環境問題に取り組む企業・団体の活動
12面記事子どもたちの未来をつなぐ、環境教育の「場」と「機会」を提供する
現在、学校教育の果たすべき役割の1つとして、持続可能な社会の実現に向けて実践的に行動できる人材を育成することが挙げられている。そして、こうした学校現場への支援として期待されているのが、環境問題の最前線にいる企業・団体自らが未来を担う子どもたちのために環境教育の「場」と「機会」を提供する教育CSR活動になる。ここでは、その背景を整理するとともに、企業・団体の取り組みを紹介する。
持続可能な社会に向けた2030年までの目標
地球の生態系に配慮し計画性をもって管理・生産された製品を消費者に選んでもらうことで、環境の保全を実現する取り組みが求められている中、2015年9月に国連加盟国によって共通の目標として採択されたのが「持続可能な開発目標(SDGs)」だ。我が国も“オール・ジャパン”でSDGsに取り組むことを表明しており、2018年には持続可能なまちづくりを推進するため、積極的にSDGsに取り組んでいる29の自治体を「SDGs未来都市」として選定するなど対策を進めている。
このSDGsでは2030年までのグローバルな取り組みとして、貧困や飢餓の撲滅、平和平等、経済成長、教育福祉、気候変動など17の達成するべき目標が示されているが、これらの課題を解決するためには、今まで以上に産・学・官が連携を深めて努力していく必要があるのはいうまでもない。さらにいえば、私たち一人ひとりが密接に関わっている問題として理解し、それぞれの生活や活動の中で実践していく姿勢が大切になる。そうした意味においても、持続可能な社会の実現に向けて行動できる人材の育成=学校教育での取り組みが、日本の目標達成に大きく関わっていくことになるといえるだろう。
関心が高まる教育CSR活動
一方、企業が今後発展していく上でも、環境や社会への責任を果たしているかどうかが年々問われるようになっていることから、消費者や投資家などに対して企業イメージを向上する社会貢献活動(CSR活動)が重視されるようになっている。その中でも、近年関心が高まっているのが、子どもたちに向けた教育CSR活動になる。なぜなら、企業にとって次世代の人材を育てることは会社を存続していくために欠かせないことであり、子どもは将来、消費者にもなる存在だからだ。
こうした企業や業界の関係団体による教育CSRは、従来はモノやお金で子どもたちを支援することが主流だったが、それだけでは社会との主体的な関わりが薄いといえる。加えて、企業の課題の1つになっている、社員たちの働きがいにもつながらないといったことから、ここ10年では「自分たちの持っているノウハウを、次世代を担う子どもたちに直接伝えていこう」という動きが高まっている。その代表的な活動が学校現場への出前授業だ。
たとえば、どのような工程のもと製品やサービスを開発して消費者に提供しているか。あるいは環境負荷の低減にどのように寄与しているかなどを、プロの視点から具体的に子どもたちに提供できるのが出前授業の強みといえる。また、一般企業に勤めたことがない教員には難しい、キャリア教育にも大きく貢献することができる。
企業と学校をつなぐコーディネーター
しかし、普通の企業には学校との接点がないため、出前授業を企画しても、なかなか受け入れてくれる学校が現れないといった現実があった。また、学校側も多忙な中で企業が用意した授業を探したり、吟味したりする時間が取れないという事情も垣間見られた。そこで、このような課題を解決するために期待されているのが、企業と学校を橋渡しするコーディネータの存在である。
そんな企業と学校をつなぐ活動にいち早く乗り出したのが、2009年に教育委員会内に学校支援ネットワーク本部を設置した東京都墨田区だ。ここでは、教育委員会が主体となって学校が求めているものを外部に発信し、各学校への出前授業をコーディネートしている。
学校の授業で活用してもらうためには、学習指導要領に準じていることが不可欠である。せっかく企業がやる気になっても、的外れな内容であれば学校に受け入れてもらうことは難しいため、これに即した内容に変更してもらったり、新しいカリキュラムを開発してもらったりすることも、コーディネータの大切な役割になる。つまり、学校の出前授業を軌道に乗せるには教育委員会など行政組織のアテンドが重要になるが、最近ではこれらを踏まえて、企業やNPO団体などが学校に出前授業を紹介・派遣するサービスを開設する動きも始まっている。
与えるだけでなく、得るものも多い
もう1つ、企業・団体の教育CSR活動では、子どもたちが参加できるコンクールなどを主催・協賛することも多くなっている。たとえば環境問題がテーマなら、環境ポスターや作文、写真のコンテストが挙げられるが、近年ではもう一歩進んで、環境負荷の低減に向けた子どもたちの活動を表彰したり、アイデアを募ったり、企業と一緒に研究に取り組んだりする活動へと広がっている。
そんな企業が未来を担う子どもたちの学びに手を差し伸べるメリットは、ただ与えるだけではないという点だ。そこには社員が参加することで誇りや働きがいが生まれたり、新しい刺激が次の製品・サービスのアイデアになったり、子どもたちが会社のファンになってくれたりといった、会社を活性化させる目に見えない利益が生まれるからである。実際に教育CSR活動をしている企業に話を聞くと、「むしろ、得られることの方が多い」といった声も多く挙がった。
教育に足りなかった社会との接続や実践力を
グローバル化が進めば進むほど、環境問題は世界共通のテーマになっていく。同時に、わたしたちを取り巻く、人・モノ・情報・サービスなどのあらゆる環境が著しい変化を遂げていくこれからの社会を見据えたとき、資源に乏しく、高齢化が進む我が国の行方を担っているのが、子どもたちだ。だからこそ、学校だけでなく、わたしたち大人一人ひとりが手を取り合い、持続可能な社会の実現に向けて実践的に行動できる人材の育成に取り組んでいく必要があるといえるだろう。
なかでも、企業が持っているノウハウを、次世代を担う子どもたちに伝えていく「教育CSR」は、これまでの我が国の教育に足りなかった、社会との接続や実践性といった部分を補い、子どもたちに将来目指す方向性を示唆したり、グローバル時代を生き抜く力を育てたりすることに大きく貢献できるものだ。今後も、さらに企業・団体による「場」と「機会」の提供が進むことが期待される。