日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

大学入試改革授業案 スピーキングが4技能の向上を加速

12面記事

Topics

英語
西山 哲郎 東大寺学園中学・高校教諭

創造的な思考を養う
 今年2月に提示された新しいセンター試験のプレテストに目を通し、驚いたのは発音・アクセント問題、4択や整序といった文法問題が姿を消し、筆記(読解)試験とリスニング試験ともに具体的な場面を想定し「英語の運用能力」を測定するという作成者側の意識が強く感じられたことである。
 日本人学習者には、「聞き取りは聞き取り」「読解は読解」そして「文法は文法」といった4技能のつながりを軽視した指導に反映された学習傾向がこれまで色濃かった。文法問題を解くことに優先順位を置く者が多く、文法ドリルに励んでいることが安心感につながる風潮も残念ながら脈々と受け継がれてきた。そのため、4技能に焦点を当てた授業展開を行う教師が悩まされることも多かった。
 しかし、今回のプレテストの出題傾向への対応を機に、日本の学校現場に根強く残っている教師主導の文法訳読、文脈を軽視したドリル学習といった運用能力向上や表現する喜びにつながらない指導方法は見直され、4技能重視の授業展開が浸透していくと期待している。
 「学習指導要領解説」には、英語習得の一つの目標として「幅広い話題について、話し合ったり、討論する」と掲げられているが、中・高6年間も英語学習に励んだ大学生が海外旅行先のレストランで食事の注文もままならないなどの話は枚挙にいとまがない。こういった理想と現実の隔たりは、上述した文法訳読やドリル学習という英語の「紹介」と現実の場面を想定した英語の「習得」の大きな違いを、指導者と学習者の双方が理解していないことから生まれている。
 今回のプレテストでは、実際の場面で英語を運用することを念頭に置いた問題が多いことが特徴的である。第4問はレポート、第5問Aでは学校新聞を読み解く力を測定するものであり、第5問Bや第6問では文章を読んだ上でメモを取り、ライティングまでの過程や構成を考えさせる問題が出されている。試行試験は表面上、聞き取りと読解の2技能測定のように映るが、普段からグループで意見を出し合い、議論し、まとめ、そして発表するような活動型の授業を経験している生徒にとっては親しみやすく、そして解答しやすい形式だともいえる。発信するまでの過程を測定したいという作成者の意図が十分に伝わってきた。
 そこで今回は、上表のスピーキングを中心に据えた4技能の向上を目標にした、PBL(問題解決学習)型の授業案をご紹介した。

問われる「運用能力」
 現在、中高一貫校の高校2年生を担当しているが、彼らを受け持ち本年度で5年目となる。過去5年間、4技能が相互に関連付いた有機的な英語教育を掲げ、授業を行ってきた。
 若く経験のない時代は文法訳読に始まり、単語帳や問題集を使うこと、音読や暗唱自体を目的化させた授業を行っていたが、思うように力が伸びず英語学習を楽しんでいない生徒たちを目にするたびに悩み、自分自身の英語学習を振り返ってみると、実は学習者として有機的な学びをしていたことに気付いた。
 文法のための文法学習、運用能力の向上につながらない知識の伝達系の教え方を大幅に見直し、結果、現在は多読多聴、英英辞書、生素材、質問づくり、多話多書、PBLなど私自身の英語学習を反映した授業形態に180度変化した。
 当初は話せるようになるためには話す時間を増やす、書けるようになるためには書く時間を増やすといった浅い認識しかなかったのだが、「米国の日本語教育に学ぶ新英語教育」(大学教育出版 米原幸大著)で紹介されている「ジョーデン・メソッド」に感銘を受け、スピーキング活動の充実が4技能の向上を飛躍的に加速させることを知った。
 通常、スピーキング重視の授業というのは「文法を軽視している」などと批判を受けやすいのだが、ジョーデン・メソッド型の授業では、日本語母語者に英語のグラマーのどの点がどう難しいのかを深く理解させ、インプットし、スピーキング中心のオーラルの授業を行う。言語は意味を持った「音」が最も重要で、スピーキング中心の授業の組み立てで、新センターテストで求められるリスニング力とリーディング(さらにライティング力)を伸ばすことができるのは米国の日本語教育現場でも実証されており、私がこの4年間実践してきたことを通して確信を得ている。何より外国語で自己表現することはとても楽しいことなのである。
 さらに、教師主導ではなく、PBL型の授業を通じ、生徒たちは創造的に思考することを学び、これから到来する未知の新時代を生き抜くすべを学んでいる。残念ながら新時代を経験したことのないわれわれ教員は、当然「正しい答え」など持ち得ないわけなので、共に学んでいくという姿勢が重要になり、生徒たちの深い学びを促すファシリテーターとしての素養も求められる。
 型にはめなければ生徒たちは既に十分に独創的である。彼らから学ぶことは非常に多く、英語力の向上と社会を生き抜く力を高めてほしいと常に願い、授業に携わっている。

PBL(問題解決学習)型の授業案

Topics

連載