大学入試改革の行方 共通テスト 配点、問題作成方針を公表
10面記事2021年1月に実施される大学入学共通テストの配点や問題作成方針が正式に公表された。各教科・科目の出題方針など改めて確認しておきたい。国語や英語などでは、センター試験とは異なる高校の対応が必要とされている。
各教科、科目はどう変わる
国語
国語は「国語総合」の内容を範囲に近代以降の文章、古典(古文、漢文)から出題する。近代以降の文章では「論理的な文章」「文学的な文章」とともに「実用的な文章」が示されているのが特徴。過去2回のプレテストでも著作権の法律などが資料として出された。
また、一つの題材で大問を作成するだけでなく、「異なる種類や分野の文章などを組み合わせた複数の題材による問題」も検討するという。
これもプレテストでは、詩とエッセーを並べて、表現方法の違いを答えさせるといった形式で出題されている(平成30年実施、第3問)。
新たに導入される記述式問題は、小問3問で構成される大問を1問出題する。題材とするのは「実用的な文章」と「論理的な文章」、または両方を組み合わせた内容。文章で書かれている内容や構造を把握し、解釈して、考えたことを端的に記述することを求める。解答の字数は、最も長い問題で80~120字程度とする。
試験時間は、記述式問題の導入に伴い、これまでよりも20分長い100分になる。高校の授業時間の倍に当たり、受験生には集中力の維持が必要だ。
配点は、マークシート式問題は200点、記述式は点数化せずに小問ごとに段階別で表示する。採点は、民間事業者に委託しながら最終的に入試センターで実施するという。
数学
数学は、問題解決の「過程」を重視するのが特徴だ。30年のプレテスト第5問では、三角形の各頂点からの距離の和が最小になる点について、2人の会話文を読み、解決過程を振り返りながら、考察する問題が出題された。問題を通して、事象の数量に着目する▽構想・見通しを立てる▽目的に応じて数・式・グラフなどを活用し、数学的に処理する▽解決過程を振り返り、得られた結果を意味付けたり活用したりする―ことを求めるという。
題材も見直す。教科書では扱われていない数学の定理を、既知の知識を活用して解く問題などを検討する。
国語とともに導入する記述式問題については「数学Ⅰ」の範囲から出題する。マーク式問題と混在させた形で、数式などを書く小問を三つ出題する。国語とは異なり、数学では段階別表示はせず、マーク式問題と同様に配点をする。
英語
英語は4技能(聞く・話す・読む・書く)のうち「読むこと」(リーディング)と「聞くこと」(リスニング)を出題する。実際のコミュニケーションの目的や場面に応じて適切に活用できるかを評価する。
そのため、センター試験で出題されてきた発音、アクセント、語句整序を単独で尋ねる問題は廃止する。
民間の資格・検定試験も併用する英語の試験では、難易度があらかじめ設定・公表されている。国際指標のCEFRで「A1~B1」レベルで作成することとした。
リーディングは、複数のテキストから概要や要点を把握したり、情報を読み取ったりする力を測る。リスニングでも生徒の身近な暮らしに関する内容について、リーディングと同様、話の概要や要点を把握する力などを問う。
リスニングの音声についてセンター試験では2回流してきたが、多くの民間試験では1回で実施している。これを踏まえ、共通テストでは1回のみの問題も加え、今後、全てのリスニング問題の音声の読みを1回にすることを検討するという。
英語は他にも配点を見直したのが特徴だ。センター試験の「筆記200点」「リスニング50点」を改め、「リーディング」「リスニング」をそれぞれ100点で均等にする。
大学が選抜段階で具体的にどちらの技能にどの程度の比重を置くかは、それぞれの大学が設定し、入学者選抜・募集要項で明らかにすることになる。受験生の志望校選びに大きく影響してきそうだ。
地理歴史
地理の出題方針では、地域をさまざまなスケールから捉える問題▽知識を基に推論したり、資料を基に検証したりする問題▽系統地理と地誌の両分野を関連付けた問題―などを検討している。
