遠隔教育が広がり始め、過疎地でも都市部に劣らぬ教育活動が可能に
トレンド遠隔教育が広がり始め、過疎地でも都市部に劣らぬ教育活動が可能に
離れた地域にいる者同士で音声や映像をやり取りし、教育活動を進める遠隔教育が広がりを見せています。小規模校の教育活動充実や外部人材の活用で重要な意義を持つとされ、離島や山村の受験対策、過疎地域の学校の入学生確保に活用する事例も出てきました。文部科学省は遠隔教育システム活用ガイドブックを作製し、さらなる普及を図る方針です。
遠隔教育とは? 離れた場所からリアルタイムで授業や交流
遠隔教育は最先端のICT(情報通信)技術を用い、離れた場所からリアルタイムで授業をしたり、意見交換や交流を進めたりすることです。
遠隔教育を導入する場合、パソコンやタブレットなどの情報端末、Web会議やテレビ会議を行うための回線、マイク、スピーカー、カメラ、ディスプレイといった機器や設備を準備しなければなりません。
文部科学省は2015年度から学校教育、社会教育の両面でICT活用の実証実験を進めました。さらに、2018年度には高知県土佐町、熊本県高森町など全国6地区を実証地域とし、遠隔教育を試行しました。
そこで浮かび上がった成果は遠隔教育システム活用ガイドブックにまとめられています。全日制と定時制高校では2015年度から36単位を上限に対面授業を遠隔授業に切り替えることが認められました。
遠隔教育が注目される理由と現状の実地状況
遠隔教育は、地域や環境によって起こる教育格差を解消する有効的な策として期待され、注目を集めています。
しかし、2019年3月に教育委員会を対象とした調査によると、1815自治体のうち、「遠隔教育を実施している学校がある」と回答したのは約400自治体と少なく、制度が万全に整っているとは言い難い状況です。
また、今後日本では、さらなる人口減少や東京一極集中(地方の過疎化)が懸念されています。過疎化が進むことで予想されるのは小規模校の増加です。
小規模校には、教師による個別指導を受けられるというメリットもありますが、生徒同士のコミュニケーション不足、多様な意見に触れる機会が少ないといった解決すべき課題もあげられます。
遠隔教育には大きく分けて3タイプの授業型に
遠隔教育には大きく分けて3つのタイプがあります。
1つは小規模校同士や本校と分校などを遠隔システムで接続し、協働した学習機会を設ける合同授業型。もう1つが外部人材や外国人英語指導助手らが専門性の高い授業を展開する教師支援型です。最後は高校で第2外国語など新しい内容や免許状を持つ教員がいない科目の授業を可能にする教科・科目充実型の3つです。
・小規模校のハンディ克服が可能な合同授業型
離れた学校や他校の教室と結んで合同授業や体験学習をする合同授業型は、児童生徒が協働して教育活動に取り組み、多様な意見と触れることができます。過疎地域の小規模校では普段できないことがICT技術を通じて可能になり、学習の幅を大きく広げられるわけです。
複式学級を採用している学校では、同学年の合同授業をすることで教員が自校の児童生徒を直接指導する機会が増えます。小規模校のハンディを解決しうる方法といえそうです。
・専門性の高い授業を受けられる教師支援型
外国人英語指導助手や大学、民間企業などの専門家と結ぶ教師支援型は、普段の教育活動で体験できない専門性の高い授業を受けられるのが特徴です。
授業の質が大きく高まるだけでなく、免許外教科担任を置かざるを得ない小規模校でも、都市部の大規模校と同等の授業が実現します。文部科学省は教員の資質向上にも役立つとみています。
・高校が多様な科目設定できる教科・科目充実型
離れた場所にいる免許状所有の教員が高校の授業をする教科・科目充実型は、高校側がより多様な科目を設定でき、生徒の教科選択の枠を広げられます。
地域の特色に合わせた学校づくりも可能で、高校の魅力向上にもつながります。離島や山村では高校が廃校となることで、一気に活力が失われることがありますが、先進授業を展開することで都市部から生徒を集めることに道が開けます。
・病気や不登校の児童生徒にも活用が可能
病気や不登校などさまざまな事情で通学できない児童生徒に対しても遠隔教育は力を発揮します。
これまで小中学校の不登校児童生徒は、遠隔授業を受けて一定の要件を満たせば、出席扱いとできましたが、病気療養中の児童生徒にはこうした制度上の措置がありませんでした。そのため、文部科学省は一定要件を満たせば出席扱いとする方針を示しました。
離島や山村で東京並みの授業を実現
遠隔教育導入の最大のメリットは、ICT環境さえ整備されていれば、多様で高度な教育機会を場所に関係なく受けられることです。離島や山村にいて東京で行われているセミナーに参加できます。受験対策にも活用でき、地方の小規模校が都市部の大規模校と同じ教育活動を展開することが可能になりました。
また、離れた地域と移動することなく、交流できますので、児童生徒たちにとって可能性が大きく広がります。特に過疎地域の高校で他地域からの入学生を確保するには、受験対策で見劣りしないことが重要になり、それを可能にするのも遠隔教育です。
通信回線が貧弱だと寸断や音声遅延も
遠隔教育のデメリットは、画面を長時間見続けることで目や耳が疲れやすくなることです。
高知県教育委員会が2018年に実施したアンケート調査では、遠隔教育を受けた高校生からこうした声が上がりました。通信回線が貧弱だったり、IT機器が低スペックだったり、寸断や音声の遅延が起き、スムーズに視聴できません。
また、教員の中には操作に不慣れで使いたがらない人がいます。サテライト側の教室に教員がいなければ、緊張感を欠いた授業になってしまうことも考えられ、課題も残っています。
さらに、授業で使用する情報端末やマイク、遠隔教育システムやICT機器などを導入し、環境を整備するための十分な予算が必要です。
実際、コスト面を理由に遠隔教育の導入を断念している学校や自治体は少なくありません。先述の教育委員会を対象とした調査によると、コスト面を理由に遠隔教育を導入していないと答えた自治体は、227自治体(12・5%)を占めています。
デメリットを上回る大きな可能性
遠隔教育は飛躍的な進化を続けるICT技術が道を開いた新しい教育の形です。
確かにいくつかのデメリットが存在しますが、それを上回るメリットがあり、さらに大きな可能性を秘めているといえるでしょう。今後も遠隔教育を取り入れる学校が増えていくことは間違いなさそうです。