ビデオによるリフレクション入門 実践の多義創発性を拓く
16面記事佐伯 胖・刑部 育子・苅宿 俊文 著
心の動き、変化を読み解く
授業実践の分析、振り返り(リフレクション)のために、ビデオやタブレット端末、スマートフォンなどを使って記録する場面は珍しくはない。本書は、著者らが関わって、実践での重要となる場面、あるいは重要になるかもしれない場面を記録中にサムネイルとして残せるなど開発したビデオ・ツール「CAVScene」、撮影に編集、プレゼンテーション機能などを持たせたリフレクション用のビデオ・アプリケーション「デキゴトビデオ」を紹介するとともに、リフレクションの意味や意義を再提起している。
これらのツールを駆使し、振り返りの中で、副題にもある「多義創発性」を追究する。「多義創発的」を「多様な視点から、『多様な解釈が創発される』という意味」とし、「創発」を「発見と驚きをともなって生まれること」と本書では位置付ける。
ともすれば、実践の振り返りは、改善点の指摘に陥りがち。だが、ツールの有効利用は、実践者自身が目の前で繰り広げられる子どもの行動を、過去の記録までたどり、心の変化と、その時の心の動きを読み解くことを可能にする。振り返りは、実践者が気付きを研究者と共有し、研究者によって元気付けられる場にもなる。本書にある保育実践や学生の授業などでの活用だけでなく、振り返りを巡る本質的な問い掛けは、他の授業実践の場などでも生かすことができるはずだ。
(2808円 東京大学出版会)
(吹)