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「完全学校週5日制」上

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教育界を揺るがせたトピック 平成の30年(1)

 平成の30年間を振り返ったときに、大きなトピックとして記憶されるのは、まず学校週5日制の導入であろう。
 それは、1992(平成4)年のこと。学年途中の9月という異例の時期に、まず月1回の第2土曜日を休むという形で導入された。
 日本教育新聞では最初の休業日となった9月12日付で、「明治の学制発布から百二十年目にして初めてのこと」と、以下のように報じている。

学校五日制スタート/9月12日が初の休業日

 公立学校の月一回の学校五日制が十二日からスタートした。戦後の一時期に学校五日制を導入したところもあるが、公立学校が全国一斉に五日制となるのは明治の学制発布から百二十年目にして初めてのことだ。
 学校五日制はこれまでもしばしば提言、検討されてきたが具体的な課題となるには至らなかった。
 しかし臨教審答申、教課審答申で導入検討が求められ、週休二日制拡大という時代的背景もあり、文部省は平成元年八月に協力者会議を発足。
さらに実験校による試行などをふまえ今年二月に、九月から「月一回」第二土曜日を休業とする学校五日制を実施することを決定した。
 「見切り発車」との批判も一部にあるが、十二日を前にした学校現場の声は「父母の理解、協力は得られた」という冷静な受け止め方が多い。
 当日は社会教育施設、民間団体などで多彩なイベントが行われているが、教育関係者の中には「子どもを家庭に返すという趣旨をさらに徹底させるべきだ」という意見もある。
 文部省は「数年後」(小学校課)に学校五日制を月二回に拡大する方針で、今後は学校五日制定着とともに拡大に向けた検討、準備がさらに求められそうだ。
<掲載日・平成4年(1992年)9月12日付>

 その9月12日の全国各地の様子を写真とともに、日本教育新聞は、5日制の受け皿として取り組まれた様子を掲載している=紙面参照。
 1995(平成7)年4月からは、土曜休業日が月2回と拡大する。
 完全学校週5日制となるのは、新しい学習指導要領がスタートする2002(平成14)年4月からだ。
 当時は、土・日曜日が休みになることに対して、保護者からの反対も多く、学校教育のゆとりに併せて、家庭週2日制などと、家庭や地域での教育の重要性も喚起した。
 一方で、公務員の週休2日が進む中で、教員は夏休み期間などに休みの「まとめ取り」をしていたが、「まとめ取り」だけでは対応しきれなかったことも指摘された。
 教員の労働問題と捉え、日本教育新聞では、教員の「週休2日制」が「学校週5日制」へと化けたと微妙な変化に紙面で以下のように解説した。

基礎から分かる教育問題/完全学校週5日制/「学校週5日制」に至る経緯

 学校週五日制は子どものゆとり回復が狙いとされる。だが、教員が週休二日を確保するという側面もあったようだ。旧文部省は臨教審時代から現在に至るまで微妙に立場を変えてきている。
 日本教職員組合は昭和四十七年の定期大会で初めて教員の週休二日制を提起。その後、「教育改革としての学校五日制、教職員の権利としての週休二日制」の実現に向けて活動してきた。
 昭和六十一年になると臨時教育審議会が第二次答申で週五日制について提言。「週休二日制に向かう社会の趨勢(すうせい)を考慮しつつ、子どもの立場を中心に家庭、学校、地域の役割を改めて見直す」ことを趣旨に掲げた。
 同じ年には金融機関が月に二回の土曜休業を実施。社会の流れに学校を合わせるというトーンがある。
 旧文部省も、平成三年ごろまでは、「民間企業における週休二日制の普及の状況…から、学校週五日制が検討課題となっている」(平成元年版「教育白書」)ととらえてきた。
 だが、平成四年には、二月に旧文部省の研究会が学校週五日制に関する考え方をまとめ、九月から第二土曜日が休日になる。この時点から旧文部省は、「週休二日制の普及拡大は、この学校週五日制の導入の趣旨を生かす上で好ましい影響を及ぼす」(平成四年「教育白書」)と言い回しを変えている。
 平成七年四月からは第二、第四土曜日が休日に。この年の教育白書からはついに、「週休二日制」の文字が消えた。
<掲載日・2002(平成14)年4月12日>

