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冬こそ感染症の予防教育を

11面記事

企画特集

感染症カルタでアクティブ・ラーニング

岡田晴恵(おかだ・はるえ)
 白鴎大学教育学部教授。国立感染症研究所研究員、日本経団連21世紀政策研究所シニア・アソシエイトなどを経て現職。医学博士。専門は、学校感染症の予防対策。

 学校はうつる病気(感染症)が流行りやすい場所です。特に冬は「学校で予防すべき感染症(学校感染症)」の中でもインフルエンザなどの呼吸器感染症やノロウイルスなどの感染性胃腸炎、また皮膚症状の出る水痘(水ぼうそう)などが流行しやすい時期です。このような季節にこそ、児童や生徒に向けた感染症の予防教育で“知識のワクチン”をつけたいものです。そこで、子どもたちが楽しみながら主体的に感染症のカルタを行うことで、病気の知識を身に付けるとともに、どう予防したら良いのか? どうしたら学校や家庭で感染症が流行りにくくなるのか? を考えて、自分で予防対策を実践してくれるまでを目標として「感染症カルタ」を自費で作製しました。
 冬季に注意したいインフルエンザ、ノロウイルス感染症を説明しながら、保健体育やホームルームでの感染症教育を提案します。

インフルエンザ

 インフルエンザの症状とワクチン予防をカルタの読み札に取り入れています。
 「せ 咳に熱 関節痛いよ インフルエンザ ワクチン接種で 重症化阻止」と読み上げられるとみんなで取り札(絵札)を取り合います。そこで取った人は、絵札の裏面にあるインフルエンザの病原体、症状、予防方法を読み上げます。全てルビがふられてあり、これをグループのみんなで聞きます。
 「病原体はインフルエンザウイルス。患者の咳やくしゃみの飛沫を吸い込んで感染。高熱、咳や鼻水、筋肉や関節の痛みなどが出ます。インフルエンザウイルスは、少しずつ姿を変えて流行を繰り返し、日本で毎年10人に1人くらいがかかります。咳をしている人はマスクをして、ウイルスが飛び散らないようにしましょう。予防は、流行時には人ごみを避け、手洗いと咳エチケットを励行。予防ワクチンを受けます」となっています。
 絵札には咳でウイルスが飛び散る様子が描かれ、咳は他者に吐きかけないようにすることや手についたウイルスを洗い流すことの重要性の理解を促します。また、五十音だけでなく、絵札の下に書かれてある“病気の名前”で取るバージョンも創りました。インフルエンザでは「乳幼児 妊婦に高齢者は ハイリスク インフルエンザ 感染予防大事」となっています。日本では毎年の流行で、高齢者、乳幼児を中心に数千人以上が死亡しています。ハイリスクの家族にうつさないためにも、予防を徹底しましょうというメッセージを送っています。

ノロウイルス感染症

 「な 何食べた? 嘔吐だ下痢だ ノロウイルス トイレのあとの 手洗い大事」。この読み札で強調されているのは、手洗いです。患者の糞便1gには1億個以上のノロウイルスがいるのに対し、数十個のウイルスが口に入っても感染が成立します。ですから、念入りに流水で洗い流すことが基本です。回復した後も約2週間は糞便にノロウイルスが出てきますので、トイレの後、給食当番や食事の前の手洗い励行を指導します。
 「嘔吐下痢 流行しやすい ノロウイルス トイレの蓋は 閉めて流して」と病気で取る読み札にあるように、トイレの水流でウイルスが巻き上げられ、周辺の空間に長時間漂うこともあります。また、ノロウイルスが吐しゃ物などで飛び散り、埃などと一緒に舞い上がることもあり、これらを吸い込んでも感染します。掃除機の排気でのノロウイルスの空気感染も報告されています。学校での集団発生では、同時に複数の子どもが嘔吐するような状況となりますが、このときの掃除(広い範囲を確実にふき取る)と消毒(塩素系漂白剤や二酸化塩素の液剤を使用)の徹底が流行抑止の鍵となります。
 ノロウイルスの絵札の絵は、トイレの掃除や換気、空間除菌の重要性を示しています。裏面の説明は「病原体はノロウイルス。口から入る、吸い込むなどして感染。人に嘔吐や下痢などの急性の胃腸炎を起こし、集団感染も起こります。吐しゃぶつや下痢便にはおびただしいノロウイルスが存在し、トイレを流すときにはフタを閉めて流し、漂ったウイルスを吸い込まないようにします。回復した後も、約2週間は糞便にウイルスが排泄されるので、よく手洗いをします。予防は、二枚貝は加熱。嘔吐物は塩素系漂白剤で消毒」とあり、これをみんなで共有します。
 回復後の児童が給食のパンをトングを使用せずに不十分な手洗いの手で配って、クラスでノロウイルスの集団感染が起こった事例があります。どうしてよく手を洗うのか?などの理由を理解した動機づけがないと、予防対策は長続きしません。その病気を知り、予防方法を知って身を守り、かかっても早期にきちんと対応することで重症化や死に至る危険性を大幅に減らすことができます。健康教育とは、健康問題が起こらないようにする(予防)、起こってもすぐ対処できるようにする(早期発見・早期治療)、健康問題を解決する(治療)、完全に解決して社会復帰する(リハビリテーション)というように良い方向に向かわせる行動とその動機づけとなる知識を与えることです。これからを生きる児童・生徒たちへの感染症教育は、まさに健康教育の理念にマッチしたものと考えます。冬にこそ「感染症カルタ」の予防教育で流行を抑止してください。

 問い合わせ=(株)奥野かるた店 電話03・3264・8031

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