現代アメリカ 学校再編政策と「地域再生」学校統廃合か、地域と教育の刷新か
14面記事榎 景子 著
行政と草の根運動のせめぎ合い
本書は、現代のアメリカにおける学校教育の現状と可能性について、地域と教育という視点からアプローチした研究書である。
ポートフォリオ・マネジメントモデル(PMM=地域にある多様な学校をひとまとまりのものとして捉え、限られた資源を配分して児童・生徒の最善の利益にかなう状態を目指すものであり、時には学校統廃合も進める)やジェントリフィケーション(貧困地区の学校再編をテコとして官民共同で進められていく都市再開発の過程)など、現代における学校再編を巡るキーワードが多数紹介されている。
他方で、本書は、オークランドとシカゴの二つの地域における保護者や住民の草の根からの運動の成り立ちや到達点を詳細に示す実践書でもある。その内容は、教育関係者への丹念なインタビューや各種の報告書などの資料に基づいており、上からの学校再編の意図と下からの学校教育への期待・要望とのせめぎ合いをリアルに伝えている。
本書を読むと、アメリカにおける学校教育の「改革」が経済、行政、地域の「改革」と緊密に連動しながら進められていることがよく理解できる。それは、対岸の火事ではない。
だが、こうした厳しい状況の下で、未来の主体形成を担う学校教育の可能性を信じ、草の根の運動に加わる人の輪が広がっていることに希望を持ちたい。
(5170円 学文社)
(都筑 学・中央大学教授)