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「全国学力・学習状況調査」上

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教育界を揺るがせたトピック 平成の30年(3)

 平成19年度から開始した全国学力・学習状況調査。全国的な学力の底上げにつながったとの評価がある一方で、正答率を上げるための特別の指導に対する疑問や、自治体間の競争の弊害などが指摘されてきた。
 導入のきっかけとなったのは、2004(平成16)年12月に公表されたPISA調査結果だ。読解力などの調査結果がふるわなかった。
 その評価については、文科省内にも異論があったものの、「世界トップレベルとは言えない状況」と総括せざるを得なかった。
 その時の結果を、日本教育新聞では以下のように報じた。

学力、世界トップと言えず/読解力など順位下がる/15歳対象の第2回PISA調査

 OECD加盟国などの十五歳の生徒学習到達度調査、いわゆるPISA調査が七日、公表された。今回の二○○三年調査は数学的リテラシーを中心分野に、読解力、科学的リテラシー、加えて問題解決能力についても初めて調査した。その結果を、文部科学省では日本の学力は国際的に見て上位にあるものの、読解力などの低下が見られ、「世界トップレベルとは言えない状況」と受け止めている。今後は小・中・高校での「確かな学力」を育成し、世界トップレベルの学力を目指す。
<掲載日・2004(平成16)年12月10日>

 さらに、結果公表にさかのぼる1カ月前に、すでに「全国学力テスト」構想は打ち上げられていた。
 中山文科相(当時)は「義務教育改革案」として経済財政諮問会議の席上で、提案していたのだ。

「全国学力テスト」実施を/競争意識育て世界一に/中山文科相が義務教育改革案/中教審が検討開始

 中山成彬文科相は四日開催した経済財政諮問会議で、「甦れ、日本!」と題する教育改革私案を公表し、義務教育改革の一環として、世界トップの学力向上実現のため、競争意識を育てる「全国学力テスト」の実施を盛り込んだ。その具体化を図るため、中教審初等中等教育分科会教育課程部会と同部会教育課程企画特別部会を併せて開催し、八日から本格的な審議が始まった。教育改革私案では、ニートに代表される若者の出現など活力に乏しい人材の増加は危機的とし、国際的な競争社会の中で「教育」を国家的戦略に位置付け、「頑張る精神」を応援する教育を目指す。
<掲載日・2004(平成16)年11月12日>

 その後は、文科省が設置した専門家会議などで、具体化に向けた検討が進み、小学校6年生、中学校3年生を対象に、国語と算数・数学の2教科について調査した。その際、主に「知識」に関する問題をA問題、主に「活用」に関する問題をB問題として出題した。特に、B問題は国際調査の結果が反映したものだ。
 初の実施は2007(平成19)年4月23日。
 日本教育新聞では、現場の反応を次のように紹介した(肩書きなどは当時のもの)。

学校現場の反応は?/結果生かし授業改善へ 期待高まる

小学校B問題「難しい」との指摘も
中学校 知識活用する問題を評価
誤答例の公開など求める

 4月24日実施された全国学力・学習状況調査の国語と算数・数学の問題や調査の実施方法について、現場の反応は―。知識などの活用を問うB問題では、「難しい」「良問」など、現場の反応もさまざまだ。本格的な調査の結果を授業改善に生かしたいという期待の声とともに、問題の難易度や調査の実施方法について改善を求める意見もあった。

国語
 東京都小学校国語教育研究会の井出一雄会長(世田谷区立桜丘小校長)は「A問題は、日常的な国語の力を測る問題としてはおおむね妥当」「B問題も2つの感想文の書き方を比較する問題3などは、日常的に文章を客観的あるいは評論的に読み解く指導をしていれば解ける良問だが、そういう指導がないと難しいのでは」と分析する。
 愛知県刈谷市立東刈谷小の木村幸泰校務主任は「B問題は長文を読ませたり、文章で答えるものが多く、学力が低位の子どもには難しかった」と指摘する。徳島県内の小学校に勤める男性教諭(45)も「国語Bは、学習塾などでトレーニングを受けた児童でないと難しい。文章量も多く、集中力の乏しい児童はあきらめてしまったかもしれない」と心配する。「試験時間に比べてボリュームがあった。昨年度から取り組んでいる論理的思考力を高める取り組みをさらに進めたい」と話すのは広島・海田町立海田東小の池口淳子教務主任だ。

問題作りの参考に
 中学校現場からは、PISA型読解力を見る問題作りの参考になる、などの意見があった。横浜国立大附属横浜中の岩間正則副校長は「国語Bは場面設定の仕方、問いの作り方など、今後の問題作りや授業改善の参考にできる」と評価する。「問題2の三のように、作品の構成について考えさせる読み方は、普段の授業であまり行われていない。根拠を明確にしながら、作品を検討する学習を、今後の文学の授業でもっと取り入れたい」と課題を指摘する。
 北海道・三笠市立三笠中央中の平山雅一教諭は「AB問題とも基礎的な問題に絞っていると感じたが、敬語の問題(A 8八)は未習の生徒もいるのでは」と話す。「文部科学省が身に付けさせたいと考える学力の具体的な形が見えた意義は大きい。高校入試への影響も大きいのでは」(石川晋・北海道・広尾町立広尾中教諭)という指摘も。

