日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

新学習指導要領が求める算数の学力とは

18面記事

企画特集

週3回設定されたスキルタイムがアイテム活用の中心だ(千葉県・印西市立原山小学校)

教材「アイテム」を活用した各校の取り組み

習得・活用・探究を1冊で
 NPO法人次世代教育推進機構と、筑波大学附属小学校・算数研究部が開発した教材「アイテム」は、考える楽しさを味わえる良問と、習得から活用、探究と段階的に力を伸ばせる構成で、学校現場での評価が高い。来年度から実施の新学習指導要領に対応して、「見方・考え方」を育てる内容を追加、練習問題のプリントも添付するなど、授業での使いやすさをさらに高めている。各校での活用状況と、学力向上の取り組みを紹介する。

情報活用能力の育成で学力向上
思考・表現重視の授業改善が成果
「考える楽しさ」味わえる教材
千葉県・印西市立原山小学校

思考ツール活用 低学年から指導
 印西市立原山小学校では、新学習指導要領で「すべての学習の基盤」として位置づけられている、情報活用能力を軸にした授業改善と学力向上に取り組んでいる。
 特に重視するのが算数科で、教科の基礎となる知識技能の定着を図るとともに、身につけた個別の力を活用し、つなげていく能力の育成を目指す。
 授業では、子どもたちが思考して、伝えあいながら課題解決するプロセスを大切にしており、数直線や図などの思考ツールを使って考えを深める活動を、低学年から取り入れている。
 参考にしているのは、筑波大附属小の実践だ。公開授業や映像、書籍などを通じて、「学級経営も含めた、子どもに寄り添う同校の授業スタイルを研究している」と算数主任の小川倫子教諭。
 週1回の校内研修では、1人1授業の提案なども行う。根本未来教諭(教務主任)は、「どの先生も既習事項を使って思考、表現する場面をうまく設定してくれている。本校が重視する能力を踏まえると、子どもの変容の出やすい算数科は研究に適した教科と考えている」と話す。
 授業改善と併行して、基礎的な計算力を身につけるための「100問テスト」などの取り組みも行っている。
 さらに一昨年の途中から「アイテム」を全学年で導入し、活用を始めた。
 教材を提案したのは松本博幸校長だった。3年前まで文科省情報教育課で情報活用能力の体系化などを手掛け、同校で現場復帰した。以前から「アイテム」を知っており、「算数の本質を捉えた良問が豊富で、現場に戻ったらぜひ使いたいと思っていた」という。
 昨年度の全国学力・学習状況調査の結果から、B問題への対応を含めた学力向上策の必要性を感じた校長が、思考力の育成と授業改善に役立つ教材として教員らに紹介し、採用が決まった。

教員の負担減で働き方改革にも
 現在、「アイテム」利用の中心となっているのは、昼休み後20分間の「スキルタイム」。週3回を算数の時間とし、教員が指示した問題に取り組む。高学年では発展的な問題に挑戦する子どももいるという。
 また国語のスキルタイムでは、論理構造に着目してテキストを読み取ることで、読解力を高めるトレーニングも行っている。
 小川教諭は「アイテム」について、「思考力と表現力を高められるうえ、子どもたちが解いていて楽しいと感じる問題が豊富」と評価する。
 さらに、筑波大附属小の授業スタイルに即した内容で同校が目指す授業づくりとも関連づけやすく、全学年での採用が低学年からの系統的な指導につながる点などにも導入の効果を感じているという。
 根本教諭は、「『アイテム』は従来の教え方では使いこなせない教材。教員が自身の授業を見直すきっかけになる」と考えている。
 加えて、教材準備の負担軽減というメリットもある。単元のまとめで取り組ませたい活用型の良問までが一冊にまとまっているので、従来のように問題を探してプリントを用意する手間がなく、「教員の働き方改革にもつながる」としている。
 授業やスキルタイムを通じた子どもたちの変容について小川教諭は、「問題文の意味を正確に読み取って、図などのツールを使って思考し、表現できる力が身についてきた」と手ごたえを感じている。
 また、「考える楽しさ」を味わうことにより、多様な考え方ができるようになり、難しい問題にも粘り強く挑戦する姿勢が見えてきたという。
 同校が取り組む情報活用能力の育成をはじめ、さまざまな要素が追加された新学習指導要領が、来年度から全面実施となる。
 松本校長は学校現場に求められる対応として、「まずは管理職が学習指導要領を読みこなして、その理念やポイントを教職員にわかりやすく伝える必要がある」と話す。
 同校では校長自身が、「情報活用能力」や「見方・考え方」といった重要な概念について、会議や研究授業などの場で教員に説明し、共通理解を図っている。
 「子どもたちに教えるときと同じように、小出しに繰り返し伝えることが大切。『教頭は職員室の担任』と言われるが、校長も同じだと思っている」
 今年度の全国学力テストの結果は県平均を大きく上回り、授業改善が子どもの学力向上につながっていることが示された。同校ではこれまでの成果と課題を分析し、実践をさらに深めていく計画だ。


