「生活科」「総合」「外国語」―続く小学校教員試練の季節 上
NEWS教育界を揺るがせたトピック 平成の30年(5)
平成の30年で教育内容的に大きな波が押し寄せたのは、小学校である。
1989(平成元)年の学習指導要領告示で小学校低学年の教科に生活科が位置付いた。
総合的な学習の時間の創設は、1998(平成10)年の学習指導要領告示。総合は、同時期の告示で中学校にも位置付き、翌年の1999(平成11)年の高校学習指導要領告示で高校にも創設された。ただ、その後の経過を見れば、小・中・高校での温度差は明らかで、小学校での熱量の高さが目立つ。
続いて2007(平成20)年の学習指導要領改訂によって、小学校5・6年に外国語活動が位置付いた。 2020年度からの全面実施になるが、2017(平成29)年の学習指導要領改訂によって、外国語活動が3・4年の中学年に導入され、5・6年ではこれまでの外国語活動から教科・外国語へと新たな局面を迎える。
新たに生まれる教科、領域は現役教員にとっては、なじみのないものばかり。だが、その都度、教員は戸惑いながらも、対応してきた。
その嚆矢(こうし)が生活科である。
日本教育新聞では、1988(昭和63)年3月26日付に、こんな記事を掲載した。
「生活」科の構成明らかに/直接体験できる内容/伝統文化との関連も重視
文部省は十六日までに、六十五年度から小学校低学年に新設する「生活」科の単元構成案をほぼ固めた。一教科の単元案まで作るのは異例のことだが、新教科に学校現場の戸惑いが大きいこと、また来年度から同省指定の研究校が実践研究を開始するので、その内容構成のヒナ型として作成したもの。第一、二学年とも子どもが直接に体験できる活動で内容を構成。半面、生活科誕生とともに廃止される社会科、理科のうち、身近で見聞し、触れることが困難な内容を大幅に削った。社会科的内容では伝統文化とのつながりを重視する。各単元のねらいは知的側面にも増して態度面を重視しており、評価の在り方が課題になりそうだ。四月十二日に開く文部省の研究指定校連絡協議会で同案が示される。
この記事と併せて、第1学年と第2学年の「生活科年間指導計画(単元一覧)」を1面に載せている。
新たな教科、領域が誕生するたびに、何をどう教えればいいのか、といった声が上がるのは、当然のことであるが、「各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保すること」と趣旨説明した「総合的な学習の時間」は、「具体的な学習活動としては、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、児童生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、適宜学習課題や活動を設定して展開するようにすることが考えられる。その際、自然体験やボランティアなどの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習が積極的に展開されることが望まれる」と説明されている。
各学校の創意工夫を求めたことから、趣旨を踏まえつつ、“総合フィーバー”が巻き起こった。このブームは、最近では、「アクティブ・ラーニング」旋風に似ると言えば理解されるだろうか。
各学校だけでなく、さまざまな組織・機関が「総合」の離陸に向けて、動き出した。その一端は下記の日本教育新聞の掲載記事(抜粋も含む)からもうかがえるのではないか。
教師に足りない自然体験/現職教員に通年研修/「総合」のプラン作りにも/上越教育大・学校教育研究センター
「総合的な学習の時間」に、環境教育を取り入れようと考えている学校は多い。問題は、木の名前を知らない、何の花か分からないといった教師自身の自然体験のなさだ。上越教育大学・学校教育研究センターでは四月から、教師向けの自然体験研修を始めている。すぐに実践に活用できるものだけでなく、カリキュラムづくりに役立つ、自然を見る“目”を育てるのが狙いだ。
<掲載日・1999(平成11)年7月23日>
総合的な学習の時間でCDーROM資料/千葉県教委が作成
前年度「総合的な学習の時間推進委員会」を設置、千葉県総合教育センター等と連携をとりながら研究を進めてきた千葉県教委はこのほど『総合的な学習の時間?考え方・進め方?指導資料II』をまとめた。
総合的な学習の狙いや課題を挙げた『指導資料I』(前年度三月発行)に比べ、実践例を盛り込んだのが今回の特徴。本文とは別に三十一の実践を収めたCDーROMが付録になっている。「総合的な学習の時間」を見据えた県内の小・中学校の実践概要四百六十ページ分を一枚のCDーROMで見ることができ、検索などに活用できる。
<掲載日・1999(平成11)年10月1日>
「総合」で事例集を刊行/文部省
文部省はこのほど、『特色ある教育活動の展開のための実践事例集ー「総合的な学習の時間」の学習活動の展開ー(小学校編)』を刊行した。初版四万部を作成、各都道府県および政令指定都市の教育委員会に配布するほか、市販する予定だ(定価二百六円)。
同書は移行期間中の来年度から実施が可能になる「総合的な学習の時間」への取り組みを支援するのがねらい。文部省指定研究開発校の実践や、学校裁量の時間を使った取り組みなど、特色ある教育活動を行っている全国六十の小学校の事例を収録している。
同書ではまず、各学校の実践を学習活動や指導体制から分類した一覧表を掲載。
学習活動は新学習指導要領に例示された課題に基づき、「国際理解」「情報」「環境」「福祉・健康」「興味・関心」「地域」「その他」の七項目に分類、指導体制は「ティーム・ティーチング(校内・外部講師)」「異学年交流」の項目を設けた。
また、年間指導計画例や時数設定の方法も各学校ごとに詳しく紹介。「指導体制」の項目ではティーム・ティーチングの組み方や、外部人材の活用法、「評価」についてはカードや作文を用いた方法も取り上げた。
収録された事例は▽国際理解=秋田市立築山小(秋田)、金沢市立浅野川小(石川)▽情報=大垣市立赤坂小(岐阜)、岡山市立平福小(岡山)▽環境=南部町立向小(青森)▽福祉・健康=東京学芸大附属大泉小(東京)など。
<掲載日・1999(平成11)年11月12日>
ものづくりや読書で「総合」の試み/小学校から大学まで交流/総合学習学会が初の年会
昨年発足した日本総合学習学会(会長=上野健爾京都大教授)が十一月二十七、二十八の両日、東京大学で第一回年会を開いた。小学校から大学までのさまざまな立場の教員が一堂に会し、総合的な学習の実践や理論を広い立場から議論する貴重な場となった。統計的な手法を通して古典文学の文章を科学する試みや模型飛行機など「ものづくり」を通した総合的学習、「読書の時間」を総合的な学習の時間に位置付けている高校の事例など、新しい発想に立つ実践が報告された一方で、地域の学習資源の「取り合い」が始まっていること、子どもが「面白い」と感じるテーマの持たせ方に課題があるとの指摘があった。
<掲載日・1999(平成11)12月10日>
その「総合」も、2003(平成15)年12月には、「各教科等の知識や技能等を相互に関連付けること」などの学習指導要領の一部改正が行われ、2022年度開始の高校学習指導要領では「名称を「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」に変更する。
「自己の在り方生き方を考えながら課題を発見し、探究の過程を一層充実することにより、教科等横断的・総合的な学習を通して、各教科等で育成する資質・能力を、相互に関連付け、実社会・実生活と自己との関わりの中で活用できるものとすることを重視」したものだ。
より探究色を深めながら、小学校の「総合」、中学校の「総合」から高校の「総合」へと、より深化していくことが期待されている。
(編集局)