じっくりインタビュー 学校再開、直近2週間をモニターして
3面記事和田 耕治 国際医療福祉大学教授
長期化の様相を呈してきた学校の臨時休業。再開に向けてどのような課題があるのか。政府の感染症対策専門家会議に参加している国際医療福祉大学の和田耕治教授に話を聞いた。
―学校再開の時期について考えを教えてください。
いま全国に緊急事態宣言が出ているから、学校を休業するのが当然だと考えている自治体の首長が多いように思います。しかし、学校といっても小・中学校の生活圏は限定されています。人の動きの激しい都市部は別ですが、それ以外の地域で生活圏に感染者の出ていない学校は、感染防止対策を取り、再開を検討してください。
―では再開に当たっては、どのようなことを注意すべきですか。
一つは生活圏に感染者がどの程度いるのか、直近の2週間程度をモニターすることが必要です。次に感染拡大を防ぐための登校の在り方を考えることです。小学6年や中学3年など最高学年から登校させ、様子を見ながら順次広げる。または登校日をクラスで分ける。 学校ごとに、どうしたら少しでも多くの子どもが登校できるのか知恵を絞っていただきたいと思います。感染者が減ってきたのに、再開した途端に感染が見られて、また休業するような事態が起こるかもしれません。
―2月下旬に出された政府の学校休業の要請を、いまどう評価していますか。
ここまで社会への影響の大きい政策をするなら、その根拠を示す必要があったと思いますが、根拠があったとは思えません。生活圏に感染者が出ていない自治体まで学校を休業する必要はなかったと感じています。
―学校での感染症対策はどのように進めればよいでしょうか。
新型コロナウイルスの対策は3密状態をつくらないようにし、うがい、手洗いを徹底することに尽きます。そのために教室を換気し、児童・生徒の席を離したり、近くでおしゃべりをさせないといった対策は、教育委員会などから指示されていると思います。
ただ、今年1年間は教育活動のことよりも、まずは感染を防ぎながら、子どもたちをいかに登校させるかの方が重要になるでしょう。そのためには、学校行事や場合によって体育などの授業を中止することも考えられます。
―学校再開後に感染が見つかった場合はどうしたらよいですか。
まず発熱やせきなどの症状があった場合は休ませることになるでしょう。感染した場合、すぐに学級閉鎖することも考えられますが、どのような状況で感染したのかによっても違います。学校に通わせたくない保護者も出てくると思いますが、それは仕方ありません。しかし、それが怖いと言っていては何もできないのも事実です。学校に通うことを「不要不急」と言うなら、1年間学校に行けなくてもよいのかを考えなければいけません。
―学校再開後に混乱しないためにも、どのような場合に、学校閉鎖にするかの全国的な基準は必要になりませんか。
基準は必要ですが、それは一律には決められません。例えばインフルエンザによる学級閉鎖の基準にエビデンスはありません。感染予防の観点から言えば、本来はクラスに一人でも感染者が出たら閉鎖するのが良いのですが、それでは学校が成り立たないので、学校の運営的な観点から「欠席が10%以上」などと決めているだけです。
―それぞれの自治体では、感染症対策をどのように進めればよいのでしょうか。
感染者が出たら「なぜ閉鎖しなかった」というクレームが学校や教育委員会に寄せられますが、「なぜ閉鎖した」というクレームはあまりないと聞きます。だから学校は簡単に閉められてしまいます。感染者が出たから何でも中止にする、と思考停止に陥るのではなく、首長と議会、教育委員会が話し合って決めなければいけません。政府の対応を見ていても分かるように正解はないのです。首長には判断して責任を取る覚悟が必要です。
―あとどれくらい我慢する必要があるのでしょうか。
今年の冬はインフルエンザかノロウイルスか新型コロナウイルスか分からない状況であり、学校運営が困難です。場合によって1~2年感染者が続く可能性もあります。しかし、だからといって、その間、学校を休業し続けることは現実的とは言えないでしょう。つまり、感染予防をしながら社会活動を継続するためのバランスを取らなければいけないのです。学校や教育委員会は、文科省の指示を待つのではなく、地域の状況に応じて自ら考える力が必要になります。
わだ・こうじ 産業医科大学卒業。北里大学准教授、国立国際医療研究センター医師などを経て、2018(平成30)年より現職。専門は公衆衛生、感染症など。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に参加