松本博幸校長(中央)は「算数の本質を捉えた良問が豊富な教材だ」と話す。教員が自身の授業を見直すきっかけにもなっているという

主体的に学ぶ力を育てる授業へ
「アイテム」を12年間継続利用
授業設計を検討する際の参考にも
群馬県・みどり市立大間々南小学校


10分間のドリルタイムで自分の力に合った問題を解く

子どもに合った多様な活用方法
 みどり市立大間々南小学校では、学校経営構想「豊かな心と健やかな体をもち 主体的に学ぶ児童の育成」の下、今年度は主体的に学ぶ力の育成を重視した授業改善に取り組んでいる。
 同校では算数の共通教材として、12年間にわたって「アイテム」を使用している。
 「一般的なドリル教材より難しい内容だが、学校としては継続利用したいという思いがある」(鎮西宏子校長)ことから、PTAの廃品回収の収益金を教材購入費に充て、家庭の負担を減らす配慮もしている。
 「アイテム」の使い方は、校内の学力向上委員会で使用例を共有したうえで、各担任が決めている。
 現在は、授業で教科書の問題が早く終わった子どもに発展的な問題として取り組ませる、10分間のドリルタイムで自分の力に合った問題を解かせる、夏休み等の宿題などでの利用が多い。まだ解いていない問題や間違えた問題に付箋を貼って、学習の進み具合を可視化するなどの工夫も見られる。
 関口明宏教諭(学力向上CO・研修主任)は、クラスや子どもの実態に応じて使い方を変えることが、「アイテム」の有効活用につながると考えている。
 教諭自身は、クラス全員で話し合いながら活用・探究問題にチャレンジしたり、グループでの教え合いの題材に使ったりしたこともある。一方で、クラス内の学力差が大きい場合は、個別学習で各自のレベルに合った問題に取り組むほうが効果的だという。

学年間もつなぐ共通教材として
 「基礎・基本から活用、探究まで幅広い問題が収録されているので、多様な使い方にも対応できる」と関口教諭。学校としては一冊全部を終わらせることは求めていないが、「できる子どもは活用問題も楽しみながら解いている」と話す。
 鎮西校長も、「難しい問題に挑戦して、できたという達成感が自信になり、学習意欲をさらに高めてくれる。子どもを夢中にさせる教材」と評価する。
 また、習得から活用までの段階的な構成は、「単元の学習を通してこういう問題が解けるようになればいいというゴールを示してくれるので、教員にとって授業設計の参考になる」とし、同校が取り組む授業改善にも役立つと見ている。
 今後の授業改善の方向性について関口教諭は、全国学力・学習状況調査のような高度な問題を解く力をつけるためには、「思考したり、自分の考えを表現したりする場面をもっと増やしていく必要がある」と語る。
 鎮西校長はこの点について、算数の既習事項だけでなく他教科の学習内容も含めた、「複数の引き出しを使って問題に取り組む力」を伸ばすことが重要と指摘する。
 こうした授業を実現していくうえでは、教科の系統性を踏まえた学年間の連携も必要になる。「アイテム」のような共通教材は、「先生方が教科のタテのつながりを意識して授業を検討する際にも、いい参考書になるのでは」と今後の活用の深化に期待を寄せている。


