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大学入試改革の行方 共通テスト試行調査を終えて

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 大学入学共通テストは2回の試行調査が終了した。本番まで1年半。「思考力・判断力・表現力」を測ることを目的に、記述式問題の導入やマークシート式問題の見直しを行う新テストへ高校生はどの程度対応できるのか。

記述式 数学の問題数、見直しへ

 試行調査は2017年と18年の2回、高校2年生以上を対象に実施された。生徒の通っている高校で受けられる1回目とは異なり、昨年は大学を会場に実施。約6万8千人が受検した。記述式問題は国語・数学ともに3問ずつ出題された。
 昨年11月に実施した2回目の試行調査では、国語の正答率は第1問75・7%、第2問48・5%、第3問15・1%だった。入試センターが想定した7割、5割、2割の正答率にほぼ近かった。第1回の試行調査では第3問の正答率は0・7%だった。正答条件の見直しなど難易度調整がうまくいったとしている。
 字数制限は、第1問は30字、第2問は40字、第3問は120字。複数の正答条件を設けて採点した。前回同様、形式の違う複数の資料を比較させ、説明を求める問題などが出題された。
 数学I・Aでは記述式のうち、数式を記入する二つの問題の正答率が5・8%と10・9%、短文を書かせる問題が3・4%(無回答62・0%)と低かった。
 センターの分析では「難易度よりも全体の分量と試験時間のバランスが影響した」ことが理由だとしており、本番でも難易度は落とさず問題数などを見直す方針だ。
 生徒による自己採点と実際の点数との一致は国語が7割、数学が8~9割と第1回調査からそれほど変化はない。自己採点との差が大きければ、出願にも影響するため、本番でどこまで一致率を高められるかが課題になる。

マーク式 場面設定に不公平感

 マークシート式問題で最も平均正答率が高かったのは、地理Bの60・02%だった。センターが想定した5割程度の平均正答率を上回ったのは全19科目のうち7割を超える14科目だった。正答率が低かったのは生物の32・63%、また数学I・Aは34・54%、物理は38・86%だった。
 調査結果とともに入試センターがまとめた分析では、生物について「図表に示されたデータを読み取ったり思考したりするために時間を要する問題が多かった」と正答率の低さの要因に言及。問題文中の語句が難しかったとする有識者の意見も紹介した。
 また、数学I・Aでは「慎重に問題文を読んで題意を正確にくみ取る必要があり、想定以上に時間もかかる」と分析。出題形式の特徴でもある特定の場面を設定しての問いに対しては「それ(場面)を身近に感じている受験生とそうでない受験生との間に心理的な不公平感を与える」と指摘し、慎重な扱いを求めた。
 宮城県の高校の数学教諭は「センター試験から狙い自体が大きく変わっているようには見えないが、出題形式が違うため、生徒が慣れていないのかもしれない。テクニックではない、本当の学力が問われる印象だ」と話す。

記述の自己採点、高校で指導を
白井 俊 大学入試センター審議役

 試行調査の結果をどう受け止めたのか。大学入試センターの白井俊審議役に聞いた。

 ―2回の試行調査が終わりました。結果をどう見ていますか。
 教科によって傾向に違いはありますが、平成29年度に実施した1回目は全体的にチャレンジングな内容でした。センター試験とは出題の仕方が変わり、難易度の高い問題もありました。30年度の2回目の調査では、前年の結果を受け、修正しましたが、数学や理科では引き続き正答率の低い問題があった。

 ―記述式問題について、数学では正答率が1割を下回るなど非常に低い結果でした。目標を何割くらいに設定する予定ですか。
 まだ、本番の試験について、何割を目標にすると言える段階にはありません。試行調査の正答率は確かに低かったのですが、調査の時期が11月で高校2年生も受検したなど、本番とはいろいろ条件が違うことも考慮しなければいけないと思っています。試行調査で低かったからといって、あまり易しい問題にするわけにもいきません。

 ―マークシート式でも思考力を問う問題を目指してきました。達成できていますか。
 かなりの部分で達成できていると考えています。ただ、知識を問うような問題も当然必要なので、全体のバランスを重視します。少なくともマークシート式では「見たことがある」「聞いたことがある」という理由で選んだら正解してしまうような問題はなくしていこうと考えています。

 ―国語のみならず、全体として読解力が問われる問題になっています。
 従来は、例えば数学なら突然立体が提示され、その体積を求めるような、数学的な技能を直接問う問題ばかりでした。それに意味がないわけではありませんが、数学的な思考を実社会との関係も含めて問いたい。そうすると、どうしても問題の情報量が増えます。地理歴史や公民でも、リード文をしっかり読んで理解した上で考えなければいけない問題にします。

 ―一方、国語では契約書などの実用的な文章が題材になっています。
 社会に出てからも日常生活でも、マニュアルや契約書などの実用的文章を正しく読むことは当たり前に必要とされるスキルです。ただ、決して文学を否定しているのではありません。これもバランスが大事です。

 ―本番まで2年を切りましたが、残されている課題は何ですか。
 マークシート式については、問題のバランスや文章の情報量を見直していく必要がありますが、全体像は示せていると思います。
 記述式問題の自己採点と正答の不一致率の高さは課題だと認識しています。ただ、これをゼロにすることは不可能です。これまで高校で採点基準を生徒自身に考えさせるような機会がなかったのだと思いますが、定期考査の際に、答案を基に「ここまでは正答」「ここからは誤答」と判断させるような指導も必要になると思います。

 ―試行調査の終わった本年度はどのような準備をしますか。
 記述式問題の採点に焦点を当てた準備事業をする予定です。本番の採点を担う業者と協力して、採点基準の作り方や採点に疑義が生じた場合のプロセスなどを研究したいと考えています。

 ―高校側はどのように新テストに備えるべきでしょうか。
 高校教育改革と大学入試改革、大学改革を連動して進めており、共通テストは、学習指導要領をしっかり踏まえて作ろうとしています。指導主事経験者などを試験問題企画官として入試センターに配置し、高校教育の関係者が作問に携わるようになります。高校の学習指導要領の趣旨がどのようになっているのか、もう一度確認して生徒を指導してほしいと思います。

(略歴)前職は文科省教育課程課教育課程企画室長。新学習指導要領の改訂作業に関わった。

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