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視察随行報告 ICT活用校の日常に学ぶ

8面記事

ICT教育特集

各教室に完備されている実物投影機とプロジェクター、スクリーン

学習規律を徹底させ、常設環境のメリット生かす
愛知・春日井市立出川小学校

 2020年度の学習指導要領全面実施に向けた授業改善、特に学校のICT環境の整備とICT活用教育の充実は急務だ。愛知県春日井市立出川小学校は学習規律の徹底を基盤に据え、日常的なICT活用から「わかりやすい授業の実現」を目指している。積極的に視察を受け入れ、他校と交流する姿は双方の教職員に刺激を与え、若手の育成にもつながっている。視察の様子を取材した。

ICT活用をテーマに積極的な視察受け入れ

 春日井市は人口約31万人、児童生徒数約2万7000人、小学校38、中学校16、教職員数1700人を擁する中規模の都市だ。平成11年から教育の情報化を開始、平成18年より普通教室に実物投影機などの拡大提示環境の常設整備を段階的に進めてきた。
 今年で開校12年目の出川小学校(水谷年孝校長)は「学んだことをもとに、みんなで思考・判断・表現しあえる子」を目指す子ども像とし、平成23年度から「わかりやすい授業の実現」を目標に授業改善に取り組んでいる。基盤となるのが「学習規律の徹底」と「ICTの日常活用」だ。その成果は「かすがいスタンダード」として市内の小学校に普及しており市内のモデル校としての役割を果たす。
 取り組みの様子を広く知ってもらおうと同校は学校視察を積極的に受け入れる。1月10日には北海道から教員を迎え全学年の日常的な姿を公開した。
 今回、視察に訪れたのは札幌市立屯田小学校と同市立琴似中央小学校などからの教員15名。両校の新保元康校長、菅野光明校長も同行した。出川小の水谷校長とは、それぞれの学校が、ともに東北大学の堀田龍也教授の指導を受けていたことから知り合い、以来、視察見学の交流を続けているという。普段の子どもたちの様子や授業の進め方を若手教員に見てもらうため平日丸一日を学校で過ごそうという意欲的な企画だ。

普段の授業から実物投影機を積極活用

 出川小学校の全ての普通教室には実物投影機とプロジェクター、マグネットタイプのロールスクリーンが完備されており、全教員が日々の授業で活用している。
 活用のポイントはいくつかある。ひとつは教科書や資料の「拡大投影」だ。国語の時間では音読する教科書の本文を拡大して写し、教員が指でなぞりながら音読を促していた。算数では問題文のプリントをスクリーンに映したままにしておき、右側の黒板に、解き方や考え方を教員が板書していくなどの使い方をしていた。言葉の指示だけでなく視覚的に示すので学習への興味関心が維持しやすいという。
 もうひとつはノート指導のために教員が「書き方を例示する」使い方だ。ロール型のスクリーンはホワイトボードにもなるため、マーカーでの記入が容易だ。4年算数の「調べ方と整理のしかた」では空白の表のプリントを拡大提示し、教員が児童と対話しながら、マーカーで記入していた。「なにをどうするのか」のプロセスがつかめるので子どもは短時間で自分のプリントを完成させることができた。この使い方は子どもたちが自分の考えを発表する際にも用いられる。
 またとある教室の後方には、手本となるノートの見本が掲示されていた。目指したいゴールを教員と子どもが共有することも大切にしている。


音読する文章を拡大して提示する


プリントを映してノートの取り方を例示

学習規律に加え、活用力を伸ばす

 子どもたちが集中して授業に取り組めている理由はICTを活用しているからだけではない。ノートの取り方や発言の仕方などがどの子どもにも身に付いており、落ち着いた学習環境が整っていることが大きい。 
 同校は全ての児童が学ぶための土台として「学習規律の徹底」を重視し、全校で統一して継続的に指導している。教室では学習用具や持ち物の種類や数を統一し、机上の教科書とノートの位置も決めてある。教科書は両手で立てて読む、発言者のほうに目を向けるといった動作も同じだ。
 授業態度の基本を全教員が理解して徹底を図ることで、学年が変わるたびに指導に時間をかけずに済み、結果として授業本体に時間を割くことができるという。
 加えて、今年度は、「話す、聞く、書く、読む」など各教科共通の「学びのスキル」の育成にも力を入れており、学年ごとの目標の設定や鍛えた力を発揮させる場をつくるといった取り組みも行っている。
 その象徴的な授業が6年社会の「政治のしくみ」で見られた。
 授業の冒頭に教員が教科書の国会本会議場の写真や衆参両院の仕組みの図を拡大提示。基本の知識を共有した上で子どもたちは「国会と内閣、裁判所はどのような関係になっているか」をグループで考え、発表し合った。習得した知識をもとに思考力や表現力を発揮する時間が十分に確保され学びが深まっていく様子に、見学した教員も深く共感したようだ。
 5限の終了後、校長室で約1時間の協議の時間を持ち、質疑応答が行われた。活発に意見が交わされた。


