知の時代を創造するたくましい人間の育成へ
14面記事日本教育会が全国教育大会 奈良大会
公益社団法人日本教育会(北原保雄会長)は10月13日、第43回全国教育大会奈良大会(辻寛司実行委員長)を奈良市の「なら100年会館」で開催した。大会主題は「知の時代を創造するたくましい人間の育成」で副主題は「~高い志をもち、よりよく生きる力を育てる教育~」。全国の幼稚園・こども園、小・中、高校、特別支援学校の校園種を超えた会員らが集い、これからの教育の在り方を共に考える場になった。
開会式
子の夢・希望実現へ大会の成果生かす
北原会長あいさつ
開会式で北原会長は、「本会はわが国で唯一、幼稚園・こども園、小・中、高校、特別支援学校の学校教育のリーダーと保護者や教育への関心の高い方々が校園種を超えて連携し、教育の向上に取り組んでいる内閣総理大臣認可の公益社団法人である。全国教育大会は公益事業の一つであり、昭和57年から続いている。このように本会が長きにわたって継続・発展できたことは、会員の皆さまのご努力と文科省をはじめとする関係諸機関のご理解とご支援のおかげであり、改めて感謝の気持ちをお伝えしたい」と強調。今大会が、会員それぞれの学校園や家庭での実践に生かされ、子どもたちの夢と希望の実現につながることを期待していると結んだ。
実践報告・提言
こども園を「公教育の入口」に
15歳見据え 自ら学び、行動する子育む
鳥羽・静岡市立由比こども園園長
実践報告・提言は、鳥羽美紀子・静岡県幼保連携型認定こども園静岡市立由比こども園園長、坂上良幸・奈良県五條市立阪合部小学校校長、井手瑞樹・佐賀県太良町立多良中学校校長、梅澤英明・群馬県立松井田高校校長、長谷弘之・北海道旭川高等支援学校校長の5人が行った。
鳥羽・由比こども園園長のテーマは「15年間で由比の子どもを育てる~公教育の入口となるこども園の使命~」。
同園のある地域は平成20年の合併で静岡市になり、周辺には中学校1校、小学校2校、こども園3園があり、まち全体で子どもを育てる気風がある。
3校3園では「由比地区校園長会」をつくり、「15年間で由比の子どもを育てる」を合言葉に校園種間の接続を重視。静岡市は2022年度から全市一斉に小中一貫教育を始めるが、同校園長会では、こども園を含めた地区全体の問題と捉えて準備を進めている。同校園長会の義務教育修了時の目標は「自ら学び、進んで行動し、他と協調できる15歳」を育てることで、家庭との連携やあいさつを通して社会性を身に付けさせていく。
鳥羽園長は、こども園の位置付けは、「公教育の入口」であるとし、家庭との連携では生活習慣の確立を進め、あいさつなどを通してコミュニケーション力を身に付けさせるようにしている。また、地域の自然や文化、住民との連携を大事にしており、教育力を生かしつつ、園の教育理念を発信し、より充実した活動になるよう努めている。
実践事例としては、地域の協力による「夏みかん狩り」や漁港でのクロダイの稚魚放流、お寺の和尚さんの講話などを、園児たちの反応や成長の様子などを交えて紹介。日頃の教育の成果としては、園児がたくさんの人からかわいがられ、愛情を受けて育っているため、道徳性を育むための厳しい指導がしっかりと心に響くようになったことなどを挙げた。
鳥羽園長は最後に、園歌の一節「駿河の海の向こうにはどんなお国があるでしょか。大きくなったらこの海越えていってみたいな世界中」を読み上げ、昭和50年代から世界に羽ばたく子どもを育てようという理想を持っていたと語り、伝統を守りながら、地域にさらに愛される園にしていきたいと強調した。
坂上・奈良県五條市立阪合部小学校校長
子どもに「他者意識」を
生き抜く力身に付けさせよう
坂上・阪合部小学校校長のテーマは、「『心の教育の推進』と『他者意識の獲得』を目指して」。
坂上校長は冒頭で佐藤学さんの「子どもたちに虚無や無関心が存在するとき、果てしない戦いを覚悟しなければならない」という言葉を提示。教育活動は時に、困難さを伴う場面があり、課題と向き合い、解決するには、どんな働き掛けをすればよいのかと考え、至った結論が「他者意識の獲得」(他者を輝かせる心の育成)であったという。
学校改善のための行動としては、教育の理想の姿を自分自身が悩んだ経験を含めて語り続ける、夢を持つ大切さを全校朝礼で伝え続ける、「他者意識」を育てる道徳教育を推進する、学校のグランドデザインに心の教育を柱に盛り込む、伝統文化を継承する―などを列挙した。
坂上校長は「他者意識」の「他者」には「自己」も含まれていると説明。自分という存在や「生」は、常に他者と共にあり、教育活動を通して他者の考えを理解し、より良い姿を模索できるような教育活動を目指していくと、子どもに生き抜く力が身に付いていくと語った。
これまでの教育の成果としては、子どもたちの間に、さまざまな人との関わりの中で自分が生かされているという感覚が育っていることなどを指摘した。
日常的にボランティア活動
クラブ設け、生徒9割参加
梅澤・群馬県立松井田高校校長
