学校の“暑さ対策”への工夫と取り組み
14面記事暑さ指数を参考に運動を制限するルールを
もはや猛暑日(最高気温35度以上)が続くことが当たり前になった日本の夏においては、学校の管理下における熱中症事故をいかに防ぐかが、毎年の喫緊な課題になっている。本特集では、こうした学校における「暑さ対策」として必要になる適切な水分・塩分補給の摂り方や高温多湿な学習環境での脱水対策とともに、効果的な設備機器を紹介する。
室内の熱中症にも注意が必要
熱中症とは、高温環境下で体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりするなどして発症する障害のこと。軽度ではめまい・ふらつきなど、口の中が渇いたように感じるほか、中等度では頭痛・吐き気など、汗や尿の量が減ることで体温が上昇する。高度になると、意識障害・痙攣など臓器不全を引き起こす恐れもある。
そんな熱中症により救急搬送された人数は、昨年の5月から9月間で7万人を超えた。これから夏に向けて、気温が急に上がって湿度が高い日や屋外でのスポーツ活動は熱中症の危険性が一層高まるため、子どもをあずかる教員には気温、湿度、輻射熱を合わせた暑さ指数(WBGT)などを参考に運動を制限するなどの対応を図ることが大切になる。
しかも、昨年は5月のゴールデンウィークの頃から夏日が始まり、10月に入っても暑い日が続くなど、約半年間にわたって注意する時期も伸びている。
特に、子どもは年齢が低いほど体温調節機能が未熟で発汗量も少ない傾向にあるため、熱中症の要因となる脱水状態を引き起こす高温多湿な室内の環境にも気を配らなければならない。加えて、身長の低い低学年は晴れた日の地面の照り返しにより、高い温度にさらされることで危険が増える。また、肥満度が高いものほど深部体温が高くなるため、肥満傾向の子どもにも注意が必要になる。
さらに、近年はヒートアイランド現象によって熱帯夜日数が増加しており、東京都区部や名古屋市・大阪市・横浜市などの大都市で、熱中症の発生率が顕著に高くなる傾向を示しているなど、新たなリスクも生まれている。つまり、屋外のみならず室内における熱中症予防が不可欠になっているのだ。
遅れている体育館の暑熱対策
こうしたなか、公立小中学校の空調(冷房)設備の設置率は、2018年度補正予算で計上した特別交付金によって5割から8割に上昇したが、特別教室はいまだ5割程度、避難所も兼ねる体育館や武道場など屋内運動場にいたっては、3%ほどしか設置されていないのが実態だ。
学校の体育館は体育の授業やスポーツ部活動で日常的に使われているが、直射光こそないものの、風通しが悪く、熱気がこもりやすいため、むしろ屋外より暑熱環境的には高温の悪い状況となる。したがって猛暑日には、乾球温37度以上、WBGTは熱中症の厳重警戒となる28度を大幅に超える33度以上の激しい暑さになることが分かっている。
だが、体育館のような広いスペースに冷房を設置するには膨大な予算がかかり、市町村レベルで整備するには敷居が高いのも事実。そこで現在、自治体によって積極的に導入が進められているのが、大型扇風機や水の気化熱を利用した大型冷風扇、スポットクーラーになる。これにより、室内の空気を循環させて皮膚の温度を下げるとともに、スポーツ後の身体をピンポイントで冷やすなどして、暑さ対策に役立てることが目的だ。
また、今年は新型コロナウイルスが蔓延していることから、密閉空間における感染を防ぐという意味でも換気対策は重要になっている。今後、学校の休校措置が解消されたあとも、こうした機器を柔軟に活用する工夫が求められている。
運動後には塩分を含んだ水分補給を
独立行政法人日本スポーツ振興センターの調査によれば、2019年の学校管理下における熱中症発生件数は、小学校579件、中学校2912件、高等学校3554件になる。活動別にみると、中学校・高等学校の運動部活動での発生件数が共に2000件を超えているなど一番高く、この傾向は近10年間も変わらない。種目別では、野球、ラグビー、サッカーなど屋外で走ることの多い競技や、屋内競技の剣道、柔道等の競技で多く発生している。また、『直前行動別』でみると、ランニング・ダッシュ等「走る運動」で発生している例が最も多い。
