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公設民営の中高一貫校で世界基準の英語テスト「TOEFL Junior(R)」を活用

10面記事

企画特集

同世代の若者と英語で議論するグローバルユースカンファレンス

大阪市立水都国際中学校・高等学校

 新学習指導要領の全面実施が迫る中、英語の授業は4技能をバランスよく伸ばす改革が求められている。今春開校した大阪市立水都国際中学校・高等学校(大阪市住之江区、佐藤裕幸校長)は、英語教育、国際理解教育、課題探究型授業の3つの教育の柱で、21世紀型スキルを備えた大阪発のグローバル人材育成を目指す。国際的な英語運用能力テストTOEFL Junior(R)を活用しながら中高の3年間又は6年間で「使える」英語力を育成中だ。国際的な大学入試資格を取得できる「国際バカロレア(IB)」教育の導入も見据えた効果的なテスト活用法を聞いた。


太田晃介教頭(左)と英語科の郭山植教諭(右)

国際理解と外国語に重点を置く新設校
 全国初の公設民営の併設型中高一貫校として今年度4月に開校した大阪市立水都国際中学校・高等学校。社会のグローバル化が進む中で、社会に貢献する「協創力」を磨くことを教育目標とし国際理解教育と外国語教育に重点を置きつつバランスの取れた全人教育を理念とする。
 同校が求める理想の人物像は次の4つの力を兼ね備えた人材だ。

 (1)世界に目を向け、伝統や文化、経済発展、地域活性化に関心を持ち行動する人
 (2)文化、意見、価値観などが異なる人とも尊重し合い協働できる人
 (3)主体性と寛容性、多様な人を思いやる豊かな心、探究心、思考力、高い知性をもつ人
 (4)グローバルな視野に立ち世界とつながる力をもつ人。

 学校の運営管理は市内に専修学校や私立高校を持つ学校法人大阪YMCAが担う。公立学校ながら民間の強みを活かせる教育環境に共感した教員がEncourage(促す)・Engage(関わる)・Empowerment(自信をもつ)の3Eをモットーに新たな学校づくりに挑んでいる。「どんな人ともコラボレーションできるコミュニケーション力や、共に何かを創り上げる力を生徒に身につけさせたい」と太田晃介教頭は話す。

卒業時の英語力目標はCEFR B2レベル
 グローバル人材育成を目指す同校の目玉は、2020年に導入予定の国際バカロレア(IB)教育だ。IBは「多様な文化を理解・尊重し、より平和な世界の構築に貢献する探究心や知識、思いやりに富んだ若者を育成する」目的のもと、スイス・ジュネーブに本部を置く「国際バカロレア機構」が提供する国際的な教育プログラム。同校は16~19歳までを対象としたディプロマ・プログラム(DP)を高校2年次以降の「国際バカロレア(IB)コース」として新設予定だ。
 他のコースである「グローバルコミュニケーションコース」「グローバルサイエンスコース」に進む生徒も、IB認定校ならではの恩恵を受けることができる。独自の科目「知の理論」「論文作成」「創造性・活動・奉仕」は全員が履修、またIBコースの一部の科目も選択できるなど柔軟な教育課程を編成する予定だ。
 これらの背景もあり、高校ではコースを問わず卒業時の英語運用能力をCEFR B2 に設定。

 (1)自分の専門分野の技術的な議論も含めて、抽象的な話題でも具体的な話題でも、複雑な文章の主要な内容を理解できる
 (2)母語話者とはお互いに緊張しないで普通にやり取りができるくらい流暢かつ自然
 (3)幅広い話題について、明確で詳細な文章を作ることができる―などの「自立した言語使用者」レベルの英語力は、将来どのような進路を目指すにしても必要になると考えてのことだ。

