可能性を切り開く学習環境を
インテルは、半導体メーカーとして培ったテクノロジーで人々の生活を豊かにするという理念をもとに、日本の教育レベルの底上げに貢献すべく、20年ほど前から教育現場のICT化に取り組んできました。
当社の教育への取り組みには、大きく3つの注力ポイントがあります。
1つ目が一人1台PCの環境整備です。GIGAスクール構想における私立および公立の高等学校での生徒用PC端末の整備に加え、セキュリティ面も考慮した教員向けICT環境整備の推進をエコパートナーと連携して行っています。生徒のPC環境が整っても、先生方のICT活用の土台が整っていないと授業や評価に支障が出てしまいかねません。そこで当社では、先生方へのオンライン授業のノウハウの提供や、岩崎先生のお話にもある、鳥取県岩美町でのインテル(R) Core(TM)プロセッサー・ファミリー搭載Chromebookでの実証実験も行っています。
2つ目は、一人1台の端末を活かした次世代教育の支援強化です。主軸となるのがIntel(R) Teachプログラムです。Intel(R) Teachは、プロジェクト型学習をベースに課題を探究して答えを見い出したり、友だちと協働して課題を解決する力をつける「思考支援型」の授業設計方法や指導、評価、効果的なICT活用を学ぶプログラムであり、随時カリキュラムの刷新も行っています。これからの時代を豊かに生きる子どもを育てるには、コミュニケーションやコラボレーション力、情報活用能力、創造性といった「21世紀型スキル」が不可欠です。これまで国内累計4万人の先生方が受講され、マスターティーチャーとして先生方に研修や授業ノウハウを広めている方もいらっしゃいます。
3つ目は、教育のDX及びDcX―デジタル化とデータ利活用による変革の推進です。校務のICT活用による生産性や教育の質の向上、AIを活用した指導アドバイスや、画像・データ解析などの最新テクノロジーを生かし、子ども一人一人に合った細やかな指導法の提示など、技術の切り口から教育の向上を支援します。
すべてを通して目指すのは教育格差をなくすことです。ICTで子どもの可能性を切り開ける環境をつくり、家庭、地域、学校間、ひいては国と国との間で受ける教育レベルの差をなくしていくことを目指します。そのためにも現場の先生方に信頼いただけるアドバイザーとして、今後も支援を続けていきたいと思います。
岩崎 有朋 鳥取県教育センター教育企画研修課係長
人間性を高める問題解決型学習~PBLを通して授業を変えていく~
私がIntel(R) Teachプログラムに参加したのは10年ほど前です。「問題解決型学習(PBL)にぴったりで、教員研修にも使える!」とその内容に強く惹かれ、岩美町立岩美中教員時代にはIntel(R) Teachのマスターティーチャー養成研修も受講。授業づくりの講義やディスカッションを2日間みっちり行う内容で、生徒の思考力を鍛える授業、テクノロジーをうまく組み合わせた授業の未来像を描くことができました。特に刺激を受けたのは授業での問いかけ方。Intel(R) Teachでは、本質的な質問、単元質問、内容質問という3つの問いを立て、社会的な課題につながる本質的な問いを最初に投げかけます。これが最初、私には難しく―教えてから問うことに慣れすぎていたのです。
例えばレンズの学習では、授業冒頭に「レンズのしくみは私たちの生活をどのように豊かにしているのだろうか?」と、大きな問いかけをしてから、グループごとに紙製プロジェクターを手作りさせました。これにより、人とのかかわりや発言を聞くこと、あきらめない気持ちなど、モノづくりに役立ったスキルに生徒自身が気づくことができ、モノを生み出すことの楽しさを知った、社会に出てから役立つ学習をしていると実感したという感想も聞かれました。
昨年岩美中にChromebookが整備されてからは、生徒の作った資料にコメントを返しながら授業を進めるなどG Suite for Educationの活用をしてきました。岩美中に在籍中、コロナによる休校期間中には先生方に生徒役になってもらい、Chromebookを活用して模擬授業を行い、調べる、データをアップロードする、コメントをやり取りするといった体験ができたことで、その後オンライン授業もスムーズにできたようです。また、学校でも家でもどの端末でも学習の続きができる点も好評でした。これからオンライン環境下での実践を含めたPBL学習を発展させていく上では、生徒用端末もさることながら、先生方には高性能かつ信頼性やセキュリティの高いPCが必要となるでしょう。
現在岩美中が行っているインテルとの教員向けChromebook環境での実証研究を通して、さらなるICT利活用推進と、人間性を育てる問題解決型学習を拡充し、子どものためのGIGAスクール構想を推進していきたいと思います。
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