大学入試改革の行方 英語民間試験、活用巡り方針分かれる
10面記事大学入学共通テストが始まる2021年に行われる入学者選抜に向け、全国の大学が相次ぎ実施方針を表明している。英語の民間資格・検定試験や記述式問題の活用を巡り、各大学で方針が分かれている。一方、高校現場では学校で民間試験の指導をする必要を感じている。
国立大学
導入に慎重な旧帝大
地方大学は「加点方式」多く
「従来試みてきたことの成果を分析した上で決めた。文科省の方針に沿ったというより、国がついてきた感じだ」
英語試験で全受験生に入試センター作成の試験と民間試験の両方を課すことを決めた広島大学。高大接続・入学センターの担当者はそう話す。
広島大では現在でも、複数の民間試験について、大学の設定レベルをクリアした受験生に対しては、センター試験の英語を満点と見なしている。そのため、今回の民間試験の導入は比較的スムーズに進んだという。
新テストでの英語試験を巡り、国立大学協会は大学入試センターが作る試験と民間試験の両方を全受験生に課す方針を決定した。民間試験の活用方法については(1)出願資格にする(2)センターの試験に加点する(3)両方を組み合わせる―の選択肢を示している。
昨年6月に国大協が公表した「活用例」では、出願資格にする場合、国際指標のCEFRで「A2以上」を出願資格とすることを例示。加点方式を取る場合、CEFRの段階ごとに点数を決め、英語の試験全体に占める民間試験の加点割合を「2割以上」とすることを示した。
ただ、こうした国大協の提案にもかかわらず、その後、各大学からは民間試験の導入に慎重な方針が相次いで出された。
東京大学はCEFR「A2以上」を出願要件にしたが、同程度の英語力を証明する調査書などでも出願を認めることを決めた。また、前述の二つを提出できなくても、その事情を明記した理由書を付ければ出願はできることとした。
出願要件のみで、合否判定にも使わない。都内の高校の英語教諭は「CEFRのA2は初~中級程度の英語力で、東大受験をするなら当たり前のレベル。まだ民間試験を選抜に使う意図はないのだろう」と見る。
出願要件にもしないことを表明した大学もある。東北大学は「A2以上」の英語力があることを「望ましい」としながら、出願要件としないことを表明した。また民間試験の成績をCEFRの対照表に基づいて点数化したり、合否判定に利用したりすることもないと明記した。
東北大が民間試験利用に消極的なのは、21年度入試の時点では、公平な受検体制が確立できないと考えるためだ。複数の試験を単一の基準で比較できるのか、公平な採点ができるのかなど「問題が解決される見通しが立っていないと認識している」と説明する。
同大学が高校を対象に実施した調査では、英語の民間試験を受験生に一律に課すことに対し、「賛成」が8%、「反対」が40%を占め、高校側の環境も十分に準備が整っていないと判断した。
今年1月、出願要件としないことを明らかにした北海道大学も同様だ。「受検料負担や受検機会の公平性、障害のある受検生への配慮等について、より詳細な検討を要する」と同大学。22年度以降の入試については今年12月までに活用方針を示すとしている。
旧帝大に対し、地方国立大学では民間試験の成績に応じて、センター作成の試験に加点する方式を採用するところが多い。福島大、筑波大、兵庫教育大や大阪教育大などだ。大阪教育大学の担当者は「出願要件とするならA2以上だが、入試では英語以外に重視している力もある。受験生の門前払いはしたくなかった」と話す。
私立大学
「全選抜方式で採用」から「利用せず」まで
差大きく
一方の私立大学はどうか。現在ではセンター試験を利用する私立大学も増えている中、英語の民間試験や新テストの利用では、首都圏の有名大学でも対応が大きく分かれた。
昨年末、学部の一般入試を一新することを発表したのが上智大学。全入試方式で民間試験を活用することを公表した。
特に統一日程の入試では、日本英語検定協会と共同開発した「TEAP」の得点を新たに合否判定に利用する。これまでは出願基準だった。上智大では英語の民間試験だけでなく、大学入学共通テストを使った選抜方式も新設する。
早稲田大学も政治経済学部と国際教養学部の一般入試で民間試験を利用することを決めた。政治経済学部では民間試験と学部の独自試験を合わせて100点満点とし、そのうち民間試験には30点程度を配点する予定だ。海外留学生のレベルが高まったことを受け、日本人学生にも高い英語力を求める必要に迫られていたという。
「大学入学共通テストは利用しません。従来の通り、各学部のアドミッションポリシー(入学生受け入れ方針)にのっとった入学者選抜を実施します」。昨年末にそう発表したのは、2012年度入試からセンター利用をやめた慶應義塾大学。新テスト同様、英語の民間試験も使わないことを公表した。
その理由について、慶應義塾大学の広報室は「従来、論文形式の試験問題や記述式の回答を含む出題によって『思考力・判断力・表現力』を適切に評価している」。英語の民間試験については将来的に導入するかどうかを引き続き各学部で検討していくという。
明治大学も大学入学共通テストは全学部で利用する一方、英語の民間試験は使わない方針を示した。
高校
共通テストの継続を望む
各大学でさまざま対応を見せている民間試験の利用方針を、高校側はどのように受け止めているのか。昨年、普通科高校の校長会が実施した調査では、民間試験に一本化せず、今後も共通テストで試験を続けてほしいと考えていることが分かった。
英語の試験は2024年度以降、大学入学共通テストから外れることが決まっている。それに対する考えとして最も多かったのは「民間試験に頼らず共通テストの英語試験も継続的に実施してほしい」で69・1%と「全面的に民間試験に移行」の8・2%を大きく上回った。民間試験のみで測られることに対する不安が強く、高校の英語の授業が民間試験対策に迫られることの影響を心配する見方が反映された。
民間試験の活用の方法については「出願資格」とともに「大学が自由に活用する」を選んだ高校が多かった=グラフ参照。「加点」は17・3%、「出願資格」は27・1%、「大学側が自由に活用」が27・7%だった。
高校現場で判断が難しいのが、民間試験の指導を教員がするかどうかだ。調査では「学校で指導する」が72・6%と「学校で指導しない」の7・4%を大きく上回った。どの試験を、いつ受けさせるのかも含めて、英語教員にはこれまで以上に指導に専門性が求められることになりそうだ。
英語を含め、現在のセンター試験から大学入学共通テストに切り替わることに対する評価は二分した。「期待できる」は28・7%、「期待できない」は29・5%で、具体的な実施方針が固まっている中でも、高校側の懸念は消えていないことが明らかになった。
学力の3要素を多面的・総合的に評価するため、大学が一般選抜の選考過程で調査書を活用することが求められている。
これに対しては「(各大学が)統一的に活用してほしい」が41・2%と最も多く、「活用は大学独自で」が35・6%だった。「統一でなくてもよい」も21・5%あり、調査書の活用について高校側の意見は割れていた。