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里の力で学校は残った

14面記事

書評

小中一貫教育校京都大原学院の挑戦
宮崎 裕子 著
存続問題で悩む地域の指針に

 評者はかつて、学校の統廃合問題に係る書籍を本欄で書評したことがある。その時は、「廃校後の活用」であった。今回取り上げるのは、「残した事例」になる。どちらを選択するにせよ、地域の方々の知恵を絞った最善の策であることに変わりはない。
 では本書をひもとこう。舞台は京都市である。「えっ」と驚かれる方も多かろう。逆にいえば、京都市内でさえ統廃合問題が存在するほど、学校の小規模化が進んでいるのだ。それ故、本書の「残した事例」は貴重だ。
 著者は、京都大原学院の初代校長であり、学院の誕生に深く関わった方である。今でこそ、義務教育学校(小中一貫校)という選択肢があるが、それをさかのぼること6年、地域、保護者、教委等との信頼関係を基盤に、アンケート調査、視察、学習会などを通して、小中連携に活路を見いだしたのである。当然ながら、生みの苦しみが伴う。教育課程の編成、学年の構成、統合によるメリットと課題、これらを里の力を生かしながら一つ一つ取り組んでいく様を本書は具体的に丁寧に解き明かしてくれる。「生の声」が随所に出てくる。
 学院創設に係る資料も巻末にまとめて開示されている。具体的であるだけに、参考になる点が多い。学校の存続に悩む多くの地域で改めて、地域にとって学校とは何か、考える指針ともなる。心したいページだ。
(1944円 発行 リトルズ、発売 小さ子社)
(八木 雅之・元公立小学校校長)

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