知財創造教育【第1回】 実践事例
NEWS内閣府を中心に政府を挙げて進めようとしている「知的財産創造教育」。新学習指導要領の随所に取り込まれ、次の教育課程では小学生から高校生まで普段の授業で学んでいくことになる。内閣府知的財産戦略推進事務局の仁科雅弘参事官に電子版限定で連載していただきます。
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新しいものを生み出す力、すなわち創造力及び独創力を育むとともに、新しく生み出されたものを尊重する力も子どもたちに身に着けさせることにより、彼らが社会の担い手になったときに、新しい価値の創出に貢献し、人間らしく豊かに暮らしていけるようにするため、政府は「知財創造教育」を推進しています。
「知財」というと、「何か難しいそうなもの」、「専門家に任せておけばよいもの」と思われがちですが、実際には、皆さんにとって大変身近なもので、社会を豊かにしているものです。まずは、人間が知的創作活動を行った結果として新たに生み出された価値のあるモノやコトとご理解ください。
知財創造教育の詳細について触れる前に、学校教育の現場で実践していただいた授業の様子をご紹介します。いずれの授業も、児童・生徒が知識の習得をしつつ、新たな創造を行うことを生活や社会との関係を理解しながらリアルに体験できるように設計されています。最大のポイントは、子どもたちが、にこにこしながら、楽しそうに学んでいるところです。
(1)「ピクトグラム」作りに挑戦。誰でもわかるように伝えよう。(注1)(注2)
平成30年11月13日に、東京都台東区立上野小学校(神田しげみ校長)の武井二郎教諭により、国語科の「くらしと絵文字」(教育出版)と関連付けて、3年生の総合的な学習の時間で行われたピクトグラム作りに挑戦する授業です。
ピクトグラムとは、非常口で見られる「緑色の駆け出す人」を表したマークのように、伝えたいことを見ただけで分かるようにデザインされた絵文字のことです。
授業では、ピクトグラム作りのプロである(一財)日本規格協会の職員からピクトグラムの基本的なルールを学んだ後、学校やその周囲で起きている困ったことを解決するためのピクトグラム作りに挑戦しました。作ったピクトグラムは、同校内で活用されることが前提とされ、児童が自分ごととして創作に取り組めるような仕掛けも用意されていました。
それぞれの児童が考えたアイデアを尊重しつつ、グループ討議を通じていいところ取りをして一つのピクトグラムを作り上げ、発表するという一連の流れを通じて、小さなオープン・イノベーションが実践されていました。
(2)製作に生かすアイデア発見、木製品の設計(注3)
平成30年9月12日に、茨城県つくば市立竹園東中学校(片岡浄校長)の川俣純教諭により、1年生の技術・家庭科の時間で行われた木製の棚を製作する一連の授業の一部です。
当日行われた授業では、教室に残された一つ上の先輩が1年前に製作した作品群から各生徒が一作品ずつ選び、作品の現物に触れながら、形状や機構に秘められた先輩の素晴らしいアイデアが探し出されました。続くグループ討議を通じて、他の生徒が探し出した様々なアイデアや作品への評価に触れ、技術に対する理解を深めるとともに課題解決力や構想力が養われる仕掛けも用意されており、後日、自らの棚の設計・製作も行われます。
勿論、この授業を受けた生徒たちの学びの成果も、彼らの後輩たちに継承されていきます。授業では、先生が「教える」のではなく、生徒たちに「考えさせ」、それを「引き出す」ということが、実践されていました。
(3)発明は才能でなく技術。「発明楽」で自由な発想を。(注4)
平成30年12月10日に、千葉県千葉市立稲毛小学校(吉岡龍子校長)の5年生の総合学習の時間に、鳥取大学医学部附属病院の植木賢教授が出張して行われた、新しいものを創造することが人や社会のために役立つことを理解してもらいながら、そのためのスキルについて学ぶ授業です。
授業の前半では、背もたれがない車いすや内視鏡を操作する体験を生徒たちにしてもらうとともに、それらがどのように発明されたかについて説明がされました。
後半では、新しいものを創造するプロセスを、四則演算の(1)たし算、(2)ひき算、(3)かけ算(転用)、(4)わり算(逆転)に当てはめて整理した「発明を生む4つの発想スキル」が解説され、そのスキルを活用する体験ができるような仕掛けも用意されていました。そして授業は、現役の医師でもあり研究者でもある植木先生からの、「みんなの幸せを願う夢は必ずかなう!」という力強いメッセージで締め括られました。
次回以降、「知財創造教育」の内容や、その推進の状況などについて説明していきます。
(注1)知財創造教育推進コンソーシアム検討委員会(第5回)資料5-1「神田委員説明資料」、2019年1月22日(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tizaikyouiku/consortium_kentou/dai5/siryou5-1.pdf)
(注2)知財創造教育推進コンソーシアム検討委員会(第5回)資料5-2「諸橋委員説明資料」、2019年1月22日(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tizaikyouiku/consortium_kentou/dai5/siryou5-2.pdf)
(注3)知財創造教育推進コンソーシアム検討委員会(第5回)資料6「川俣委員説明資料」、2019年1月22日(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tizaikyouiku/consortium_kentou/dai5/siryou6.pdf)
(注4)発明楽―鳥取大学医学部(https://www.med.tottori-u.ac.jp/hatsumeigaku/)
(内閣府知的財産戦略推進事務局参事官 仁科雅弘)