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大学入学共通テストに挑む 消費者問題で「概念・理論」活用

13面記事

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政治・経済
黒岩 公輔 東京都立立川国際中等教育学校主任教諭

平成30年度プレテストについて
 2018年実施されたプレテストの設問数は30問と、センター試験に比べて少ないものの、ページ数は42ページ、資料数は24にも上った。限られた時間の中で政治・経済に関する知識を基にして複数の資料を読み取りながら、思考力・判断力を活用する問題が多くあり、受験生は苦労したであろう。大学入試センターによると平均得点は49・27点であった。
 今回取り上げるのは第1問Bの問6。地方自治制度や地方財政についての理解を基に、その特徴を示す適切な資料を判断する問題である。配点は3点で、選択肢は八つある。設問正答率は14・3%と、今回のプレテストでは最も設問正答率が低かった。本問は三つの資料それぞれについて、都道府県または道府県が当てはまるものの組み合わせを答える設問であるが、まずは「設問で何が問われているか」を正確に理解する必要がある。
 本問の特徴は三つある。1点目は政治・経済の広範囲にわたる学習内容から出題されている点。2点目は地方自治・地方財政についての知識と、それに関する資料を読み取る技能を基に、思考力・判断力を働かせる必要がある点。3点目は三つの資料を一つ一つ丁寧に読み取り、判断する必要がある点である。
 【資料1】の地方自治法は受験生にとって見慣れた法令とはいえないが、第2条5まで読み進めると、Yが都道府県だと容易に判断できる。【資料2】では日本の警察は都道府県が主体となって設置されているという知識を基に、Bが都道府県だと判断できる。【資料3】の収入額は、消費税のうち地方消費税は都道府県にいったん払い込まれるという知識を基に、アが道府県税であると判断できる。

提案授業
 では、このような形式の問題を解くための資質・能力を身に付けるためには、どのような政治・経済の授業が必要だろうか。それは、次の三つを実現する授業だと考える。

 (1)生徒と現代社会とのつながりに気付かせる「問い」を設定した授業
 (2)ICT機器を活用しつつ複数の資料の活用を通して知識の定着を図る授業
 (3)学習過程に応じて社会的な見方・考え方を活用することで、思考力・判断力・表現力等を育成する授業

 <表1>で示した授業計画は「グループ活動によって知識の定着を図り、『概念や理論』を活用して現代社会の諸課題を多面的・多角的に考察し、個人リポートをまとめ、発表する」というアクティブ・ラーニング型の授業である。
 今回は民法改正に伴い令和4年4月から成年年齢が満18歳以上に引き下げられることで高校の教育活動への影響が大きいと予想される「消費者問題」を取り上げ、3単位時間(1単位時間50分を想定)で展開する。
 成年年齢が満18歳以上に引き下げられると高校在学中に成年となる生徒が登場し、高校3年生のクラスの中に、成年と未成年が混在する状況が生じる。この状況が生徒たちにどのような影響を与えるかを構想する授業を「習得→活用→探究」という学習過程に応じて複数の資料を用いつつ、社会的な見方・考え方としての「概念や理論」を単元全体にわたって一貫して活用する。また、消費者問題を取り上げる際に、生徒と現代社会とのつながりに気付かせる「問い」を設定することで、現代社会の諸課題に対して主体的に取り組む態度の育成につなげる。

 1時間目は消費者問題についての知識や技能を習得させる。授業をするに当たり、事前に家庭科や中学校社会科(公民的分野)の教科担当者が実施した消費者問題に関する既習事項の情報を得ることで教科間連携を図る。既習事項を踏まえて「悪徳商法にはどのようなものがあるだろうか」という問い(1)を設定し、生徒に自分自身の生活と家庭科等で学習した事項とを結び付けさせる。
 続いて、ICT機器を活用しながら生徒に中学校社会科(公民的分野)や家庭科の既習事項を確認する。消費者問題に関する政策の変遷と、「消費者主権」や「情報の非対称性」「契約自由の原則」などの重要な概念を理解する。また、政治・経済で取り扱った日本国憲法第25条生存権の規定や企業の社会的責任の考え方と消費者問題は深く結び付いていることに、授業者と生徒との対話的な活動によって気付かせる。
 後半部分では消費者庁発行の『社会への扉』にある12のクイズにグループ(4人班)で取り組み、生徒同士の対話的な活動によって既習の知識同士を結び付けながら理解を深める。クイズに登場する「未成年者取消し」などの重要な概念については解説を加える。
 2時間目は、前の時間で習得した「概念や理論」を活用して、悪徳商法の問題点を考察する。ここでは、成年年齢が満18歳以上に引き下げられたときに学校内でトラブルの発生が予想されるマルチ商法を取り上げる。
 まず、消費者トラブルに関する動画を視聴してマルチ商法についての理解を深める。その上で「マルチ商法にはどのような問題点があるか」という問い(2)を設定し、資料『消費者基本法(第1条~3条)及び消費者契約法(第1条~3条)』を提示する。グループ(4人班)になり、「契約自由の原則」と「情報の非対称性」というキーワードを用いて発表用紙(A3サイズ)にまとめる。グループの代表者はこの用紙を基にクラス全体に対して発表を行い、全体で共有する。その際に、他のグループで良いと感じた発表内容をメモするスペースをワークシートに用意しておくと、他者の発表を聴く姿勢を育むことにつながる。
 3時間目は1・2時間目で習得・活用した知識や概念を基に、探究する活動を展開する。「成年年齢が引き下げられると高校3年生のクラスではどのようなトラブルが起きるか」という問い(3)を設定し、「成年年齢」と「情報の非対称性」というキーワードを用いて100字以内にまとめる。ワークシートで生徒が目指してほしい姿=「A(目標)」をルーブリック<表2>によって示すことで、まとめ論述に取り組む際のガイドラインにする。
 生徒は<表2>のルーブリックに基づいてまとめ論述を評価することで、思考力・判断力・表現力等が高まったのかを振り返ることができる。さらに、自分自身のまとめ論述をグループ(4人班)内で発表し合い、他者の考えや視点に着目することで消費者問題を多面的・多角的に考察することができる。さらに、「そのようなトラブルを起こさないためにはどのようにしたらよいか」という問い(4)を提示し、グループ(4人班)内で意見を交換する。最後に、「消費者問題で学習した内容を振り返り、他者との対話を通して、今まで気付かなかったことや理解が深まったこと」をワークシートに記述する。
 このように、複数の資料を用いながら、社会的な見方・考え方である「概念や理論」を学習過程に応じて活用する授業を展開することで、政治・経済の学習事項を相互に結び付けた主体的・対話的で深い学びの実現につながるのではないだろうか。

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