「アイテムは子どもを夢中にさせる教材だ」と話す鎮西宏子校長と関口明宏教諭

「思考力を伴う考え方」の育成を目指す
教材見直しを機に「アイテム」を採用
多様な問題が1冊に 教材準備の手間が軽減
大阪府・堺市立宮園小学校

 堺市立宮園小学校では、5年前から「アイテム」を導入している。当時の教育長が、今後の子どもたちに必要な力の育成を目指し、教材見直しを各校に指示したことがきっかけだ。宮園小でも全教科で再検討し、採択委員会での議論を経て採用を決めた。
 「本校の子どもたちには、基礎的な知識や技能をしっかりと習得させたうえで、思考力や活用力を培う深い学びにつなげたいと考えた」と米川潤校長は語る。「アイテム」は、習得から活用につながる段階的構成になっている点や、「問題が子どもの実生活に見合った内容で興味を持って学びやすい」ことなどを評価した。
 現在は各学年の算数の授業に加え、週2回の放課後学習でも、習得状況に応じて「アイテム」を活用している。習熟度別少人数指導担当の寺田真也主幹教諭は、最初は「内容が難しい」と感じたが、実際に授業で使う中で教材としての有用性を見出したという。
 一つは、基礎のページの問題数が多いこと。「たくさん解かせたいときにプリント教材を別に用意する必要がなく、これ1冊で済むのが助かる」。
 また、学習の進んだ子どもは「アイテム」の問題に取り組ませることで、手持ち無沙汰になることを防げる。「難しい問題を解くことで、わかっていたつもりだった内容が見えてきて、基礎・基本に立ち返って学び直すことができる」という。
 市の学力経年比較調査のスコアは少しずつ上昇し、算数は学年によっては平均を超えるレベルになってきた。米川校長は、「主体的な学びは、『思考力を伴う考え方』が身について初めて実現する。まずはその力を育てるという方向性が見えてきた」とし、「今後も低中学年からの指導を積み上げ、子どもたちの力を伸ばしていきたい」と話す。


「問題が子どもの実生活に見合った内容で興味を持って学びやすい」と評価する米川潤校長(右)と寺田真也主幹教諭

アイテムに込めた想い
筑波大学附属小学校・算数研究部

Point 1

新学習指導要領の目指す方向性にも一致した教材
 「アイテム」は、筑波大学附属小学校算数研究部がこれまでの実践や経験から、子どもの一人ひとりの成長に寄与することを願ってつくった教材です。子どもたち自らが活動を通して、知識や技能を獲得してほしい。そして、それを役立つものにしてほしい。こうした願いは、新学習指導要領が目指す方向性とも一致しています。

Point 2

学びに向かう力を培える教材
 「わかる喜び」「考える楽しさ」を育むという創刊のコンセプトに加え、人の意見を聞き、自ら考え、積極的に意見を伝えるといった意欲・態度の向上もこの教材に託しました。筋道を立てて考え、表現する力を育てる内容に力を入れ、数理的処理のよさに気づき、自らの生活や学習に活用する「学びに向かう力」を培える教材です。

Point 3

見方・考え方を獲得できるページ構成
 新学習指導要領では、「見方・考え方」を働かせることで、教科の目標に迫る授業づくりが求められています。「アイテム」でもこれに対応して、従来の「活用」ページを「見方・考え方を広げよう」にリニューアルしました。子どもたちが学習したことを生かしながら、筋道を立てて考え、表現できるよう工夫しています。

企画特集

連載