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SDGsをテーマにした探究学習を 教育現場に「場」と「機会」を提供する企業・団体の活動

8面記事

企画特集

持続可能な社会を実現するために何ができるか

 誰一人取り残さない社会の実現を目指し、国際社会全体での持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」が推進される中、未来を担う子どもたちに対しては、世界の問題を「自分ごと」として捉え、持続可能な社会に向けて「自分たちができること」を表現する力を育むことが求められている。ここでは、そのための「場」と「機会」を提供する企業・団体の活動について紹介する。

教育に足りなかった社会との接続
 SDGsとは持続可能な開発目標のことで、2015年に国連で開かれたサミットの中で合意された国際社会共通の目標になる。ここでは、2030年までの長期的な開発の指針として、貧困や飢餓の撲滅、平和平等、経済成長、教育福祉、気候変動など達成すべき17の目標と169のターゲットが掲げられている。
 わが国も“オール・ジャパン”で取り組むことを表明しているが、これらの課題に向けては産・学・官が連携を深めて努力していくのはもちろん、私たち一人ひとりが密接に関わっている問題として理解し、それぞれの生活や活動の中で実践していくことが望まれている。それゆえ、持続可能な社会の実現に向けて行動できる人材の育成や、より実践的な環境・エネルギー教育のテーマとしてSDGsを取り上げる学校も多くなっている。
 しかし、こうした経済・社会・環境をめぐる広範囲な課題に対し統合的に取り組むのは、学校の教員だけでは難しいのも事実。そこで期待されているのが、今やビジネスモデルとして地球の生態系に配慮することが義務づけられている企業・団体の支援や体験プログラム等の情報提供になる。
 また、そのことによって、これまでの日本の教育に足りなかった社会との接続といった部分を補い、子どもたちのキャリア教育や21世紀を生き抜く力の育成に寄与することも可能になるからだ。

CSR活動として広がる教育支援
 一方、企業にとっても、環境や社会への責任をどう果たしているかを伝えることは会社の存続・発展において不可欠になっている。その中で、CSR活動の一環として、会社がどんな工程で製品やサービスを開発して消費者に提供しているか、どのように環境負荷の低減を実現しているかなどを学校現場に訴求できるメリットは大きい。また、子どもたちの教育に貢献できることは、社員のモチベーションや働きがいをアップする効果があり、目標が見つけにくい社会の中で、新たなアイデアや商品開発を生み出す原動力になるという経営者の声もある。
 新学習指導要領でうたわれている通り、グローバル化や社会の多様化に対応した人材を育てるためには、学校だけで閉じている教育では未来がない。そうした点でも、SDGsを切り口に社会とつながる取り組みを行うことは、子どもたちに広い視野や新しい観点からものごとを考えさせるきっかけになる。だからこそ、そのための「場」と「機会」を提供する企業・団体の活動が注目を浴びているのだ。

教育との親和性が高いSDGs探究
 こうした中、SDGsと日本の社会課題群を関連づけた教材として活用できる『未来の授業~私たちのSDGs探究BOOK』(発行・宣伝会議)が全国に約2万ある小学校に配布された。本プロジェクトは子どもたちに日本の地域課題とSDGsのつながりを深めてほしいとの思いから、約20社の企業が協賛して実現したものだ。
 さらに、中高生や大学生を対象にSDGsをテーマとした探究活動の発表作品を募集し、表彰する「SDGs探究AWARDS2019」も創設された。主催する一般社団法人未来教育推進機構は、SDGsは学校教育における探究の課題として非常に親和性の高いテーマとした上で、子どもたちにとって、より良い世界の実現を意識し、世界が抱える問題を探究する過程は「自ら課題を見つけ、自分ごとにし、他者と協働して解決に取り組む意識と能力」を育むにふさわしい学びとなるとしている。
 この3月には各部門の「最優秀賞」1件、「優秀賞」3件が発表されたが、開催初年度にもかかわらず945点の応募を集めており、SDGsへの関心の高さが証明された。エントリーした学校の中には「総合学習の授業の目標として設定」したり、「ポスター発表を撮影した動画を課題」にしたりするなど学年単位で取り組んだ作品も多くあり、授業課題の目標として位置づける学校が多くなっていることがうかがえた。

セミの発鳴時間から環境変化を測定
 また、こうした応募作品の中にはSDGsの課題の1つである環境・エネルギーをテーマにした作品も多くあった。たとえば中高生部門で優秀賞を受賞した「セミの鳴き声から地球温暖化にせまる」は、地球温暖化による生態系への影響を知るための指標生物「セミ」の発鳴時間と環境データから、環境評価手法を開発することを試みた作品だ。その意図には20年ほど前より東京などの都市部で夜に鳴く事例が報告されていることから、都市部での環境変化が指摘されていることがあった。作品は、都内の観測点に測定装置を設置して発鳴時間や種数調査、樹木率などの測定を行い、それらのデータから地球温暖化の進行度合いを示す、「環境セミ指数」を考案する取り組みになっている。
 受賞した東京都立富士高等学校の村上琴美さんは、「地球温暖化や気候変動などの環境問題の影響を自分のこととして考えるのは難しいが、探究活動を通して生活につなげることができることを学んだ」とコメントしている。
 同じく、優秀賞を受賞した長崎県立長崎南高等学校の八幡紗矢さんは、ベトナムへ修学旅行で行った際、このまま温暖化が進めば植物は生息できなくなるものが増えるだろうと考えたことをきっかけに、同校が開発した簡易組織培養法によって絶滅危惧種の保護・増殖を行う研究活動に取り組んだ。その中では、絶滅危惧種であるナガサキギボウシの再生個体の作出に、世界で初めて成功した事例も報告されている。

将来の社会形成者として必要な力を
 地球規模に及ぶ環境問題はもちろん、今回の新型コロナウイルスの急速な流行では、グローバル化がもたらす新たな課題も提示されたといっていい。こうした差し迫る世界の課題(SDGsの目標)に対し、私たち一人ひとりが頭で理解することから、それを行動へとつなげることが必要な時代を迎えている。したがって、そうした社会形成者の育成を担う学校現場には、今まで以上に社会との関連性を強く意識した取り組みが期待されている。その意味でも、世界の目標=SDGsを切り口に探究学習を進める意義は大きいといえる。

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