大学入学共通テストに挑む 批判的読みで意見・事実を判別
17面記事英語・筆記
滋賀県立膳所高校
平成30年度プレテストについて
大学入試共通テストの出題方針が発表された。これまでの試行テストは実際に行われる共通テストの性格をかなり正確に反映していると考えられそうだ。特徴的な点は、実際のコミュニケーションを想定した明確な場面、目的、状況設定を重視することや、テキストを読み、事実や意見等を整理する力、テキストの構成を理解する力、テキストの内容を理解して要約する力等を問うことを狙いとしていることだ。
これらは新学習指導要領の方向性とも一致する。特に「育成すべき資質・能力の三つの柱」の(1)知識及び技能(2)思考力・判断力・表現力(3)学びに向かう力、人間性―のうち、(2)は、情報を整理しながら考えなどを形成し、英語で表現したり伝えあったりすることに関わる部分で、試行テストにも明確に反映されている。
生徒が学習する場面(ディベートやディスカッション、プレゼンテーションなど)や、資料やデータ等を基に考察する場面など、「生徒がどのように学んできたか」を意識した問題の場面設定となっていることも大きな特徴だ。
これらを踏まえると、授業で日常的にリーディングやリスニングによって受け取った情報を、使用目的に応じて整理して、スピーキングやライティングにつなげる活動を行い、そうした活動に必要なスキルを生徒に習得させることが、結果的に共通テストに対応する力の育成につながるだろう。
第2問Bは「ディベートの準備をする場面」という設定があり、設問では与えられたテーマ(Mobile phone use in school should be limited.)の肯定派の意見、否定派の意見をそれぞれ事実と整理して読み分ける必要がある。A2レベルの設定にもかかわらず、やや正答率が低い問題だった。
実際の授業でも、教科書の英文で扱われている内容に関して、ディベートを行うという活動を行うことで、目的に応じた読み方や情報を整理する力、意見形成をして表現する力を養うことができる。過去に扱ったSelective Breeding(品種改良)について書かれた教科書の授業展開例を簡単に紹介したい。
授業提案
・生徒の受容レベルと発信レベルのギャップを意識する
ワークシートは文全体を読んで概要をつかむためのパラグラフのタイトル選び、各パラグラフの要点を確認するためのgist questions、明示されていない内容を正しく読み取るreading between the linesなど、リーディングスキルを意識した構成にしている。
大切にしているのは、本文の表現をそのまま使用するのではなく、生徒の習熟度に合わせて言い換えることである。「コミュニケーション英語」に採用される教科書は、生徒が理解するのにやや困難を感じるレベル、つまり受容レベルとして必要な難易度の英文を扱ったものが選ばれていることが多い。
しかし、リーディングで得た情報をスピーキング活動で使うためには、情報内容を生徒の発信レベルの構造や表現とリンクさせていく必要がある。ワークシートの設問や選択肢を作る際、生徒の発信レベルの構造や語彙を使うよう心掛けることによって、生徒は発信レベルの語彙や表現を蓄積し、後で行う活動での生徒の発話が、より活発になることが期待できる。また、プレテストでも選択肢は本文の情報が言い換えられているので、このような意識は常に持っておく必要がある。
・opinionとfactを判断する
このレッスンのワークシートでは、特に事実か意見か、意見であれば誰の意見かを整理する活動に焦点を当てた。ワークシートには本文で言及されている情報を説明した英文を10個ほど挙げておく。前述のように、本文で使われている表現を抜き出すことは避け、生徒の発信レベルに近い表現でパラフレーズした英文にする。
授業では、正解かどうかではなくて、「なぜそう判断するのか」を意識し、読み方のバリエーションを広げて生徒のリーディングスキルの向上につなげる。
opinionかfactかをどうやって判断するのか。情報内容からのアプローチとしては、一般的に「証明することができること=事実」「証明できない考えや信念=意見」といえる。英文を読み慣れた人にとっては当たり前にできていることだが、英文の理解そのものに負荷がかかるslow learnerにとってはそう簡単なことではない。
もう一つの側面として、特定の文法や表現が持つ機能の理解がある。以下に挙げたものは試行テスト第2問Bの選択肢である。
・students should play with their friends between classes
・the cost of storing students’ mobile phones would be too high
shouldは助言などをするときに用いる、wouldは可能性や話し手の推量を表す、といったことが、日々の授業の活動を通じて直感的に理解できるようになっていることが大切だ。試行テストを見る限りでは、文法の単独問題は姿を消すとしても、特定の表現や構造が持つ機能に注目して「どのような場面で使われるか」を意識した指導はこれまで以上に必要になる。
「事実」を読み取り、情報を「事実のように思われている一般的な考え方」や「事実ではない書き手の考え」などに整理できることがcritical reading(批判的読み)の基本であり、ディベートなどで、論理的でかつ説得力のある議論をするために必要なスキルだといえる。
・教科書のテーマと関連した英文を読む
教科書で扱われている題材を、別の角度から切り取った英文を読むことは、生徒の意見形成に欠かせない。今回は、教科書を読んだ後、selective breedingについて、異なる立場から述べられた二つの英文を読んだ。目的は「ディベートの準備」であるため、利点とその具体例、問題点とその具体例、などに分類しながら英文を読み進めた。
・具体例と上位概念を分類する
この段階に限ったことではないが、リーディングの際には、具体例とその上位概念、つまり「何を伝えたいための具体例なのか」を整理するということも重要だ。論理的に表現するためには、自分の主張と、それを支える的確な具体例を示せることは有用なスキルであり、リーディングの際に意識することで、さまざまなパターンに出合うことができる。
・ディベート活動を行う
ディベートといっても、あまり形式的なことにこだわらず、肯定または否定の立場に立って、「その根拠を明確な構成を使って相手に伝える」ことを本質と捉えて授業に取り入れている。情報はリーディングで得たものに加えて自分で収集し、表現はワークシートや教員が授業中に使用する表現などで発信レベルのものを蓄積し、自信を持って相手に伝えられるように、それぞれのステップを授業展開に忍び込ませることが活発なやりとりにつなげる鍵となる。
目的に応じた読みをしながら、多くの英文に触れ、英文を読んで理解したことや得た情報を使ってスピーキングなどのアウトプット活動を行う。それによって生徒の思考がアクティブで、より深まりのあるものになるような授業づくりを、本校では英語科全体で目指している。