図書館の吊り天井を「不燃膜天井」に改修
13面記事立命館守山中学校・高等学校
立命館守山中学校・高等学校
授業・放課後と活用する空間を踏まえ、安全でより快適な閲覧スペースに
東日本大震災以降に進められてきた学校施設の耐震化は概ね改修が済んだが、天井材や照明器具など、いわゆる「非構造部材」の落下防止対策の遅れが指摘されている。こうしたなか、立命館守山中学校・高等学校(寺田 佳司校長・滋賀県守山市)では、今年の夏休み期間に図書館内にある閲覧スペースの吊り天井をリフォジュール(株)の「不燃膜天井システム」に改修することで、安全でより快適な空間を創り出した。そこで、同校の仲 弘一朗事務長補佐と、設計を担当した(株)阿波設計事務所(大阪市浪速区)の花田 敏治次長それぞれに、膜天井を採用した理由や施工後の感想などを聞いた。
座学と実践を結ぶ場所にふさわしい意匠性を
チャレンジ、チェンジ、クリエーションの3つの「C」の実践により、未来を切り開くグローバルサイエンスリーダーを育成することを教育コンセプトに掲げる、立命館守山中学校・高等学校。そのため、文武両方を高度に鍛えられる学習環境の整備にも力を入れており、最先端の科学技術を体験できる施設やIT設備をはじめ、冷暖房完備の体育館、2万平方m超のアイリスグラウンドなど充実した施設を備えている。
その中で、膜天井に改修した図書館の閲覧スペースは、周囲の建物と回廊で結ばれたキャンパス中央のメディアセンター内にあり、まさに座学と実践を結ぶ一翼を担う場所になる。
花田次長は「耐震天井の方法はいろいろありますが、建物の構造体への負担を少なくするためには吊り天井自体を取り払うか、膜天井にするかのいずれかになります。その上で、図書館は学校のイメージを体現する上でも重要な施設になるため、空調効率を含めて検討した結果、膜天井に改修することに決まりました」と採用した理由を語る。
なかでもリフォジュールの「不燃膜天井システム」は、多くの公共施設の設計・施工を手がける同社において、これまで何度も天井の耐震化対策として採用されてきた信頼性があった。
不燃性のガラスクロス製シートと小型化された独自のレールで天井を張る本システムは、柔軟な素材によって地震時の振動を吸収しやすく、従来の天井材に比べて落下しにくい。加えて、構造の安全性を検証・確保することが義務づけられている「特定天井」の基準を大幅に下回る2kg/平方m以下を実現しているため、万が一落下したとしても衝撃が少なく、石膏ボードのような危険がないのが最大の特徴だ。
扇形の形状や個性的な照明デザインにも柔軟な素材で対応
改修工事は生徒たちへの影響が少ないよう、7月末から9月初旬にかけての夏休み期間を利用して実施した。こうした学校特有の事情に合わせて短工期で施工できるのも、「膜天井」の長所になる。その理由は、従来の天井材と比べて圧倒的に下地材が少なく、スピーディーに施工を完了できるからだ。「しかも、今回の改修では高さが7mもある天井自体をチェックすることを含め、1から構造計算をやり直す必要がありました。それを考えても、短い期間で仕上げてくれたと思います」と花田次長。
また、実際に工事を見守った仲事務長補佐も「実は、9月中旬の文化祭までに改修が終わるかどうか心配でした。なんとか間に合わせてくれたおかげで、この場所で古本市を開くことができ、生徒たちも喜んでいました」と笑顔で話す。
しかし、改修にあたってはもう1つ課題があった。なぜなら、図書館の閲覧スペースは書棚のある空間と違って扇形の形状をしている上、以前はそこに吊り天井だけでなく、扇形に沿って放射状に配置された照明機器が天井から下げられていたからだ。
「デザイン的にはユニークで見映えもよかったのですが、地震が起きれば吊り天井と同様に落下してしまう危険性があります。そこで、学校側と相談した上で、改修前のデザインをなるべく踏襲しつつ、安全性を高める工夫をしようと考えました」と花田次長。
つまり、施工するためには、このようなデザイン上の条件をクリアした上で、意匠性を高める必要があったのも事実。それでも、「膜天井ならではの軽くてやわらかい柔軟な素材の特性によって、問題なく施工することができました」と振り返り、期待通りに仕上がったことを評価した。
以前より明るく開放的な空間に生まれ変わった
閲覧スペースは、グループ学習など授業で利用することも日常的に行われており、生徒たちがタブレット端末をスクリーンにつないでプレゼンテーションするといった機会も多いとのこと。取材で訪れた日も、2クラスで授業が進められていたことからも分かる通り、図書館という枠を超え、授業・放課後問わず一日の大半に渡って活用する貴重な空間になっている。「このような状況からも、生徒たちの安全性を第一に不燃性シートにこだわったわけですが、通常のシートに比べると収音効果が低くなることが若干気がかりでした」と花田次長は唯一の心配を挙げる。
だが、図書館司書に話を聞いたところ、何ら問題は感じていないという。「むしろ、天井がより白くなって開放的になった印象があり、改修前は日中でも全灯していましたが、今は半分の灯りでも支障がないほど、明るくなりました」と話してくれた。そこにはLED照明に換えたことによる光量アップはもちろん、その照明を天井に埋め込むことで視界が広がる相乗効果が生きているのだろう。
仲事務長補佐も「大勢の生徒が書籍を紐解く図書館は、一般の教室よりも照明を明るくする傾向があります。でも、以前は照明の当たる位置によって明るさにバラつきがありました。現在は壁に配置された間接照明も、ほとんど使っていません」とする一方、「天井に埋め込んだ空調設備は従来のものをそのまま使用していますが、しっかりと磨かれて新品同様に見えますね」と口にし、こうした気づかいにも感謝していることを挙げた。
同校のような早期の改修着手に期待
授業を終えた後も生徒たちは居残り、仲間と議論を続けるグループ、和気あいあいと談笑するグループなどがいて、ここが大事なコミュニケーションの場になっていることが伝わってきた。だからこそ、学校にとってはいち早く安全で快適な空間を提供する必要があったといえる。
文部科学省の最新調査では、学校施設の「非構造部材」における耐震化実施率が4割程度にとどまっている。同校のような早期の着手に期待したい。