日本人学校のコロナ対応 校長が「遠隔学校経営」
3面記事全世界に95校ある日本人学校。6月12日の時点では、38校しか再開できていない。日本国内よりも、厳しい状況にある中、現地に渡航できない校長が在宅勤務で学校経営に当たるなど、日本人学校ならではの工夫を重ねている。(1面から続く)
オンラインで保護者会
限られた教員、課題乗り越え
チリ・サンティアゴ
南米のチリにあるサンチャゴ日本人学校では、6月13日時点で今後の学校再開のめどは立っていない。国際統計サイトの「worldometer」によると、6月上旬の段階でチリの新規感染者数、1日当たりの死亡者数はともに増加傾向にあった。
同校では休業期間中、オンライン会議アプリ「Zoom」でオンライン授業を行っている。今学期予定していたスキー教室は中止とした他、授業参観や校外学習など2学期以降の延期または中止を検討しているという。
保護者との日常の連絡についてはオンラインで保護者会や学級懇談会を実施している。さらに学級担任が各家庭へ週に1度連絡を取っているなど、小まめなやりとりをして日々刻々と変化する状況に対応している。
大根田裕一校長は子どもたちの様子について「オンライン授業に慣れ、だんだんと自主的に学習に取り組む様子が見られるようになった」と話す。
しかし依然として2人の新赴任教員の渡航時期は定まらず、現地に滞在する限られた教職員だけで授業を行わなければならない。同校長は「今後、内容ややり方などを改めて考えていかなければならない。現在は限られた教員同士で、何とかさまざまな課題を乗り越えている状況だ」と話した。
チリの首都サンティアゴ・デ・チレでは、外出禁止が呼び掛けられ、緊張した状況が続く。新型コロナウイルスの感染者が増え続けることから医療崩壊も叫ばれている状況だという。
日本と結び職員会議
渡航制限で着任できず
スイス・チューリヒ
南北のアメリカ大陸よりも一歩早く感染が拡大した欧州諸国では、現地校と共に日本人学校の授業再開が進みつつある。
このうち、スイスのチューリッヒ日本人学校は5月11日から対面での授業を始めた。3月まで国内の小学校に勤めていた中川日里校長は今春から赴任するはずだったが、渡航制限を受けて、日本国内での勤務を続けてきた。職員会議はやはり「Zoom」を使った遠隔方式。中川校長の自宅と現地を結び、意見を交わす。
2カ月間以上にわたってテレワークを続けてきた中川校長。他に2人の教員が渡航できないでいる。
スイスは6月に入ってから、新規感染者・死亡者共に増えることはなく、低水準を続けてきた。死亡者ゼロの日も珍しくない。
6月12日時点での児童・生徒数は小学部が15人、中学部が4人。このうち3人が新入学生だった。4月以降はオンライン授業を試み、対面授業を始めてからは、在籍している児童・生徒全員が通学を続けている。新年度に入って以降、日本に戻った児童・生徒はいなかった。
オンライン授業は1日当たり2~3時間ほどにとどまった。新規の学習事項を扱ってきたものの、登校再開後、進度はやや遅れ気味。朝学習やクラブ活動の時間を使うなどして、授業の遅れを挽回していきたい考えだ。
同校では、ドイツ語の授業を設けており、年間の授業時数は日本の学校よりも多い。総合的な学習の時間の弾力的活用も見込んでいる。始業式・終業式の日にも6時間授業を行う予定だ。
元々、学校給食はなく、昼食は各家庭から弁当を持ってきてもらっていた。国内の多くの小・中学校のように、給食提供日の調整は不要だった。
夏休みは短縮しない。今後、授業時数が不足するような事態になれば、別の長期休業の活用を検討するという。
本年度の文科省派遣教員は校長を含めて7人。うち3人が渡航できていない。他に4人の講師がいる。学級担任を務めるはずだった教員が赴任できていないため、予定していた学級懇談会はできなかった。
もっとも現地では児童・生徒の保護者が校内に立ち入ることを制限していた。この制限は来月、解除される見込みで、個人懇談会を行って通知表も渡したい考えだ。