教科書は立てて音読する

無理なく続けることが大切


水谷 年孝 春日井市立出川小学校校長

 ICTを教室で有効活用するため▽機器は教室に常設しメンテナンスに気を配る▽専用の配置台を作り教材や資料を置きやすくする▽教材提示はスクリーンいっぱいに拡大する▽低学年ではプラズマディスプレイを併用しよりわかりやすく提示する――などの工夫をし確実な知識・技能の習得とその活用に生かしている。
 その前提として本校は「学習規律」を重視する。全校で統一することで児童はどのクラスで学んでも同じだという安心感を得られる。低学年、1学期のうちは指導に苦心することもあるが子どもたちが慣れて軌道に乗れば児童も教員もメリットを実感できる。
 若手育成は学年会が中心。校内授業研究会で若手のクラスでベテランが授業をするときに、学習規律の確立やICT活用についてアドバイスをすることができる。「ここはどうやっているの?」と自然にチェックが入る仕組みになっているので初任者もすぐに慣れる。ICT活用も学習規律も「無理なく日常的に続けること」が成果につながると考えている。

視察を終えて、学びの声
働き方の面でも意味がある取り組み


新保 元康 札幌市立屯田小学校校長

 この6年間、毎年教員を連れて出川小学校の日常の様子を見学させていただいているが、学習規律の徹底と継続、ICT活用と授業改善はいつ来ても目を見張るものがある。
 昨今、学校は多忙化が進んでいる。教員が創意工夫をするのはよいが、子どもの視点に立てば先生や教科が変わるごとにノートの取り方が変わるのは負担や混乱につながる。子どもたちの学習のしづらさが教員の多忙化を招いているのであれば、出川小の取り組みは教員の働き方の面でも意味がある。教材データや撮影した画像などの扱い方ひとつにしても、各自がバラバラにデータを保管するのではなく、ファイル名や収納場所のルールを決めれば省力化につながるし、学校全体の共有財産になる。標準化は仕事を効率化し、質を上げる大事なポイントだ。
 若手・ベテランを問わず、自由な雰囲気で質疑応答できるのが日常を視察させていたく醍醐味。水谷校長はじめ学校のみなさんには心から感謝している。働き方改革の流れを受け、負担の大きな研究会ではなく、日常の公開が今後広がっていくのではないか。屯田小でも可能な限り受け入れている。
 自校に戻った教員が学んだことを生かして授業改革への意欲を高く持ってくれることを期待している。

視察を通してその学校の「考え方」に気づく視野を持つ

菅野 光明 札幌市立琴似中央小学校校長

 出川小は「子どもの力をどうつけていくか」を中心に授業改善を考えており、学び方などの学習規律を教えた上で、考えさせている。だから教職員の意識が統一され、全校で取り組めている。普段の一日を見学しても、どの学級でも同じように学べている子どもの姿を見ることができた。とくにICT活用では機器の置き場所や使い方も統一・徹底されていた。ハード面での整備の重要性を改めて実感した。
 別の地域に出かけ、多くの学校を視察したほうがよいのはこうした気付きを得るため。「この学校はこのような考えを持ち、授業を進めているのだな」という視点を多くの教員に養ってほしい。しかしそれは自分たちの学校や地域の殻に閉じこもっていたのでは得られない。幸い北海道は1月中旬まで冬期休業。この期間を活用して道外に視察に出かけ、多くの学校や授業を見学する機会をと毎年企画している。
 連れてきた教員がどんな表情で他校の授業を見学しているのかを見るのも楽しみのひとつ。授業の見方ががらりと変わり、刺激を受けて帰っていく。学校視察は貴重な研修の場。日々の授業から子どもを育てる教員を増やすことに今後もつなげていきたい。

スクリーンを活用したノート指導は魅力的
佐々木 真結子 札幌市立屯田小学校教諭

 本校にも実物投影機があり、パソコン画面や教員の手元を写すことができます。ディスプレイに映して子どもたちの表情を確かめながら授業を進められる点は共通しているので自信が持てました。また、出川小ではロールスクリーンを活用して教員が書き込みをしながらノート指導をしているのがよかったです。ディスプレイより画面が大きく、子どもたちがわかりやすいのではと感じました。

低学年向けの使い方に工夫があった
本間 隆一 札幌市立琴似中央小学校教諭

 低学年ではデジタル教科書を常時提示して、さらにロールスクリーンで手元を写す2台づかいはよいアイデアだと参考になりました。もし自分の教室でやるならロールスクリーンは黒板の幅を取るので、それ以外の板書は文字の大きさや分量をしっかり計画していく必要がありそうです。
 見学した5年の道徳の授業では「自由と責任」が主題でしたが、登場人物の考えを比較させるときの言葉掛けの仕方がわかりやすく参考になりました。授業の初めに考えていた「自由」と、最後に話し合いをして考えた「自由」とが違うことに子どもたちが気づけるような、自分たちの定義を再定義させ、より深く考えさせる展開に感心しました。

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