発見・追究する力を育む「観察・実験」
10面記事新・理科教育特集
コロナ禍での授業数の縮小により、理科授業での「観察・実験」が削られる傾向にある。しかし、このような五感を使った体験の中で予想や仮説を立て、課題解決する力を育むことが、理科という学問の魅力であることを忘れてはならない。そこで、こうした体験活動を重視する背景や、効率的・効果的に「観察・実験」を行うための理科機器やICT活用を紹介する。
理科への興味・関心を引き出すために
理科教育の内容の改善・充実が求められる背景には、国際調査において「役に立つ」、「楽しい」との回答が国際平均より低いなど、理科好きの子どもたちが少ない状況を改善する必要があるからだ。このため、今回改訂された理科の学習指導要領では、子どもたち自身が「観察・実験」を中心とした探究の過程を通じて課題を解決したり、新たな課題を発見したりする経験を可能な限り増加させることを求めている。
加えて、同調査では「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」などの資質・能力に課題があることも指摘されている。そこで、子どもたちに理科への興味関心を引き出すツールとして期待されているのが、新しい理科機器やICTの活用だ。
もともと理科は、正解することよりも正解に至るプロセスを発見することに意義がある学問だったはず。そんな試行錯誤の時間があってこそ、課題解決したときの達成感が生まれる。つまり、座学で得る知識だけでは理科という学問の魅力は体験できない。そんな子どもたちの時間を削いだことが、「理科離れ」につながったと推測できる。
資源の少ないわが国にとって、子どもたちが理科への関心を失うのは社会的な大きな損失になる。事実、理工学系の学生数は年々減少を続けており、国際社会的にみても、若者のイノベーションを生む力が足りないことが問題視されている。とりわけ、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新が進む予測困難な時代にあっては、新たな価値を生み出していくことが国としての生き残る術になるからだ。
学校ならではの協働的な学びを最大限確保
そんな思いのもと、今年度、小学校から完全実施を迎えたのが理科の新学習指導要領になる。加えて、小学校ではプログラミング教育も必修化され、算数と並び主要教科となる理科では、6学年(4)電気の利用で「センサーを活用したプログラミング」が教科書に掲載されるなど、プログラミング的思考を育む授業の取り組みが期待されている。
しかし、新型コロナウイルス感染症に伴う休校措置で授業に遅れが生じたことにより、こうした準備や実践に時間を要する「観察・実験」や「プログラミング」授業の時間が思うようにとれなくなることが懸念されている。
こうしたことから、文部科学省が6月5日に発表した『新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の「学びの保障」総合パッケージ』では、個人でも実施可能な学習活動は授業以外の場で実施し、協働学習など学校でしかできない学習活動に重点化して指導を行うことで、新学習指導要領が目指す学びを着実に実現することを呼びかけている。
その中の理科における学習活動の重点化のイメージ【例】では、学校における実験結果の分析・考察のまとめを授業以外の場で作成させることを挙げており、子どもたちの協働的な学びとなる「観察・実験」をなるべく重視することを示している。
効率的・効果的に「観察・実験」を行う工夫を
それでも授業時間数が減る中で、このような「観察・実験」授業を実施していくためには、効率的・効果的に行う工夫が求められる。したがって、いつでもどこでも火器として使用できる「カセットこんろ」などの新しい理科機器を取り入れたり、「思考の可視化」「瞬時の共有化」「試行の繰り返し」に適したICTを活用し、プロセスを重視した学びを実践したりしていくことが考えられる。
また、プログラミング教育では、教科や学年を跨いだ横断的な取り組みによって時間数を確保するなど、学校全体での柔軟なカリキュラムづくりに期待したい。
ただし、今日のコロナ禍では共有する実験器具等は、消毒する、手洗いをさせるなどの感染症対策が必ず必要になる。また、学校の再開にあたり、文部科学省が全国の教育委員会に通知した「学校の新しい生活様式」(衛生管理マニュアル)では、「特定警戒」地域に指定された場合は「観察・実験」は行わないことを指示している。
「子供の学び応援サイト」で理科教育を支援
また、インターネット上にある資料(動画・静止画含む)を教材として活用する方法もある。文部科学省では授業時間数の縮小の中でも理科への興味・関心を引き出せるよう、「子供の学び応援サイト」で学習支援動画(リンク数400以上)を公開しており、科学技術関係のコンテンツをまとめた「わくわくサイエンスリンク集」などもリンクされている。
たとえば「科学技術広報研究会」のサイトでは、全国の大学・研究機関の広報担当者が所属する研究機関のデジタルコンテンツの中から、子どもたちにぜひ見て欲しいと思う作品を集めているほか、休校対応にはライブ配信による特別授業も行った。また、「国立研究開発法人科学技術振興機構」では、「身の回りにあるサイエンス」や「人のからだや医学を知る」など、子どもも大人も楽しみながら科学に触れることができる番組を公開している。
今後も各教育委員会が作成した家庭学習支援動画(茨城県教育委員会は、小1~中3の教科書別の学習動画460本を掲載)などコンテンツをより充実させていく計画だ。あるいは、学校での授業と、学校以外の場で取り組む学習活動を併せた年間指導計画資料を公開している教科書会社もある。そこでは対応する教材・映像資料も掲載されているため、ぜひ参考にしてほしい。
学習保障に必要な人的・物的支援にも着手
一方、今回の事態を踏まえた学習保障に必要な人的・物的支援にも着手。人的支援としては、学習指導員やスクールサポーターを追加配置し、学級担任等の補助を通じてきめ細かな指導が実施できるようにすること。物的支援としては、校長の判断で感染症対策や学習保障等に必要な教材・備品等を購入できる経費(各校あたり100~300万円)も予算化した。
さらに、令和元年度補正予算2318億円、令和2年度補正予算2292億円を投じた「GIGAスクール構想」におけるハード・ソフト・人材を一体とした整備を加速することで、災害や感染症の発生等による学校の臨時休業等の緊急時においても、ICTの活用により全ての子どもたちの学びを保障できる環境を早急に実現することを図っている。