2030年は今の子どもたちが活躍する時代
9面記事SDGsの達成目標期限まで10年
本業を通じて目標達成を
SDGsが世界的に注目されるようになったのは、2006年に国連が金融業界に向け、「投資家は企業への投資をする際に、その会社の財務情報だけを見るのではなく、環境や社会への責任を果たしているかどうかを重視すべき」という提言をしたことがきっかけになった。すなわち、ここから投資を受ける企業の間に、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心が高まることになったのだ。
グローバル化が広がる世界の中で、こうした国際的な潮流を無視しては企業価値が下がり、投資家から資金が集まりにくくなる可能性も出てくるため、企業を存続していく上でもESGへの対応が不可欠になっている。
特にSDGsは、これまでのCSR(社会貢献活動)と異なり、たとえば食品の生産・流通の中でどのように食品ロスを減らすかといった、それぞれの本業を通じて目標達成に取り組むことが重要とされているからだ。
企業がSDGsに取り組むメリット
一方、SDGsに取り組む企業のメリットとしては、目標達成につながる製品・サービスの開発によって、新しい市場開発や事業を創出できる可能性があることが挙げられる。また、顧客・消費者のブランディングや社員のモチベーション向上にも寄与することが想定できるため、企業のこれからの成長にも結びつけることができる。
したがって、企業が教育現場におけるSDGs探究の支援に積極的な姿勢を見せるのは、自らの活動を社会に広くアピールする必要があるとともに、今からファンをつくることで将来の人材獲得にもつながるからだ。
一人ひとりの意識改革が必要
では、SDGsの採択から3年経った2018年時点の世界のSDGs達成度ランキングにおける日本の順位はどうかというと、156カ国中15位。実は残念ながら17の目標のうち、達成されていると評価されたのは「目標4・質の高い教育をみんなに」だけで、ジェンダー平等や責任ある消費・生産、気候変動対策、パートナーシップに大きな課題があると指摘されている。
ジェンダー平等面では、議員の女性比率が少ないことに代表される、男性が社会の中枢を担う日本の権力構造や、給与や育児休暇など男女雇用格差の改善がされていないこと。消費や環境面では、食品の廃棄や化石燃料の使用による二酸化炭素排出、再生エネルギーの比率が少ないことが評価を落としている要因だ。
それでも、このような問題は国や企業に任せておけばどうにかなるものではない。目標の達成に向けては、私たち一人ひとりが自覚をもって取り組める活動を開始したり、意識の改善を図ったりすることが必要になる。それゆえ、学校のSDGs探究は、そんな世界の問題を自分ごととして考える習慣を築く上でも、大切な教育の場であり、貴重な機会になる。
なお、昨年発表されたランキングでは順位は変わらないが、「目標9・産業と技術革新の基盤をつくろう」が達成されているとの評価を受けている。
60自治体をSDGs都市として選定
国連は各国が積極的に課題解決に向き合えるよう、17の目標の達成度を数値化して検証・公表するなどして解決に向けて取り組んでいる。昨年7月に行われたSDGsの進捗を確認するための国際会議では、改善が見える成果として「極度の貧困の割合が低下」「予防接種の実績」「海洋保護区の倍増」などが挙げられた一方で、記録上、過去4年間はもっとも温暖になるなど、相変わらず気候変動に歯止めがかかっていないことを緊急な課題として指摘している。
こうした中、チームジャパンを掲げる日本の取り組みは、「Society 5.0」の推進、地方創生、次世代・女性のエンパワーメントを3本柱とする「日本のSDGsモデル」の展開を図っている。その1つとして、積極的にSDGsに取り組んでいる60の自治体を「SDGs未来都市」として選定。特に優れた取り組みと認定された事業に対しては補助金制度も設けるなど、持続可能なまちづくりを支援・推進している。