スポーツ活動では筋肉で大量の熱が発生するため、それだけ熱中症の危険が高くなる。激しい運動では、短時間でも、それほど気温が高くない場合でも熱中症が発生している。したがって、指導者は暑い中では無理にトレーニングしても効果は上がらないことを踏まえ、熱中症を予防するトレーニング方法や水分補給等を心がけることが重要になる。
暑い時は水分をこまめに補給し、休憩は30分に1回以上程度とる。 日常生活において、最適の水分摂取量を決定する最も良い方法は、運動の前と後に体重を測ること。運動前後で体重が減少した場合、水分喪失による体重減少と考えられるため、同量程度の水を飲んで体内の水分量を調節することが大切になる。加えて、長時間の運動で汗をたくさんかく場合には塩分の補給も欠かせないため、食塩水(1lの水に1~2gの食塩)や、スポーツドリンク、経口補水液によって必要な塩分を補給することが重要だ。
なかでも、経口補水液はカラダが失った体液を補う水として、軽度から中等度までの脱水症への使用に効果があり、点滴治療よりも安全かつ簡便に扱えるメリットがある。そのため、いざという時に備えて保健室や部室などに常備しておく学校も増えている。
熱中症を疑ったとき何をするべきか
熱中症の疑いのある症状が見られた場合には、すぐに身体の冷却、水分・塩分の補給、病院への搬送等、適切な応急手当に努めることが大切になる。応急措置としては、
チェック(1)=めまい、失神、筋肉痛、筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛、不快感、吐き気、言語障害等があるかを確認。
チェック(2)=呼びかけに応えられる場合は涼しい場所に移し、服をゆるめ身体を冷やす。
チェック(3)=水分・塩分を補給。
チェック(4)=症状が良くなったかを確認し、安静・十分な休息をとらせる。
なお、チェック(2)で呼びかけに応えられなかった場合は救急車を呼ぶと同時に、氷のうなどで首、脇の下、太腿の付け根を集中的に冷やすこと。水分を自力で補給できなかったり、症状が改善しなかったりした場合は、医療機関に受診させることが賢明だ。
暑さ対策の共通理解と工夫が必要
今や水筒持参は当たり前に
学校管理下における熱中症対策としては、環境条件に応じてスポーツ活動の中止や延期、見直しなど柔軟な対応を検討することが大切になる。そのためには熱中症指数計などで暑さ指数をチェックし、教員間の共通理解を図るとともに、常に健康観察を行って子どもたちの健康に留意すること。
水分補給の方法としては、子どもたちに水筒を持参させて、休み時間ごとにこまめに摂らせることが有効だ。また、夏場でも冷たい水が大量に供給できる冷水機を設置し、子どもの水分補給の常習化につなげる学校も多くなっている。
環境的にできる工夫としては、校庭の出入り口にミストシャワーを設置したり、緑のカーテンを育成したりといった方法があるほか、運動場のスプリンクラーの活用、学校内のアスファルトへの散水、日除けとして設置する屋外テントの布地を水に濡らすことで放射冷却効果を高める使い方もある。さらに、最近では木漏れ日のような柔らかい光を演出しつつ、温度が上がらない自然の知恵を借用した「フラクタル日除け」も、輻射熱を抑制できると評判を呼んでいる。
いずれにしても、学校における暑さ対策を講じる環境設備は、近年の気温上昇の速度に追いついていないのが現状だ。それでも、熱中症は適切な予防法や対処法を知っていれば防ぐことができる。だからこそ、指導・管理面の責任を有する教職員や部活動顧問等が計画的に安全管理を行うとともに、子どもたち自ら熱中症の危険を予測し、回避する力を身に着けるような指導を行うことが重要になる。