中川校長は在宅で、保護者向けの文書を書いたり、現地の教員が作成した文書を添削したりといった日々を送ってきた。
6月8日までは現地の決まりで、16人以上が集まることは認められなかったため、全校朝会は行わなかった。4月22日の始業式は児童・生徒の家庭とつないで、登校できるようになってからは、各教室とつないで講話を行ってきた。
臨時休業期間中のオンライン授業は手探りだった。まずは、各家庭の環境を調べ、インターネット環境は整っていることは分かった。だが、プリンターがない家庭があった。当初は、プリント教材を送付することを考えていたが、見直しを迫られた。
児童・生徒数は少ない学校だが、国語、社会、算数・数学、理科、英語といった教科の授業は複式指導を避けてきた。3人の教員が赴任できなくなったため、やむなく、一部を複式指導とした。同校の運営団体は、このような現状を前に、現地で2人の臨時講師を確保した。
中川校長は「現地の皆さんの頑張りで学校を運営できた。ありがたいことです」などと話した。
半数の児童・生徒が帰国
個々の支援に苦慮
中国・北京
最初に感染が広がった中国。北京日本人学校は6月15日から全学年で登校を再開する予定だったが、前週末に市内で感染者が再び増加し、感染が再拡大していることから、予定していた小学部1~3年生の登校再開は延期に。17日には北京市からの緊急の通達により、全校で登校を停止することとなった。「Zoom」を活用したオンライン授業を継続している。
同校では1月23日から2月2日までの春節休みの後、翌日から臨時休業が始まった。本年度は小学部に170人、中学部に57人が在籍している。そのうち約半数に当たる111人は日本に帰国しているという。
3カ月以上の休業期間を経て、中学部3年生は5月11日、小学部6年生と中学部1・2年生は6月1日、小学部4・5年生は8日から登校を再開した。続けて小学部1~3年生も15日から登校を再開する予定だった。
6月15日時点では、小4~中3の登校が可能だったが、半数の児童・生徒が日本に戻っているため、実際に登校したのは67人だった。
同校では北京市教委の「防疫体制に関する指導」に準拠して、校内で感染症対策を行ってきた。
各家庭では登校前に子どもたちの体温を測り、記録表へ記載。学校では正門前で子どもたちの健康状態を確認し、発熱などの症状があれば校内に入れない。校舎に入る前にはサーモグラフィーや非接触型の体温計で検温する。手指のアルコール消毒も欠かせない。
運動時などの例外はあるものの、昼食時以外はマスクの着用を徹底し、教職員は使い捨ての医療用マスクを着ける。昼食は机や椅子を移動せず、全員が前を向いて食べる。
さらに、校内で37・3度以上の発熱者が出た場合には保護者へ連絡し、当該児童・生徒は学校の教職員も立ち会って発熱外来を受診する。検査の結果が出るまで、全校児童・生徒は校内で隔離して待機する体制を取る。
同校では登校して授業に参加できる児童と日本にいる児童が混在していたため、対面授業をオンラインで配信しながら学習を進めていた。小川裕子教頭は「目の前の児童・生徒と画面の向こうにいる児童・生徒への個々の支援が必要となり、苦慮した」と言う。
各家庭への連絡はホームページやメール、電話を使い分けている。ホームページ上にパスワードを入力して閲覧できるページを設けている他、メールで一斉もしくは個別に連絡を行う。中国版の無料通信アプリ「WeChat」も活用し、保護者と学級担任は個別に連絡できる。
5月9日には動画配信による全体保護者会を実施した。個別の面談は「WeChat」や「Zoom」を使って適宜行っている。
教員の赴任にも影響が続く。同校には日本人教員が28人在籍しているが、そのうち本年度から着任予定だった8人は渡航できていない。日本にいる教員たちもオンラインで授業の指導や子どもたちとの面談、会議への参加を通して教育活動を続けている。