その中では、健康をキーワードに経済・社会・環境において、持続的なまちづくりを実施する「福島県郡山市」、森林信託事業による森林の集約化などにより百年の森を目指す「岡山県西粟倉村」、女性のエンパワーメントを生み出すために、居場所と出番の創出を進める「福井県鯖江市」、サンゴなど自然環境の保全により、観光産業の高付加価値化を図り、その収益を村民に還元する「沖縄県恩納村」など10の自治体がモデル事業として選ばれている。
また、内閣府では「地域子どもの未来応援交付金」を設け、さまざまな困難を抱える子どもたちと「支援」を結びつける事業・連携体制の整備を支援している。文部科学省も、新学習指導要領において「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されたことを背景に、SDGs達成の担い手に必要な資質・能力の向上を図る優れた取り組みに対する戦略的な支援を実施している。
SDGsを学べる教材も増えている
SDGsの達成状況を踏まえて授業に取り入れるときに参考になるのが、国連がWEBで発表している『持続可能な開発目標の報告2019』だ。ここには、17の目標に対する報告書の内容がイラストとともにわかりやすくまとめられている。
たとえば「目標4・質の高い教育をみんなに」の報告では、最低限の読み書きと算術の習得ができていない子どもと思春期の若者が、世界で5万人以上もいること。「目標11・住み続けられるまちづくりを」では、都市住人の4人に1人がスラムに類似した環境で生活していること。「目標15・陸の豊かさも守ろう」では、生物多様性損失のペースが加速しており、生物種絶滅の危険性は過去25年間でほぼ1割増加していることなど。
これらの報告の中から、単元と関連づけられるものを取り上げたり、子どもたちが興味あるものを選ばせたりし、それらを自分たちの身近な生活に置き換えて考えるようにすること。さらに、調べ学習やリサーチなどを加えたり、解決するためにはどうすべきかをグループで話し合ったりすることで、能動的な学びへと発展させていくことが可能だ。
ネットからダウンロードできる教材
また、ホームページからダウンロードできる教材も増えている。日本ユニセフ協会のSDGsを学ぶための教材「私たちがつくる持続可能な世界~SDGsをナビにして~」は、中学3年の社会科(公民的分野)で使用できるほか、すべての校種の総合的な学習の時間等でも活用できる内容になっている。
子どもの支援専門のNGO・セーブ・ザ・チルドレンは、「先生・ファシリテーターのための持続可能な開発目標~SDGs~アクティビティ集」を公開している。本教材は、持続可能な開発目標を理解し、自分ゴト化し、実際の行動につなげることをねらいに、学習者一人ひとりが主体的に学べるよう、すべてアクティブ・ラーニングの手法を取っているのが特長。SDGsに取り組むきっかけとして、教育現場などで活用することを期待している。
体験して学べるカードゲームも
さらに、SDGsを進めていくために何が必要なのか、どういうことが重要なのかについて、子どもたちが体験的に学べるゲームも登場している。「2030 SDGs」は、SDGsにおける環境・経済・社会の3側面の同時達成を目指して、2030年までの道のりを体験するカードゲーム。チームを結成し、それぞれの割り当てられた目標達成に向けてさまざまなプロジェクトを実施。そのことが環境や経済、社会にどのような影響を及ぼすのかを体感することで、楽しみながらSDGsの本質を理解することができる。
参加人数は最小5人から50人程度までなので、クラスでグループに分かれてトライするにはもってこいだ。すでに学校の授業や教員研修、大学のワークショップなどで利用が広がっている。
SDGsの目標達成期限まで残り10年を切った。その2030年は、今の子どもたちの多くが社会に出て活躍する時代だ。だからこそ、私たちは未来へのツケをなるべく残さないように今後も努力を続ける必要があるし、子どもたちもその先の子どもたちへの責任が控えている。
今も、世界はさまざまな問題を抱えているが、人々の意識や行動には新しい価値観が芽生え始めている。社会を形成する礎は、いつの時代も教育から生まれる。ぜひ、SDGsを切り口に、子どもたちに社会への扉を開くきっかけをつくってほしい。