理科・数学は英語イマージョン
 CEFR B2レベルの英語力育成には中学のうちから4技能のバランスよい統合型の授業が必要だ。「英語を学ぶことを目的とするのではなく、英語を使ってアウトプットする力を伸ばしたい」と話すのは、英語科で進路指導主任も務める郭山植教諭だ。中学校の英語は週5時間、単なる先取りではなく「学んだことを実生活の中に落とし込む発展的な学習をしたい」という。
 使ってみて通じる経験を通して、スピーキング力の向上につなげたい考えだ。
 英語関連教員は6名配置されており、うち5名はネイティブ。2名は大阪府の特別免許状を持ち、英語のほか理科と数学を英語で教える「イマ―ジョン授業」を担当する。柔軟な人材運用により、生徒が英語に触れ、用いる場面を増やしているのが特徴だ。


英語で理科を教えるネイティブ教員

世界に最も通用する外部評価指標を選ぶ
 定期考査はペーパーテストの他、中学では教員と面接型のスピーキングテストを、高校では生徒同士のディスカッションを取り入れ、自ら発信するプロダクティブスキルの測定を重視。さらに外部評価指標として、開校当初からTOEFL Juniorを採用している。
 TOEFLは英語を母語としない人の英語コミュニケーション能力を測るテストとして開発され、世界150か国、1万以上の教育機関等で活用されている。大学生・社会人レベルのTOEFL iBT、中高生対象のTOEFL Junior、小中学生対象のTOEFL Primaryなどがあり、目的や学習者の能力に合わせて活用できる。
 「学校内で複数のテストを慎重に検討した結果、国際的に通用する世界基準のテストという点で、TOEFL Juniorの導入を決めた」と話すのは同校のIBコーディネーターを務める熊谷優一氏だ。高校卒業後、海外大学に進学したい場合、英語力を証明する外部評価テストのスコアは必須だ。北米圏のみならず世界の多くの高等教育機関で、出願時にTOEFLスコアを提出できる。近年は国内でも入試や単位認定に活用する大学が増えている。
 TOEFL の前段階として開発されたTOEFL Juniorからスタートし、TOEFL iBTを視野に入れて準備を進めれば、国内大学に進学した場合も交換留学などのチャンスが増える。「実際、私もTOEFLの学びから奨学金を得て海外留学を実現した。TOEFL Juniorを足掛かりに多様なキャリアパスを示すことで、生徒の進路意識、学習意欲は大きく変わる。本校は理科と数学を英語で教えているが、英語を使って何かを学ぶことの意味を生徒は実感できている」と語る。
 今年6月には、TOEFL Juniorを高校1年生全員80名が受験、うち5名が世界トップ7%の成績を収めた。この事実に他の生徒たちは大いに刺激を受け、夏休み以降、英語学習の態度が大きく変わったという。3年後には25%の生徒がTOEFL Juniorで世界上位のスコアを獲得できるような成果を目指す。進路や進学の可能性を広げ、実現の近道となる同校のTOEFL Juniorの活用は機会均等の観点からも理想的な選択と言える。


IBコーディネーターでTOEFL活用に詳しい熊谷優一氏

魅力ある国際交流でグローバル人材育成
 今後、予定されている多彩な国際交流プログラムは生徒の英語力を試す絶好のチャンスになりそうだ。高校1年はアジア・オセアニア方面への10日間程度の海外研修を必修化。中学でも任意で海外語学研修に参加できる。
 年に1度、六甲山に世界各国からの若者が集い、社会問題について考える「グローバルユースカンファレンス」は、すでに今年から同校の高校生が参加。同世代の若者と英語を共通言語として議論する経験をした。
 2学期に入り生徒発の活動も始まった。人権、安全に関わるような根本的なもの以外は細かな校則は現在はなく、生徒による校歌の歌詞作成など、自由な校風と新設校ならではの経験を得た生徒たちは自主性やプレゼンテーション意欲が高い。体育祭の動画上映企画、夏休みに自主的に参加した学校内外の体験活動の報告会など「予想を上回る積極性に教員のほうが圧倒されている」(太田教頭)という。秋には初めての文化祭、3学期には探究学習の発表会とオープンスクールを兼ねた「アカデミックフェア」と行事も盛りだくさんだ。
 多様な教育資源を活かし「生徒が自律的に学習環境を作り上げられる後押しをしていきたい」と太田教頭は話す。教員と生徒が共に、理想の教育を構築しようとしている。

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