教育旅行を通じて生徒の成長を促す施設とは
14面記事ダイナミックな景観が楽しめる地蔵岳登山
埼玉県立行田特別支援学校
自然の教育力を活用
学校や家庭など普段の生活エリアとは異なる場所での体験は、生徒たちの視野を広げる良い機会となる。埼玉県立行田特別支援学校(松中直司校長、児童生徒数230)の高等部では1・2年次に自然の中で宿泊体験を実施。山や川、風、草木や昆虫などと触れ合う機会を設けている。
「自然の力を借りて生徒の情緒面の安定を図る目的もある。情緒面が安定すると活動自体に落ち着いて取り組め、さまざまな活動自体の成功にもつながりやすい」と話すのは加藤雅生教頭だ。
こうした体験を積み重ねて臨む3年次の修学旅行や社会体験学習では他者とのかかわりが求められるアミューズメント要素の多い場所も訪問する。卒業後の生徒の自立、社会参加に向けた総仕上げと位置付けている。
赤城山の大自然で達成感を味わう
自分のフィールド外での自立の第一歩である基本的生活習慣を獲得し、仲間との協力や協調を体験するには、全国にある国立青少年教育施設などの場で行うことが望ましい。身の回りのことを生徒自ら行う場面が多いからだ。
2年次の7月に実施する1泊2日の宿泊体験は、
・バスで行ける範囲
・ある程度の距離感が保てる
・雨天時の活動場所が確保できる
―などの理由から、群馬県の国立赤城青少年交流の家で実施している。
同施設は関東平野を見下ろす赤城山の中腹に位置する、宿泊定員400名、敷地面積約25万平方mの施設だ。豊かな自然の中で登山やハイキングを中心とした体験活動プログラムを提供する。
同校が利用する場合、1日目の行程は生徒の状況により2つのルートを設ける。行動的、体力的に問題のない生徒は地蔵岳への登山。身体的に不安がある生徒は覚満淵の散策となる。快晴なら地蔵岳の頂上からは眼下に大沼を臨む雄大な景色が見られ「あと少し頑張ろう!」と生徒たちのテンションも上がり、励まし合いながら頂上を目指す。
雨天時には体育館でスポンジフリスビーを用いたドッジボール大会や研修室でのビデオ鑑賞ができる。あらかじめ雨天時のプログラムや会場を確保できるのも、交流の家を利用するメリットだ。
1泊目の夕食後は講堂でろうそくの火を囲む「キャンドルファイヤー」を実施。ゲームやダンスなどのレクリエーション活動を楽しむ。生徒たちにはそれぞれ役割を設定し、成功体験を得られる場面も作っている。
2日目は交流の家を退所後、自動販売機の組み立て工程が見学できる施設を訪問した。「初めて見たよ!」「中はこうなっているんだ」等、しきりに感心する生徒の姿が見られた。買い物の経験がない生徒も多いので、好きな飲み物を自動販売機で購入するなど、施設を通して普段経験できないことができる。
自立に向けた活動促す施設の活用を
知的障害がある生徒たちは変化や変更への対応が苦手だったり、不安を感じたりしやすい。事前学習では計画表やしおりを使って行程を確認する。交流の家での入退所式やイベントの予行練習は数週間前から授業に組み込み、非日常の活動への見通しを持てるようにしている。
事後学習では当日の経験を文章にするなどの振り返りを重視する。失敗をしても「どうすればよかったか」に目を向けさせ、次の成功体験に結び付けるよう導いているという。
加藤教頭は交流の家の活用について「特別支援教育の視点から言えば、食事や入浴、就寝準備や片付け、掃除など全てのことに狙いや目標がある。生活場面を通して、基本的な生活習慣を身につけ、自立的な活動を増やせるかが課題となる」と話している。
生徒の状況は多様だが教育旅行は生徒たちの将来の社会参加の重要なきっかけになる。今後、利用する可能性がある施設には「スペース的にもサービス的にも一層の合理的配慮を求めたい」と加藤教頭。「優遇し過ぎでは? と受け取られることがあるかもしれないが、施設側・利用者側双方で、合理的配慮の精神を今一度確認していくと共に、児童生徒の活動状況をぜひ見てほしい。それが共生社会の第一歩となると考えている」。
キャンドルファイヤーで「火の妖精」を務める生徒