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避難所の課題が浮き彫りに

10面記事

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地域住民のライフラインになる避難所

内閣府「指定避難所等における良好な生活環境を確保するための推進策検討調査報告書(平成30年8月)」から

 平成25年の災害対策基本法の改正により、市町村長は指定避難所を指定する義務と良好な生活環境を確保することが努力義務化された。しかし、熊本地震ではあらためて避難所運営におけるさまざまな課題も表面化した。そこで、内閣府では被災者支援ニーズを把握するため、実際の避難所環境の実情や運営における課題に詳しい有識者と、近年の災害で避難所を開設した経験を持つ市町村を対象にヒアリング調査を実施した。ここでは、指摘された課題について紹介する。

避難所を自分たちで運営する意識を
 避難所を適切に運営するための課題としては、自主防災組織の育成・訓練や行政との連携・相互理解が最も重要視されるところだが、「自分たちの避難所」という考え方が強く、帰宅困難者の受け入れには消極的という声は、現実に災害が起きたときの「共助」を実現させる難しさが感じられる。また、有識者も住民は未だに「避難所運営は役所の仕事」という認識が強いことから、今後は「避難所運営は自分たちでやらなければならない」という意識付けや宣言が必要と指摘した。
 次に、避難所に必要な機能の整備については、「指定避難所のほとんどが学校の体育館のため、空調設備もなく、断熱性を確保できる設備が十分ではない」「賞味期限切れの物資に苦慮」「施設管理者と防災担当部署が整備するものとの調整が難しい」などに苦労していること。また、避難所は高齢者から乳幼児、障害者を含めて多様な人たちが共有するためバリアフリー化が求められている。しかし、それを進められない背景としては「施設の改修計画に合わせて実施するしかない」「施設そのものが廃校になった学校など、本来目的での利用を終えた施設であることから改修の機会がない」といった意見が聞かれた。
 一方で、こうした施設改修のタイミングに合わせて整備を進めたり、和式トイレにかぶせる便座を配備して高齢者に配慮したりといった工夫を取り入れている市町村もあった。

キャパを超えた避難者を受け入れるか
 続いて、避難所に想定収容人数以上に避難者が来た場合の受け入れについては、「受け入れる」と答えた市町村が56・5%で、「受け入れない」が42・8%だった。平成29年九州北部豪雨では、近隣に空いている避難所があったにもかかわらず、収容人数を超えて受け入れていた避難所があったが、これは実際の災害時に避難所を適切に運営する難しさがよく表れている。そこには「住民の命を守ることが最優先」「コミュニティを無視して移動させるには無理がある」という面と、「生活環境が悪くなる」「感染症のリスクが高まる」といった面とでの葛藤があるからだ。
 さらに収容人数を超えた場合の対応策としては、「屋外施設を活用する」「二次避難所を開設する」「近隣市町と避難者受け入れに関する協定を結んでいる」という意見があったが、避難所として民間施設を確保している市町村は44・3%と課題も見つかっている。そのほか、避難所の課題としては「キャパシティが圧倒的に不足している」「公立の高等学校が利用できない」「災害利用に後ろ向きな施設がある」「職員のマンパワーに不安がある」などの意見が目立った。
 このような実際に避難所を開設した経験のある市町村の意見は、今後の適切な避難所運営を検討する上での貴重な証言となるものだ。各市町村においては、これらを参考にして災害に備える準備を進めてほしい。

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