教育旅行を探究的な学びの機会に
8面記事プレゼン後に行われた市長と生徒の討論会の様子
郁文館高等学校の「PBLツアー」
郁文館高等学校(東京都文京区)では、修学旅行に代わって今年度から探究のための研修旅行「PBLツアー」を実施している。ここではSDGsと関連させてプログラムが組まれており、研究テーマを明確に設定しているのが特長だ。
探究へのイメージ不足を解消するため
実践型SDGs教育で日本一の学校を目指す同校では、社会問題を13領域に分類したトピックから選択し、グループまたは個人で探究に取り組む「社会探究」の時間を設けていた。しかし、テーマ設定や探究活動の方法についてのイメージが不足している生徒も多いことが課題だったという。
そこで、「研究の具体的な方法を体験的に学ぶとともに、問題意識をより明確にして探究活動を深化させること。さらには新たな問題意識発見の契機とすることを目的に、PBLツアーを企画した」と語るのが、全体責任者を務めた西谷知穂教諭だ。
生徒は国内外合わせて8方面の中から、高校1年次に行き先を決定。それぞれの設定したテーマ・課題に基づいて事前学習を進めた上で、研修旅行(2年次の6月・原則4泊5日)に向かう。
その1つ、大分県の臼杵コースは「地域活性化に必要な思考プロセスと『6次産業化』視点の重要性を知る」がテーマ。ここでは臼杵市が地域活性化として取り組む農業と宿泊を組み合わせたグリーンツーリズムなどを体験。最終日には高校生の視点から地域活性化に向けた方策を、市長の前でプレゼンした。
フィールドワークによる学びが問題意識を変える
本コースを担当した島村祥一教諭は「フィールドワークで学んだことで、事前に調べていたテーマがどんどん変わっていった。学校で行った中間発表では内容が浅く心配したが、市長プレゼン当日は地域おこしとして着物を利用した観光や、インバウンドを対象にした農泊、ジビエの美味しさを伝える取り組みなど、どこに出しても恥ずかしくない提案ができたと思う」と話す。PBLツアーで現実と向き合うことで問題解決に向けて意欲的に活動できるようになるという。
また、「当初、自分ごととして問題をとらえられていなかった生徒も現地では率先して農家の人と話したり、農作業をしたりする姿を見せるようになった」と、生徒の成長を嬉しそうに話す。次年度は今年度のテーマ「6次産業化」に加えて、医療、介護、福祉で電子カルテの共有化を進める同市の取り組みも、新たなテーマとして探究する意向だ。
西谷教諭は、生徒の興味関心とPBLツアーの学びを結びつけ、探究活動全体のレベルアップを図ることを今後の課題に挙げる。「そのためにはPBLツアーの事前・事後の学習が大切。生徒の進路・志向に応じた学びの機会を確保しつつ、探究全体が有機的につながるような探究学習の体系化に努めていきたい」と今後の展望と抱負を語った。