次期指導要領 高校数学・理科横断の探究科目を新設
15面記事中教審答申から
数学と理科では、「数学・理科にわたる探究科目」として、新たに提案されているのが「理数探究基礎」と「理数探究」。他の教科・科目の見直しが同一教科内で行われているのに対して、新共通教科「理数」に位置付く新科目は、複数教科にまたがる。中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(平成28年12月)では新科目を提案するとともに、現行の「理科課題研究」、数学科の「数学活用」、専門教科「理数」の「課題研究」の内容を踏まえ、新科目が発展的に新設されるため、「理科課題研究」は廃止するとした。
選択履修
多角的、複合的視点で探究
SSH「課題研究」の良さ生かす
中教審答申に至る過程の「高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の在り方に関する特別チームにおける審議の取りまとめ」では、現行の高校の数学、理科の各分野に探究的な学習を中核に据えた科目として「数学活用」「理科課題研究」がそれぞれ設定されているが、「大学入学者選抜における評価がほとんど行われないことや、指導のノウハウが教員間に共有されていないことなどもあって、高等学校における科目の開設率が極めて低い状況にある」と指摘している。
その一方で、約200校の指定があるスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)が学校設定科目として取り組む、数学・理科にわたる探究的科目「課題研究」を評価し「指導のノウハウが確立しつつあるとともに、科学技術に関する学習意欲や未知の事柄に対する興味の向上、大学・大学院への高い進学率等の面で効果が見られている」と述べている。
取りまとめでは、こうした成果を踏まえ「新科目の基本原理」について「(1)様々な事象に対して知的好奇心を持つとともに、教科・科目の枠にとらわれない多角的、複合的な視点で事象を捉え、(2)『数学的な見方・考え方』や『理科の見方・考え方』を豊かな発想で活用したり、組み合わせたりしながら、(3)探究的な学習を行うことを通じて、(4)新たな価値の創造に向けて粘り強く挑戦する力の基礎を培う」と整理した。
審議の過程では「数理探究」などの名称も使われていたが、「数理」は数学を意味する用語であるなどの理由から「理数」が採用されている。
その上で、SSHの「課題研究」の良さを生かした新科目を提案。取りまとめでは「理数探究基礎(仮称)」(1単位程度)、「理数探究(仮称)」(2〜5単位程度)を「いずれも選択履修科目」と記述した。
「基礎」「実施」の2段階
全校的な指導体制が必要と指摘
中教審答申は、別添資料として「高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の教育のイメージ」を示している=図1参照。
それによると、「理数探究基礎」を「基礎の習得段階」(基礎段階)、「理数探究」を「探究を深める段階」(実施段階)と位置付けている。基礎段階では探究の手法を学ぶなど「探究の過程全体を自ら遂行するために基礎となる資質・能力をあらかじめ身に付けておくことが必要」などとし、実施段階では外部機関の積極活用、実験などの試行錯誤など「基礎で身に付けた資質・能力を活用して自ら課題を設定し、探究の過程全体を行う」などとした。
両者の関係について、特別チームの取りまとめは「『理数探究(仮称)』の履修に際しては、『理数探究基礎(仮称)』の履修を前提とするが、『理数探究基礎(仮称)』の学習内容を『総合的な学習の時間』や他の教科・科目で十分に習得していると判断される場合には、『理数探究(仮称)』のみの履修を認めることも考えられる」と、柔軟なカリキュラム編成に配慮した。
その指導体制については「数学及び理科の教員を中心に全校的な指導体制を整えることが必要」(特別チームの取りまとめ)と言及した。
取りまとめではこの他、新科目で育成される資質・能力は大学での学びにも必要とされることから、「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)でも学習成果が評価されることや、個別の大学入学者選抜でも十分評価されることを期待した。
また、中教審答申は「資質・能力を育成する学びの過程についての考え方」で、高校の理科を例に挙げ、重視すべき学習過程のイメージも示した=図2参照。課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決へと向かうため、自然事象に対する気付き→課題の設定→仮説の設定へと至り、検証計画を立案し、観察・実験、結果の処理を踏まえて、考察・推論→表現・伝達へと、探究の過程を明示した。その際、意見交換・議論、調査、研究発表、相互評価などの「対話的な学びの例」を、課題解決に至る段階に合わせて挙げている。
高等学校の数学・理科にわたる探求的科目の教育のイメージ
資質・能力を育成するために重視すべき学習過程のイメージ(高等学校基礎科目の例)
理科
育成する資質・能力を基礎→応用→発展で整理
中教審答申では、学校段階ごとの理科の教科目標を掲げているが、高校段階では、基礎→応用→発展として、育成する資質・能力を整理した。
基礎は「善良な市民」を設定し「理科の見方・考え方を働かせて、見通しをもって課題や仮説を設定し、観察・実験などを行い、根拠に基づく結論を導き出す過程を通して、事象を科学的に探究するために必要な資質・能力」を求める。
そのために、自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の理解と科学的探究についての理解や、探究のために必要な観察・実験等の技能、見通しをもって観察・実験を行い、科学的に探究したり、科学的な根拠を基に表現したりする力、自然に対する畏敬の念を持ち、科学の必要性や有用性を認識するとともに、科学的根拠に基づき、多面的・総合的に判断する態度―をそれぞれ養うなどとする。
同様に、応用は「科学技術立国としての日本を支える人材」を想定。「自然の事物・現象について、科学的に探究する能力と態度を養うとともに、論理的な思考力や創造性の基礎を養う」
発展になると、「世界をリードする人材」の育成を目指し「科学的課題に徹底的に向き合い、考え抜いて行動する態度を養う。科学的な探究能力を活用して、専門的な知識と技能の深化・統合化を図るとともに、自発的・創造的な力を養う」と示した。
数学の科目構成見直し
新設する「数学C」はデータ活用等で構成
中教審答申が示した高校の数学の科目構成見直しは、数学・理科にわたる探究的科目の新設もあり、現行科目のうち「数学活用」の廃止と、「数学C」の新設を提言した=図3参照。
「数学活用」については、開設する学校が少ない点にも言及しているが、「事象を数理的に考察する能力や数学を積極的に活用する態度などを育てる内容」は、今回の改訂でも重視すべきこととして、その趣旨内容を「数学A」「数学B」「数学C」に移行することが適当などとしている。
新設する「数学C」は高校での「多様な履修形態に対応し、活用面において基礎的な役割を果たす『データの活用』その他の内容で構成することが適当」としている。
高校での統計的な内容は、情報科などとの連携を重視することについても触れた。
高等学校学習指導要領における数学科目の改訂の方向性