日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

「医療的ケア」の必要な子どもたち

14面記事

書評

第二の人生を歩む元NHKアナウンサーの奮闘記
内多 勝康 著
戸惑いや挫折を乗り越え

 「困ってるんだよ」と先輩校長が何度となくぼやいたことがある。ストレッチャーの児童への対応に施設も改善されない、増員もされない。その結果、教員の負担が増え、昇降機での移動や授業時間の確保、さらにプールにも何人もが関わることになる。とても人ごとには思えなかった。財政の力点をどこに置くのかで首長や議会の本音が現場からはよく見える。日本は人工中絶の選択が許されている。さらに医療も日進月歩で進化し、救える命も増えている。障害を持って生まれる子どもたちにはさまざまなケースがあるが、対応に苦慮するためほとんどの機関で受け入れ拒否をされる現実は厳しい。
 本書の構成は人から入り、人へと帰着する。元アナウンサーとして国立成育医療研究センター「もみじの家」に飛び込んだ著者の戸惑いや挫折から、艱難辛苦を乗り越えつつ、自己開示をしながら日記のようにつづられていく、その正直過ぎる記述に心が揺さぶられる。
 施設からの出所は、家庭の底知れぬ介護の始まりでもある。だからと言って介護保険は適用されない。誰が悪いとかの責任追及ではなく、わがこととして捉えるとしながらも、立場が変わると対岸の火事とする権力者を選ばぬためにも、命を懸けた、命への関わり、そして弱者を知り、主権者としての判断を磨くことは喫緊の課題である。私なら「命の授業や社会福祉の視点」から著者本人を早速招聘するだろう。
(2376円 ミネルヴァ書房)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)

書評

連載