学校に地域や子どもの命を守る防災機能を
11面記事国の重点化プログラムとして促進
学校施設は災害時における児童生徒の安全を確保するとともに、地域住民の避難所として必要な機能が発揮できるよう、防災機能の強化を図ることが求められている。そこで、学校施設の防災機能を強化する取り組みや設備機器を紹介する。
緊急対策として3カ年に7兆円を投入
近年相次いだ自然災害を重く受け止めた政府は、昨年12月に「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を閣議決定し、およそ7兆円をかけて重要インフラの防災対策を進めていく計画を発表した。
その中では、学校施設の防災機能の強化も、重点化プログラムの1つとして挙げられている。なぜなら、学校施設は災害時における児童生徒の安全を確保するとともに、地域の避難所を担う重要なインフラであるにも関わらず、防災機能が未だ不十分であることが、これまでの災害時の教訓からも分かっているからだ。
文部科学省が学校施設等の屋根や外壁、内壁、天井などの非構造部材の安全性ついて緊急調査した結果によれば、公立学校=約3万8千校のうち、安全性が確認できた学校は32%で、安全性に課題がある学校は46%。私立学校=約1万6千校のうち、安全性に課題がある学校は9%。公立社会体育施設=約1万1千施設のうち、安全性に課題がある施設は14%だった。
また、学校が地域の防災拠点として機能するためには、これらに加え、食事やトイレの確保、災害状況・安否確認に関する情報交換、医療や心理ケアといったことも含め、住民を支援するさまざまな活動のコアになる施設として機能する必要があるが、東日本大震災や熊本地震では、インフラや機能面の遅れからさまざまな問題が生じたことが明らかになっている。
そこで、文部科学省では2019年度予算として約2千億円を確保。学校施設の強靭化を図る建物の非構造部材を含めた耐震化対策を推進するほか、老朽化対策、Wi―Fi等の通信インフラ整備、公立小中学校等への空調設置、ブロック塀の安全対策、トイレ環境などの改善を急ピッチで進めている。
地域のコアとして学校が機能するために
こうした学校施設の防災機能強化の重要性については、今年7月に公開した平成30年度「文部科学白書」でも、特集の1つとして「激甚化する災害への対応強化」が取り上げられている。ここでは、平成30年度は大阪北部地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震や猛暑等、多くの災害や異常気象に見舞われ、学校関係にも大きな被害が発生したと振り返り、ブロック塀等の安全対策や、熱中症対策としての公立小中学校等への空調設置の予算措置を図ったとしている。
また、今後の学校等における防災・減災対策の推進としては、校舎の耐震化は今年4月1日時点で小中学校が99・2%、高校が98・7%とおおむね完了しているが、非構造部材の耐震対策についてはさらに進める必要があること。また、断水時のトイレや電力などに関する防災機能を確保している割合が50%に留まっていることから、防災機能の強化を推進していくことを挙げている。
なかでも強調したいのは、校舎の耐震化に比べて、避難所となる体育館の吊り天井などが落下する事故を防止する対策が遅れている地域が多いこと。また、ほとんどの学校の体育館にはエアコンが整備されていないことも、避難者の生活スペースになることを考えると心配の種といえる。
現在、ようやく普通教室へのエアコン設置が本格化しようとしているが、大規模な空調設備の設置が必要な体育館まで広げている自治体は極めて少ない。そのため、熱中症対策としてふだん使いすることも含めて、大型扇風機やスポットクーラー、冷水機を導入する学校が増えている。
さらに、災害時は水洗トイレが使えなくなることが想定されることから、プール水や雨水を利用したマンホールトイレや簡易トイレを設置することが進められているが、これも十分ではない。特に避難者にとっては滞在日数が長くなればなるほど衛生的なトイレ環境の確保が大事になることを踏まえると、一刻も早い対策が求められるところだ。また、トイレについては幅広い年齢層が利用することを想定した多目的トイレなども検討しておく必要がある。
避難所生活の長期化も視野に
こうした、いざという時に備えた対策の効果は、実際に災害が起きた熊本県での報告でも明らかになっている。2016年の熊本地震では公立学校の394校(66%)が被災し、主な被害として壁等破損、天井落下、エキスパンジョイントの損傷、水道・給水管破損、窓ガラス破損、玄関部隆起、プール設備の損壊などが報告されている。
だが、構造体の耐震化が進んでいたため、一部損壊はあるものの倒壊した棟はなかった一方で、非構造部材の耐震対策(吊り天井、照明、バスケットゴール)が未実施の153棟において、多くの被害が報告されている。また、公立学校223校(37%)が避難所となったが、これらの被害によって、そのうちの73校で体育館が避難所として使用できなかったという。
続いて、避難所となった学校の施設面での課題については、備えられていなかったために困った機能として、体育館内の多目的トイレやトイレ水の確保、自家発電設備が挙げられている。なお、断水解消後は生活スペースとしての機能を求める住民が多くなったとして、空調やプライバシー配慮スペースが必要とほとんどの設置者が回答している。
こうした傾向は避難所生活が長期化するほど顕著になっており、シャワーや調光、情報通信手段など生活インフラを要望する比重が高くなっていくようだ。また、熊本地震では車中泊が多かったため、ナイター照明が安心感を得られるとの理由から役に立ったとの回答が多かった。
自治体組織が一体になった設備投資を
これまで私たちが経験した多くの災害で見てきたように、大規模災害が発生した場合は、学校が市町村により避難所として指定されているか否かに関わらず、学校に地域住民や帰宅困難者が避難してくることが分かっている。それだけ地域に暮らす人たちにとっては、学校施設は身近で安心できる、いざというときの拠り所なのである。
したがって、本来は子どもたちの安全を確保する責任がある教職員には、同時に一定期間は地域の人々の支援にも従事する必要が生まれることは避けられない。だからこそ、学校施設の防災機能強化をなるべく早く充実させる必要があるのではないか。
とはいえ、学校に求められる防災機能については、当然ながら今の学校施設予算の枠組みの中で消化しきれるものではない。それゆえ、自治体の防災施策を総括する防災担当部局が中心となって、教育委員会、上下水道等の関係部局、及び地域住民等と連携しつつ、学校施設を地域の防災計画全体の中でどのように位置付けるのか、広い枠組みの中で検討し、防災関連予算や下水道予算、情報通信関連予算等の関係行政分野の予算も活用しながら整備していくことが必要である。
その上で、学校施設にあらかじめ備えておくべき避難所としての機能は、「生命確保期(2~3日後)」における必要最低限の避難生活の確保のための機能が中心であると考えられるため、施設設備の検討にあたってはこれを念頭におき、防災機能の強化を計画していくべきだ。
こうしたなか、今回の政府の国土強靭化に向けた緊急対策は、これまで思うように財源化ができなかった、あるいは理解が浸透しなかった、学校施設関連予算を拡充できる千載一遇のチャンスである。ぜひ、この3年間を無駄にしないよう、ハードとソフトを兼ね合わせた計画的な整備に取り組んでほしい。