 完全学校週5日制の導入によって、公私格差も生んだ。公立が休んでいる土曜日に、私立は、通常通りの教育活動に取り組むところが多かったのだ。

社説/完全学校週5日制/私立学校も実施すべきだ

 いよいよ四月から、学校五日制の完全実施が始まるが、私立学校の実施率は低い。これは問題だ。

私立中は実施4割だけ

 文部科学省の調査によれば、平成十四年度から学校五日制を実施する私立学校は、小学校で六九・二%、中学校で四三・四%、高校で五八・九%にとどまっている。特に大都市圏の中高一貫教育を行っている進学校のほとんどが学校五日制を導入していない。
 学校五日制の完全実施の方針が決まった当初は、大都市圏の私立学校でも「五日制は時代の流れ」という空気が広がっていた。
 公立の全校で完全五日制が実施されれば、六日制を維持する私立学校は厳しい批判を浴びることも予想され、未実施校に対する経常費補助の傾斜配分等の政策がとられるのではないかという懸念もあって、学校五日制導入に前向きの対応を示す学校が少なくなかった。
 しかし、その後、学校五日制の実施に関連して補助金政策の変更の動きは見られず、この点からのドライブはかからなくなったようだ。
 むしろ、最近のゆとり教育批判と学力低下論が、私立学校の学校五日制の導入に逆にドライブをかけているのではないか。このところ、学校六日制の維持を私立学校の特色として標ぼうする動きが強まっている。
 学校五日制を実施しないとなると、公立学校と私立学校の間の授業時数の格差が広がる。既に学校五日制を実施しない私立中学校の国語、社会、数学、理科、英語の五教科の週当たり授業時数は、公立学校の一・五倍になっている。この格差は今後一層広がるだろう。
 授業時数の格差は学力の格差となる可能性がある。少なくとも保護者にはそう映るだろう。となれば、いよいよ私学志向の流れが強まる。これは公立学校の関係者には納得がいかないのではないか。

現行法では学校裁量に

 なぜ私立学校は学校五日制を導入しないことが許されるのか。
 現行法令では、私立学校に学校五日制を強制できない仕組みになっている。すなわち、学校教育法施行規則で、公立学校の休業日は「毎月の第二土曜日および第四土曜日」(四十七条三号)と規定しているが、私立学校の休業日は「学則で定める」(四十七条の二)となっている。私立学校の休業日の定め方は、私立学校の自主性尊重の精神から、学校の判断にゆだねられているわけだ。
 しかし、学校五日制は公立学校だけを対象としたものではない。学校五日制の実施方針を決めた中教審答申(平成八年)は「学校週五日制の趣旨は、国公私立の各学校を通じて異なるものではなく、全国的に統一して実施することが望ましい」と提言している。
 文部省は、これを受けて、平成十年と十一年に文部省通知で私立学校に対して学校週五日制を導入するよう要請している。
 文科省は、三月四日、新年度からの学校五日制の実施を前にして、「完全学校週五日制の実施」に関する事務次官通知を出した。通知でも、再度、私立学校における学校五日制の実施に向けた指導を促している。

導入の趣旨かみしめよ

 学校五日制の趣旨は「児童および生徒の家庭や地域社会での生活時間の比重を高めて、主体的に使える時間を増やし、『ゆとり』の中で『生きる力』を育む」(事務次官通知)ことにある。
 私立学校の関係者もこの趣旨に異存はないであろう。
 私立学校の自主性は尊重されるべきであるが、私立学校も公立学校と同じ公教育として位置付けられていることを忘れてはならない。公教育でありながら、一方は五日制で、一方は六日制というのでは、国民の納得は得られない。私立学校において主体的に学校五日制の導入に取り組むことを期待したい。
<掲載日・2002(平成14)年3月22日>
(編集局)

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