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急がれる老朽化対策とこれからの学校施設

10面記事

施設特集

老朽化が進む、全国の学校施設

時代にふさわしい環境づくりを目指して

 文部科学省では3月、学習指導要領の改訂や社会状況の変化等を踏まえ、今後目指すべき小・中学校施設の在り方と施設整備指針の改訂案をとりまとめた。ここでは、そのポイントについて、今年度の施設関連予算と併せて紹介する。

教育を取り巻く変化に対応する
 時代によって教育内容が変化するように、学校施設も児童生徒の成長を支える場にふさわしい環境づくりへと常に改善していく必要がある。そのため、文部科学省では昨年から「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」(主査=上野淳首都大学東京学長)を設けて議論を進めてきた。その結果をまとめたものが「これからの小・中学校施設の在り方について」だ。
 本報告書では、小・中学校施設の整備指針を改訂する背景として、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善を目的とする学習指導要領の改訂。少子化や老朽化が進行する小・中学校施設を取り巻く現況。地域との連携やICT環境整備といった配慮すべき事項の3つのポイントを示唆。その上で、これからの時代にふさわしい教育の場・生活の場として、最も身近な公共施設として、必要な施設機能を維持するための留意事項を網羅的に記載している。
 なお、学校施設整備指針は、このような学校施設を取り巻く社会状況の変化や課題等を踏まえ、平成15年には耐震化の推進、平成19年には特別支援教育の推進、平成21年には事故防止対策、平成22年には多様な学習活動に対応した空間の確保、平成26年には東日本大地震で課題になった避難所としての防災機能の強化、平成28年には小中一貫教育に適した学校施設の計画・設計など、これまで何度も改訂が重ねられ、内容の充実が図られてきた。

7つの視点を踏まえた改善を
 では、今回の改定案を具体的に見てみよう。報告書では、今後の小・中学校施設整備において特に留意すべきこと、さらに充実を図るべきこととして、

 (1)新学習指導要領への対応
 (2)ICTを活用できる施設整備
 (3)インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組
 (4)教職員の働く場としての機能向上
 (5)地域との連携・協働の促進
 (6)学校施設の機能向上
 (7)変化に対応できる施設整備という7つの視点を示している。

 特に(6)については、学校施設は子どもや教職員が使用するだけでなく、地域の多くの人が集まる場であることを踏まえ、安全性や快適性などの機能を高めることが必要と指摘。安全性では、耐震化とともに天井や外壁等の非構造部材、ブロック塀などの対策。快適性では良好な室内環境確保のための冷暖房設備(現状約5割)や換気設備、ユニバーサルデザイン、洋式トイレ(現状約4割)の導入などを挙げている。
 また、(7)では教育内容・方法や社会的変化等に対応し、学校施設を長く使いこなすための施設設備が示されている。
 さらに、(1)については、小学校における外国語活動や外国語学科の導入や、情報活用能力の育成のためのコンピュータを活用した学習活動の充実に向けて、日常的にICTを活用できる環境づくりが求められること。あるいは、小中一貫校においては異学年交流スペースを、児童生徒の導線を考慮して利用しやすい位置に配置し、規模や施設機能を計画することが重要としている。

「いかに活用するか」の視点が重要
 その上で、今後の小・中学校施設においては、必要な環境を「いかに整備するか」に加え、「いかに活用するか」「いかに改善するか」という視点が一層重要であり、これをカリキュラム・マネジメントの一環として位置づけ、学習効果を最大化させる取り組みにするよう求めている。
 その他、(3)では施設のバリアフリー化を一層推進するとともに、落ち着いて勉強できるスペースやクールダウンできるスペース、医療的ケアの実施に配慮したスペースを確保すること。また、(4)については教員が働く執務環境としてふさわしい基本的な機能を確保することを重要視。教員の事務負担や事務職員の質の向上に向けて「共同学校事務室」を設置することや、教職員が打ち合わせや作業、情報交換を専門スタッフ等と行える共有スペースの設置も提案している。

深刻さを増す校舎の老朽化
 一方、こうした学校施設で現在最も課題になっているのが、老朽化の進行である。我が国では、高度成長期以降に集中的に整備された公共施設やインフラが今後一斉に老朽化を迎える。公立小中学校施設においても昭和40年代後半から50年代にかけて建設された校舎等が一斉に更新時期を迎えてきており、一般的に改修が必要となる経年25年以上の建物が全体の7割を占めるなど深刻な状態になっている。
 したがって、文部科学省では老朽化する学校施設の保全・再編を迅速に着手するため、「学校施設の長寿命化計画策定に係る解説書」を取りまとめ、全国の教育委員会に計画的・効率的に保全・更新を行うよう求めている。また、緊急的な老朽対策が必要な経年45年以上を経過した未改修の建物については、現在来年度までの対策完了を目指して取り組んでいるところだ。
 こうした施策は、急速な老朽化が予想されている我が国のインフラについて、国及び公共団体等が一体となって戦略的な更新・維持管理等を推進するため、平成25年11月に策定された「インフラ長寿命化基本計画」が基盤になっている。そのため、全国の地方公共団体は平成32年頃までに個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定し、PDCAサイクルに基づき、保全・再編を実施していくことが求められている。
 だが、学校施設が一斉に更新時期を迎えることを踏まえると、たとえ改築から長寿命化改修への転換を図っても多額な費用が必要なのも事実である。そこで、学校施設の長寿命化計画を実行性の高いものとするため、余裕教室の転用による他の公共施設との複合化や図書館やプール等の共有化といった、中長期的な維持管理等に関わるトータルコストを削減する工夫を用いることも例として示している。
 いずれにしても、学校施設を「長く使いこなす」ためには、教育内容・方法の変化や社会環境の変化などを想定した長期的な視点を持った施設整備が必要である。小・中学校施設の在り方と施設整備指針の改訂案をとりまとめた「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」は、「新たな学校施設を計画することは、その地域の子どもたちの将来を考え、その地域の未来を考えることである。そのためには学校設置者や教職員のみならず、地域住民や建築専門家など、多様な立場の意見・知識を総動員して考えていくことが重要である」と述べている。
今後、こうした視点を取り入れた創意工夫のもと、児童生徒の成長を支える場にふさわしい環境が全国で推進されることを期待したい。

緊急対策として今年度予算を拡大
 こうしたことから、今年度の文部科学省における学校施設予算も大幅に増大している。これには、近年多発している大規模災害の教訓を踏まえ、防災・減災に万全を期すために政府が進める「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が財源を後押ししており、学校施設等の整備の推進には全体で約3千億円が計上されている。
 このうち、公立学校施設の安全対策・防災機能の強化等の推進では、昨年度の第1次補正予算額 985億円、第2次補正予算額372億円に加え、今年度は1千6百億円(昨年度682億円)を予算化。また、私立学校施設・設備の整備の推進にも前年度からプラス93億円となる195億円が計上された。
 これにより、学校施設耐震化(現在99・2%)の完全達成、屋根や外壁、内壁、天井等の非構造部材の耐震対策の推進、災害時の避難所としての役割も果たす学校施設の防災機能の強化(トイレ整備等)、長寿命化の整備手法への転換の推進などを早期に実現することを目指している。

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