歴史は、用語の知識だけにとどまらず、歴史的事象の意味や特色、相互の関連について総合的に考える力を問う。例えば、教科書に出てこない初見の資料を示し、そこから得られる情報と授業で学んだ知識を関連付ける問題を出題する。また、時代や地域を超えて特定のテーマについて考察する問題を出す。
昨年度のプレテストの「世界史B」では、近隣国家が中国王朝について言及した、時代の異なる二つの初見資料を示し、そこから読み取れる内容を尋ねる問題が出された(第4問B)。
公民
「現代社会」は、図や表など多様な資料を使い、データに基づいて考察し、判断する問題を検討中だ。「倫理」の問題作成では倫理的課題について、思考したり批判的に吟味したりする問題、原典資料などを手掛かりに、さまざまな立場から考える問題を想定している。
理科
物理・化学・生物・地学の基礎科目は、基本的な概念や法則などの理解と、それを活用した探究的な過程の理解を重視。問題の作成に当たっては、身近な課題を題材にする。物理・化学・生物・地学では、受験生にとって未知の事象について総合的に考える問題や、観察・実験・調査の結果を分析し、解釈する力を問う。センター試験で出題してきた選択問題は廃止することを決めた。
問題作成方針では、入試センターから大学への成績提供の方法についても示した。共通テストでは個人別成績として得点合計、科目別得点の他に「参考情報」として科目ごとの9段階の成績表示も提供。提供日程は、私立大学には2月9日から、国立大学には2月11日から始める。ただ、国公立大学で共通テストを課す「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」は2月10日から行うこととした。
重要性高まるリスニング指導
センター試験から出題方法が目に見えて変わる英語。高校現場はどう受け止めたのか。
滋賀県立膳所高校の富永幸教頭は「試行調査の出題方針と一致しているため、大きな驚きはない」とした上で、配点の変更の影響は大きいと見る。リスニングの試験時間は変わらず配点はリーディングと同じになることで「授業でのリスニング指導の重要性は高まるだろう」と指摘する。
リスニング指導について富永教頭は、これまで一般的に行われてきた「問題を解く」だけの活動ではなく、聞いたことを基に発表したり、聞いたことに対して自分の意見を述べたりするような、複数の技能を組み合わせた活動を日常的に行う必要があるという。
「リスニング重視」の方針の影響をまともに受けるのは、主に難関国公立大学よりも、地方国立大学への進学希望者の多い高校になる、と富永教頭はみる。
難関国公立大学では2次試験(個別試験)に比べ、センター試験の配点は低く、進学指導に力を入れる高校では、センター試験対策に多くの時間を割いていないのが現状だ。各大学の共通テストと個別試験の比重がこれまで通りなら、「センター試験対策を重視している学校にとって、配点の変更の影響は比較的大きい。1、2学年の授業改善がカギになる」
新渡戸文化高校(東京都中野区)の山本崇雄教諭は「発音やアクセント、表現方法を限定した一問一答の問題が減ったのはとても良いこと。リスニングやリーディングも高校生が実際に身の回りで起こりそうな題材になっていて、普段の勉強とつながる」と評価する。リスニングは、生徒の身近な暮らしや社会に関わる内容が題材になり、話の要点を把握する力を評価することとされている。
山本教諭は、高校では「生徒が興味・関心を持った題材をネットから記事を探して読み、英語で意見交換するような授業が求められる」と指摘する。
東京都立両国高校の布村奈緒子教諭は、リーディング問題の変化についても言及する。「(プレテストでは)発音や語句整序が出題されなくなり、リーディングの総語数は増えた。従来通り一文一文丁寧に構文解析を行う読み方では、共通テストは対応できない。文法訳読式の授業をしていた学校は対応が迫られる」と指摘する。