【寄稿】五感を通して非言語コミュニケーション力を
NEWSオランダ在住のフリーライター、島崎由美子さんから今回は、五感を通して非言語コミュニケーション力を培うことの大切さについて記事が寄せられた。日本に一時帰国し、欧米のコミュニケーションとの違いを改めて感じたという。
島崎 由美子さん
今、学校教育では、知識中心の学力からコミュニケーション能力を重視した学習内容にシフトしています。それは、国際化や人工知能が急速に進展していくこれからの社会において、解決すべき課題を自分の力で見つける力や多様な価値観を持つ人々と協働しながら解決する力が必要となるからです。
コミュニケーションはよく、キャッチボールに例えられます。そのイメージは、思ったことや感じたことを、言葉や文字などの「言語」コミュニケーションと、表情や身振りなどの「非言語」コミュニケーションを使って、相手に投げたり相手から受け取ったりすることによってお互いを理解し合うことだといえるでしょう。「伝えたいことが伝わる」というコミュニケーション力は、子どもたちにとっても、かけがえのない充実した学校生活を送るための「鍵」となります。
筆者(オランダ在住)は、米・蘭・スペインでの在住経験から、そのことを真に実感してきました。しかし今、新型コロナ禍に一時帰国し筆者自身が、日本人とのコミュニケーションに特別な困難さを感じ始めています。それは、まさに肌の触れ合いがなくなったことが原因でした。
西洋では、コミュニケーションの一環としてキスやハグ、頬への口付けといった触れ合いを交えます。これには科学的な意味があります。体と体が触れ合うことによって、幸せホルモンと呼ばれている「オキシトシン」が脳下垂体後葉から分泌され、安心感が生まれるのです。精神面においても、体の健康面においても、そして何よりも子供の成長期において、体と体が触れ合うことは良いコミュニケーションと深く関連していることがわかっています。
自身と他者は、意識的に言葉を使う「言語」コミュニケーションをしていますが、言葉を補完する役割として、表情や身振りなどを使った「非言語」コミュニケーションが無意識に機能しています。非言語コミュニケーションには、どんなメリットがあるのでしょうか。
安心・信頼・親近感を作る
笑顔やうなずきがあると、話しやすい雰囲気になります。また、たとえ何も話さなくても、やさしく微笑むだけで心が通じ、安心感が生まれるものです。さらに、人は服装やしぐさなどが自分と合っていると親近感を抱きます。
相手の状況を理解する
表情や声のトーンは、無意識に変化していることが多いようです。例えば、体調が悪いときに顔色は悪くなりますが、顔色を意識的に変えることはできません。相手が言葉では「大丈夫」だと言っていても、本当の状況は非言語情報に表れやすいものです。相手の表情をよく観察することで、相手が言葉にしていないことも分かり易くなるのです。
伝わり方を変化させる
人は、話し手として何かを伝える時、表情や声のトーン、ジェスチャーを使います。例えば、東京2020招致のプレゼンで、滝川クリステルさんが発した「お・も・て・な・し」という間を置いた言い回しは、外国人にも伝わりやすい印象の良い例でした。
コミュニケーション(英:communication)の語源は、ラテン語のコミュニス(communis)、すなわち共通したもの、あるいは共有物(コモン common)と言われています。これは、コミュニケーションの本質を理解する上で極めて重要なことです。このような五感を使った非言語コミュニケーション力は、他者との共通・共感・共同という一体性を感じ取ることができる、重要なスキルです。
ちょっと、ふわっと、手で相手に触れたりすることは、全く触れ合わないよりも、コミュニケーションにおいて相手に与える安心感や親近感が全く違うものです。しかし、日本では、以前から肌を触れ合う文化があまりありませんでした。
筆者は、意識して非言語コミュニケーションを実践してきました。例えば、軽く触るジェスチャーは、伝える相手の身体感覚的な要素に親近感を生み出し、安心感を与えることができます。多様な価値観と異文化との交流において、相手の置かれた状況が大きく異なっていても、肌の触れ合いが日常的に大切なコミュニケーションとなっています。
五感を使って言葉を補完する「非言語」コミュニケ―ションは、少し意識するだけで「伝える」ことが「伝わる」ように変化します。親子のふれあいを深め、特に幼児期の子どもたちの無意識かつ無邪気な非言語的コミュニケーション力を育んでいって欲しいと心より願います。
教育関係者には、子どもたちが非言語コミュニケーションを学び、それを学校生活において実践していくことができる雰囲気づくりを拡げて欲しいと思います。子どもたちには、互いに勇気を奮い合って、今までよりも少しだけ五感を働かせ、楽しく「伝わる」コミュニケーションをしてみてください。
近年は、共働き家庭が増え、親子のコミュニケーションの時間が減少傾向にあります。幼児期は、人間形成の基礎が作られる時期でもあります。身近な大人であるお父さんやお母さんとのコミュニケーションがとても大切になります。