算数・数学
 細水保宏・筑波大附属小教諭は「Bは、日常生活と結び付いた『ケーキ屋問題』で割合と条件整備や選択の力を見るなど、これからの児童に必要な力の育成の視点に立って、うまく組み合わされて出題されている」と高い評価だ。
 前出の徳島県内の男性教諭も「算数Bは多様な見方を評価するという点で良問が多かった。小学校の教育課程をきちんと習得していれば太刀打ちできる出題」と見る。
 一方で、愛知・刈谷市立東刈谷小の木村教諭は「教科書でいうと章末の応用問題的な問題が多く、力のある子どもとない子どもの差が大きく開く気がする。成績が低位の子どもも解ける簡単な問題も含める配慮が必要では」と指摘する。

指導に示唆与える良問
 中学校では、知識の活用を視野に入れた問題を評価する声が少なくない。京極邦明・東京学芸大附属小金井中教諭は「A問題の中でも、移項の根拠としての等式の性質を問う設問は活用も視野に入れた良問で、現場の指導に示唆を与えてくれる」と見る。横浜国立大附属横浜中の大谷一教諭も「数学B」問題について「毎日の授業で筋道を立てて考えることができるようになっているかが問われている。これから社会で活躍する生徒たちに身に付けさせたい学力を発信したことに大きな意味を感じる。情報を文字だけでなく表やグラフを使って発信したり、読み取ったりする力を付けるという視点を持ちながら、授業に取り入れていきたい」と積極的だ。
 奈良女子大附属中等教育学校の佐藤大典・数学科主任は「本校では普段から解法の手順を必ず記入させている。AとBの間で難易度に差があり過ぎると感じる。Bの2、4は従来の数学の問題に近いが、それ以外は実生活に関係し、PISAを意識した問題で、1などは、メニューや問題文を読み取る力が必要」と分析する。

要望
 43年ぶりの全国一斉の学力・学習状況調査は、大きな混乱はなかったが、実施の方法や結果のフィードバックについて、現場からの要望も少なくない。
 北海道・広尾中の石川教諭は「結果を現場教師がより効果的に活用するため、設問ごとの正答率などはもちろんだが、典型的な誤答例についての情報公開も有効と考える」と提案する。
 マークシート方式や時間配分についての要望もあった。高木浩志・神戸大附属住吉中教諭は「解答用紙を1枚ずつ切り離すのは大変な手間になっていた。質問紙調査でも20分足らずで記入し終わる生徒もいた。時間の配分など再考が必要では」と言う。
 神奈川県横須賀市立大津中の浅間雅彦教諭は「文部科学省は、方針のみ決めて、細部は現場に丸投げというやり方ではなく、求める力→その育成プログラム→人的・時間的・資金的フォローまでを大きな枠組みで考えて、進めてほしい」と訴える。

カリキュラムにも反映
 現場の管理職からも、調査結果への期待や実施方法に関する注文があった。丹松美代志・大阪府池田市立細河中校長は「学力調査と、生活習慣、学習環境、校長への調査などのクロス集計の分析結果に注目している。結果を自校のカリキュラム改善に生かしたい」と期待する一方で、「子どものプライバシーへの配慮や、24日に実施できない学校に配慮して、問題の公表などはすべての学校での実施以降にしてほしい」と検討を求めた。
 東京・世田谷区立桜丘小の井出校長も「調査結果を真摯(しんし)に受けとめて、担任の指導計画や指導状況を常に把握していきたい」と話す。運営上では「当日、遅刻してきた児童の扱いについて、例えば区切りの良いタイミングで参加させるなどの指示を明記してはどうか」と提案する。

問われたPISA型読解力
 小学校6年生、中学校3年生が対象の全国学力・学習状況調査は4月24日、3万3000校近くの小・中学校、中等教育学校、特別支援学校で行われた。対象学年の児童・生徒233万2000人が筆記試験とアンケート調査に臨んだ。
 調査対象の児童・生徒がいる国立校は全校が実施。公立校は教育委員会の方針で愛知県犬山市内の各校が実施しなかったほか、インフルエンザにより30校で実施できなかった学級があった。私立校は全体の6割強に当たる534校が参加した。
 調査内容をめぐって、現場からは、「PISA型読解力を問う設問はかなり難しかった」などの評価が挙がっている。
<掲載日・2007(平成19)年5月7日>

 調査結果の公表が、自治体間のランク付けにつながり、その順位を巡って、とりわけ全国的に正答率が下位に位置付いた自治体内での議論などはかまびすしいものになり、「学力向上」が多くの自治体での最重要課題となっていった。
(編集局)

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