日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

大学入学共通テストに挑む 生徒が問題と解答例作り採点

10面記事

Topics

国語
河口 竜行 渋谷教育学園渋谷中学・高校教諭

平成30年度プレテストについて

 本稿では平成30年度プレテストの中から、記述式問題である第1問を取り上げた。ここで【文章I・II】として採用されたテーマの共通する二つの評論文は、長さ・難易度ともに適切なものと考える。
 問1は、傍線部直前の指示語に注目しつつ、傍線部にある比喩表現の示す内容を説明するという一般的な読解・記述問題である。
 問2は、設問に工夫があり、【文章I】と【文章II】とを関連付けて考える形になっている。ただし、表示されているノート(本文の内容を整理したものという設定で、解答はその空欄を埋める表現を記述する)が関係するのは【文章II】だけである。解答を書くためには、【文章II】の一部を読めばよいことになる。形式に戸惑うことさえなければ、解答しやすい設問である。
 問3は、300字ほどの【資料】が加わり、三つの文章から得た情報を関連付けて考えることが必要となる。設問文は約240字と長く、求められていることを理解するには、ある程度の読解力と時間が必要である。条件が多い点や、設問の意味が取りにくい点は、無解答等が56・5%だったことにも表れている。改善を期待したい。
 ただ、いずれの問いも、本文と設問を落ち着いて理解して臨めば、授業で身に付けた読解力や、言い換え・要約等の記述力で対応できるものである。この点については、29年度のプレテストの結果や、各方面からのフィードバックの分析に基づいた改善がなされている印象である。

提案授業

 大学入学共通テストの国語については、記述式問題の採点が大きな話題となっている。採点基準は明確なのか、それに沿って客観性のある採点が可能なのか、といった点である。これについては、本文の選択や設問の工夫はもちろん、試行調査で三つずつ示されていた解答例の数を増やす、基準(正答の条件)を詳しくする、などの対応がなされることを期待したい。
 また受験生の側は、与えられた解答や基準を基に、可能な限り正確な自己採点ができることが必要となる。
 とはいえ古典も含め問題の大半は依然として選択式である。本文を表現に即して丁寧に読み、筆者の述べようとすることが理解できれば、無理なく解答できるはずである。試行調査の問題を見る限りでは、より受験生の考える力を問おうという、改善の意図が伝わってくる。
 ここでは、現代文の授業パターンの一つを紹介したい。生徒たちが問題と解答を作り、他の生徒の解答を採点するという活動を行う。本文の難易度により、かける時間は調整が可能である。目安は3~4コマほど。予習は課さない。

【目的】
 ・「問う力」を付ける。
 ・問題と解答を作成することによってテキストを深く読み込むことに慣れる。
 ・採点を行う経験を、自分が解答を記述する場面や自己採点をする場面に生かせるようにする。

【対象学年】
 本文の長さや難易度を変えることによって、どの学年でも対応可能。

【テキスト】
 評論文。対象の生徒たちにとって難し過ぎないような内容で、千字から長くても3千字ぐらいのものを選ぶ。教科書に掲載されているような一般的な評論でよい。特に慣れないうちは、論理が明確で、語句も易しめのものがよい。

【準備】
 4~5人のグループを作り、授業者が、アイスブレイクとして生徒が互いに話をして理解し合える環境をつくる手助けをしておく。授業内でのこのような準備はもちろん大切だが、それ以前に、日常的にクラスや学年で、同じグループになった相手と自然に対話できるような雰囲気づくりや具体的な練習がなされていれば、なおスムーズに授業が進行する。

 実際の授業は次のように進める。

テキストを読む
 初めにグループ内で自分たちの決めた形式でテキストを読む。読んだ後に、この本文に関して自分たちで問題を作るということをあらかじめ説明しておく。できれば黙読ではなく、交代しながら音読するよう指示しておくとよい。どのように交代し、誰がどの程度読むかなども、各グループで主体的に決めることにする。自分たちで決めた読み方にするだけで、本文への集中度が増すことが多い。

問題発見とシェア
 読んでもよく分からなかった点、疑問に思った点をグループ内で出し合い、それを各自のノートかワークシートにメモする。この疑問点は、どんなに小さなことでも構わない。少なくとも10分は確保する。その後、グループ内で出た疑問への答えを考える時間を取る。解決できないものについては、他のグループに意見を求めてもよいし、そのままになってもよいことにする。
 一定の時間を取った後、クラス全体の活動に移る。授業者が司会をし、疑問のままになっている項目を各グループから順番に発表する。他のグループの生徒から、それらへの答えが出せるものについては、出すようにする。

問題と解答例の作成
 ここまでの活動を基に、各グループ一題ずつの問題を作成する。慣れないうちは、どんなものでもよいことにした方がよい。形式も、傍線を使った問題・空欄補充、また、記述式や選択式など、いろいろ出ることが興味にもつながるからである。選択式の場合には、選択肢も全て作る。
 慣れてきたら、「傍線部はどういうことか」または「傍線部はなぜか」などとパターンを指定することもできる。
 グループの問題が決まったら、グループとしての解答例(記述式の場合)を自分たちで話し合って作成する。この中で、字数の指定が生じたり字数を変更したりすることもあり得るということを助言しておく。

答案作成
 各グループの作った問題を授業者が回収して、生徒の人数分を印刷して配布する。各自で解答する時間を十分に取る。その後、自分のグループ内で協力して、他グループからの問題に対する自グループとしての答案を作成する。

採点・返却
 グループの答案ができたら、解答用紙を、その問題の作成グループにそれぞれ提出する。逆に、集まってきた自分たちの問題への答案を、メンバーで協力しながら採点する。
 事前に採点基準を作成するのは生徒たちには難し過ぎるので、この時点で、解答したグループに説明できるように採点基準を作成する。答案にも、どの部分がどのように得点になったのかを記入しておく。一問を一律10点にするなど、授業者側が形式を考え、指示しておいてもよい。
 採点できたものは、解答したグループに返却する。返却を受けたグループは、よく吟味して、採点に納得できない場合には(これはよく発生する)、出題採点したグループに説明を求めに行く。

振り返り
 クラス全体で振り返りの機会を持つ。各グループから、順番に問題や解答、採点等について解説をする。授業者から、それらについての補足の解説があれば行う。得点の合計をグループで競い合う形にすると盛り上がる。
 各自、振り返りシートを記入する。作成および採点の側、答案作成の側それぞれについての振り返りを行う。

 問題意識を持って文章を読む習慣をつけようと考えて始めた形式だったが、生徒たちからは「出題・採点者側に回ることで、本文や問題、採点などを客観的に見ることができるようになった」という感想も出ている。
 このような授業を通じて、生徒自身がどのような力が付くのかを認識し、主体的に学習に取り組む方向に進んでいけば、新テストでも必然的に成果を出すことができるはずだ。

Topics

連載