日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

次期指導要領 高校「探究」一層の充実求める

9面記事

中教審

中教審答申から

 中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(平成28年12月)は、今後の高校の教科・科目の見直しの方向を示し、さまざまな「探究」科目の新設を提言した。また「総合的な学習の時間」の呼称についても、高校段階では「総合的な探究の時間」への名称変更を含め位置付けの見直しを求めた。「総合的な探究の時間」だけでなく、これからの高校教育の各教科なども含め「探究」の一層の充実が随所に指摘されている。

「深い学び」実現へ
「総合的な学習」の課題押さえ

 平成20年改訂の現行学習指導要領では、「総合的な学習の時間」に教科などの枠を超えた横断的・総合的な学習、探究的な学習、協同的な学習―などに取り組むことを重要視するようになった。
 改訂後、これまでの取り組みによって一定の成果があったとする一方で、中教審答申では、三つの課題を指摘している。
 一つ目は、学校間に格差が生まれたこと。育成したい資質・能力、各教科との関連付けで、学校による差があるという。
 二つ目は、「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」として示してきた「探究のプロセス」のうち、「整理・分析」と「まとめ・表現」の取り組みが十分ではないことを指摘した。
 三つ目は、高校での取り組み状況。地域の活性化につながる実践がある一方で、本来の趣旨を実現できていない学校があると分析した。
 これらの状況を踏まえ「これまで以上に総合的な学習の時間と各教科等の相互の関わりを意識しながら、学校全体で育てたい資質・能力に対応したカリキュラム・マネジメントが行われるようにすること」「探究のプロセスを通じた一人一人の資質・能力の向上をより一層意識すること」―などを求めた。
 特に、高校での総合的な学習の時間については、より探究的な時間となるよう位置付け直す方向を示す。「各教科等の見方・考え方」を総合的な学習の時間で「総合的・統合的に活用」する一方、「各教科等の見方・考え方が、多様な文脈で使えるようになるなどして確かなものになり、各教科等の『深い学び』を実現」するという循環をつくり出したい考えだ。
 そのために「探究的な能力を育むための総仕上げとしての在り方を明確化」「特定の分野を前提とせず、実社会・実生活から自ら見出した課題を探究することを通じて、より自分のキャリア形成の方向性を考える」「生徒が主体的に探究していくことを助ける教材等の作成も検討」などのイメージを打ち出している。
 学習するに当たっての「探究のプロセス」としては、あらためて「課題の設定」→「情報の収集」→「整理・分析」→「まとめ・表現」などを示したが、この順序は生徒の学びの試行錯誤の中で、入れ替わったりしていくことも「探究の学び」としている=図1参照。

高等学校「総合的な時間の学びの過程のイメージ」
高等学校「総合的な時間の学びの過程のイメージ」

小・中学校で培った見方・考え方基盤に

 現行学習指導要領の基となった20年の中央教育審議会答申には、小・中学校での「習得・活用・探究」といった学びの過程の考え方が当時から示されてきた。この学びの過程が提案されたときには、「活用」とは何かといった現場からの疑問が多く出され、「探究」は総合的な学習の時間などにおける教科などを横断した問題解決的な学習や「探究」活動へと発展していくと説明されてきた。
 20年答申には「探究活動を行うことは、子どもの知的好奇心を刺激し、学ぶ意欲を高めたり、知識・技能を体験的に理解させたりする上で重要なことであり、自ら学び自ら考える力を高めるため、積極的に推進する必要がある。こうした活動を通して、各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ、総合的に働くようになることが期待される」などと述べられている。
 今回の中教審答申は、現行の学習指導要領への当初の懸念に触れ「小・中学校における教科の授業時数が、習得・活用・探究という学びの過程を実現するには十分ではなく、学力が十分に育成されていないのではないか」と述べる一方、「教育目標や内容が見直されるとともに、習得・活用・探究という学びの過程の中で、記録、要約、説明、論述、話合いといった言語活動や他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動等を重視することとされたところであり、そのために必要な授業時数も確保されることとなった」と振り返っている。
 さらに「物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営み」を「探究」とした、今回の中教審答申は、この考え方の延長線上にあると言ってよいだろう。
 小・中学校の総合的な学習の時間で培った「探究的な見方・考え方」を基盤に、小・中・高校の各教科などの中で学習プロセスや学習活動は異なるものの「探究」が行われ、それらがさらに高校での総合的な探究の時間、課題研究、理数探究へとつながっていく見立てを示す。

子どもの変容踏まえ不断の指導改善必要

 今回の中教審答申が提案した高校の教科・科目の見直しの中で、より一層「探究」色が強まった。理数にわたる探究科目以外にも、名称に「探究」が多く入った。答申の別添資料には「発達の段階や教科・領域の特質に応じた探究のイメージ」=図2参照=が付され、理解を深める手だてにしている。
 この他、これまでの審議の過程でも、国語・選択科目には、主に古文・漢文を教材に「知識・技能」の「伝統的な言語文化に関する理解」を深めることを重視するとともに、「思考力・判断力・表現力等」を育成する「古典探究」(仮称)以外の選択科目でも「探究的な学びの要素を含むものとなることが考えられる」と、「探究」学習への言及がある。
 理科では「『観察・実験』や『探究活動』を充実させることにより、科学的な探究の過程を通じて、中学校で身に付けた資質・能力を更に高める、観察・実験が扱えない場合も、論理的に検討を行うなど探究の過程を経ることが重要である」などとした。
 地理歴史科の選択履修科目に至っては「日本史探究」(仮称)、「世界史探究」(仮称)、「地理探究」(仮称)と、科目名全てに「探究」を付した。
 「歴史の展開について、総合的な理解を踏まえて、地域や日本、世界の在り方を意欲的に探究しようとする態度を育成すること」<「日本史探究」(仮称)>、「歴史の大きな枠組みと展開についての理解を踏まえ、世界や日本の在り方を意欲的に探究しようとする態度を育成すること」<「世界史探究」(仮称)>、「現代世界における日本の国土の特色について多面的・多角的に考察し、我が国が抱える地理的な諸課題を探究する活動を通して、その理解の方向性や将来の国土の在り方などについて展望させる構成が考えられる」<「地理探究」(仮称)>などと、それぞれ言及されている。
 新必履修科目「公共」(仮称)では「例えば、公共的な場づくりや安全を目指した地域の活性化、受益と負担の均衡や世代間の調和がとれた社会保障、文化と宗教の多様性、国際平和、国際経済格差の是正と国際協力などを探究する学習を行い、その解決に向けて、各人がどのように主体的に関わっていくかを考えるという構成が考えられる」などとも述べる。
 指導する側の教員について、今回の中教審答申は「教員が習得・活用・探究といった学びの過程全体を通して、子供たちが『主体的・対話的で深い学び』ができているのかといった子供たちの変容等を踏まえて指導方法を見直し、改善していくことが必要」と、不断の改善を提言した。
 さらに「教員養成段階においては、新科目に限らず教育課程全体を通じて探究的な学習が一層重視される方向性であることも踏まえ、探究的な学習を実施するための指導力の育成に向けた取組の充実が求められる」と述べた。
 いずれにしろ、教員一人一人が探究的な学習をイメージできるか、限られた時数の中で教科等の指導場面にどう組み入れることができるのか、今後の大きな課題でもあろう。

発達の段階や教科・領域の特質に応じた探究のイメージ
発達の段階や教科・領域の特質に応じた探究のイメージ

中教審

連載