梅澤・松井田高校校長のテーマは「ボランティア活動で達成感・自己肯定感・道徳心を醸成する~部活動のようにボランティア活動を行う~」。
同校の前身は昭和13年に開校した松井田高等実践女学校で本年度創立80周年を迎えた。
現在は1学年2学級、定員80人の小規模校で、中学時代に不登校を経験したり、さまざまな支援が必要であったりする生徒が一定数いる。教育目標は「生徒一人一人の良い所・長所を認め、伸ばすことにより、本来持っている能力を最大限に引き出し、調和のとれた豊かな人間性を育成する」こと。スローガンは「ハートフル松高」で、生徒・地域・他者に優しい学校づくりを目指しており、きめ細やかな指導が特徴だ。また、ボランティア活動を通した豊かな人間性の育成が大きな特色になっている。
生徒がボランティア活動をしやすくするために、同校では、部活動のような位置付けの「松井田高校ボランティアクラブ」(MVC)を設置。生徒の心理的なハードルを下げるため、入学時からMVCの「準会員」と位置付け、年度内に1度でもボランティアに参加すると「正会員」になる。
ボランティアは「イベント」と呼ばれる事業ごとに募集し、生徒は無理のない範囲で参加。昨年度のイベントは53に上り、参加人数は延べで890人(参加率87・3%)に上るなど、生徒の日常の一部になっている。
地域でのイベントは、子ども食堂や老人福祉施設での介護、各種祭りの補助などで、ハーフマラソンのスタッフを担うこともある。
校内での活動もイベントとし、長期休業期間の清掃や、借りている畑で野菜栽培などをしている。
梅澤校長は、ボランティア活動と生徒の成長との因果関係を明確に述べることは難しいとしながらも、生徒からは「ボランティアを通して人の笑顔を見られるのが何よりうれしい」「活動を通して社会に貢献できる人になりたい」などの声が寄せられたと語った。参加回数が多い生徒は、後に生徒会活動に積極的に取り組んだり、学校行事で中心的な役割を果たすようになるなどの変化が見られた。
課題としては、積極的でない生徒が1割程度いるが、強く勧めると「ボランティア」ではなくなるため、主体性を持たせる方法を見いだしていくことや教職員の負担の大きさなどを挙げた。
シンポ
「考え、議論する道徳」推進がテーマ
学校経営の柱に据えて
島・畿央大大学院教授
シンポジウムのテーマは「『考え、議論する道徳』の推進に向けて」。
最初に島恒生・畿央大学大学院教授が基調提案し、これを受けて、実践報告に登壇した坂上良幸・奈良県五條市立阪合部小学校校長、澁谷正人・奈良市立平城西中学校校長、匠原記世子・奈良県立郡山高校校長の3人が、勤務校での実践内容や道徳充実の工夫などを発信した。
島教授は道徳の現状について、積極的に研修を行い、学校全体で充実させようと努力する学校が増えているものの、「担任任せ」になっていたり、時間確保が不十分であったりするところもあると指摘。
学校全体で道徳に取り組んだ中学校に共通する成果として、(1)生徒理解が進んだ(2)数学など教科の授業が劇的に変わった(3)生徒が道徳を楽しみにするようになった(4)学級経営が充実し、学習態度や学力の向上につながった(5)生徒が自立に向かい、生徒会などの特別活動が充実した―ことなどを挙げ、管理職が道徳教育や道徳科の推進を学校経営の柱に据え、率先するよう提言した。
校長が道徳に関わる方針を明確に示し、授業改善に力を注ぎ、「考え、議論する道徳」が具現化していくと、子どもの自立と「主体的・対話的で深い学び」が進み、学校全体が大きく変わると強調。例えば、従来型の道徳は、「あるべき姿」を示すなど、教え込みや伝達型が多かったため、「他律」にとどまり、「自律」につながりにくいという。
この他、全体計画・年間指導計画を作成し、日頃の教育活動で子どもたちに豊かな体験をさせ、道徳で体験を通して育った心を自覚させ、その成果をまた日々の教育活動で生かす―といった循環をつくり出す重要性も投げ掛けた。
教育実践顕彰論文を募集
12月10日まで
日本教育会は平成30年度第9回教育実践顕彰論文を募集している。学校園の現場で、意欲的に実践し、優れた成果を収めている取り組みを応援することが目的だ。
応募できるのは学校園、団体、個人のいずれかで、対象は、同会会員の他、国公私立幼稚園・こども園、小・中、義務教育学校、中等教育学校、高校、特別支援学校および教職員。会員以外が応募する場合は会員の推薦が必要になる。
テーマは自由で、A4判4枚以内(書式は45字×44行)。締め切りは12月10日(月曜日、当日消印有効)で郵送の他、電子メールでも受け付ける。
会長賞の奨励金は10万円(2点)、優秀賞は5万円(5点)。奨励賞(15点)や努力賞もある。審査の観点は、教育の今日的課題を踏まえているか、研究・実践内容に創造性や妥当性があり他の参考になるか、子どもの成長や学校・地域の変容が成果と課題として具体的に表されているか、教育論文として論旨が明確か、など。
問い合わせ=同会事務局 TEL03・5803・9707