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「高大接続改革」を先取り

10面記事

高校

3年目迎えた大学教育再生加速プログラム

 高大接続などに取り組む大学を支援する「大学教育再生加速プログラム」が3年目を迎えた。文科省の大学教育再生の戦略的推進の一環だが、革新的・先導的教育研究プログラムの開発を推進し、大学教育の質の向上の手法開発に資するモデル構築が狙い。これまでアクティブ・ラーニング(AL)、学修成果の可視化、入試改革、高大接続、長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)をテーマ設定し、公募した大学から選定して取り組んできた。本年度は三つのポリシー(ディプロマ・カリキュラム・アドミッション)に基づき「卒業時における質保証の取組の強化」をテーマに公募、選定する。

5年間、選定校に財政支援
ALや学修成果の可視化で
文科省

 「大学教育再生加速プログラム」がスタートしたのは平成26年度。
 「社会において求められる人材は高度化・多様化しており、大学は待ったなしで改革に取り組み、若者の能力を最大限に伸ばし、社会の期待に応える必要がある」ことを背景に「課題発見・探求能力、実行力といった『社会人基礎力』や『基礎的汎用(はんよう)的能力』などの社会人として必要な能力を有する人材を育成するため、大学は教育内容を充実し、学生が徹底して学ぶことのできる環境を整備する必要」から始まった。
 教育再生実行会議の第3次提言「これからの大学教育等の在り方について」(25年5月)でのアクティブ・ラーニングなどによる教育方法の質的転換、全学的教学マネジメントの改善として学修成果の可視化などが提言され、同じく、第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(25年10月)では多面的・総合的に評価・判定する大学入学者選抜への転換、国によるメリハリのある大学への積極的な財政支援などの提言があり、これらを受けたものだ。
 補助期間はテーマI(アクティブ・ラーニング)、テーマII(学修成果の可視化)、テーマIII(入試改革・高大接続)、テーマIV〔長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)〕は5年間。本年度公募のテーマV(卒業時における質保証の取組の強化)は4年間。
 現在求められている高大接続システム改革を実質的に先取りしながら、進んできたといってよい。
 26年度には公募大学から、46件が選定された。その内訳は、国立大学が11、公立大学が4、私立大学が24などである。テーマ別では徳島大、県立広島大などアクティブ・ラーニングが9件、横浜国立大、北九州市立大など学修成果の可視化8件、金沢大、長崎大、宇都宮大、山口大などアクティブ・ラーニングと学修成果の可視化の複合型が21件、お茶の水女子大、岡山大、私立追手門学院大など入試改革3件、千葉大、東京農工大、愛媛大など高大接続5件。
 27年度の公募テーマは長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)。38大学・短大・高専が申請し、神戸大、小樽商科大、新潟大など12大学・短大・高専が選ばれている。

大学教育再生加速プログラム(AP)
大学教育再生加速プログラム(AP)

本年度は「卒業時の質保証強化」がテーマ
「3ポリシー」基に設定

 高大接続システム改革会議の最終報告(28年3月)の中で、大学教育改革の具体策として学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)の一体的策定や、学長のリーダーシップの下に三つのポリシーに基づく教学マネジメントの確立、学生に「学力の3要素」を確実に向上させ社会に送り出す―ことなどが示された。
 本年度の大学教育再生加速プログラムは「高大接続改革推進事業」として、新規メニューテーマに「卒業時における質保証の取組の強化」を設定。「学修成果の質保証の仕組みの強化」や「社会とのコミュニケーションの強化による教育の改善と質保証」によって「卒業生の質保証に責任を持つ大学教育へと抜本的に転換」することを狙う。
 「学修成果の質保証の仕組みの強化」では「客観的な評価の基準作り」と「卒業時の学修成果の客観的提示方法の開発」を挙げる。
 例えば、「客観的な評価の基準作り」はアセスメント・テストの開発、学位プログラム内で共有できるルーブリックの開発など、「卒業時の学修成果の客観的提示方法の開発」は卒業生の学修成果をより詳細に社会に提示するための書類など―をそれぞれ示す。
 「社会とのコミュニケーションの強化による教育の改善と質保証」では、高校や産業界など外部関係者を含めた助言評価委員会を設置することを「必須」としている。
 また、目標とする「必須指標」には学生の成績評価(GPA等、成績の伸長が測れるもの)、学生の授業外学修時間(1週間当たりの時間数、測定方法も)などの他、進路決定の割合、事業計画に参画する教員の割合、質保証に関するFD(ファカルティ・ディベロプメント)・SD(スタッフ・ディベロップメント)の参加率、卒業生追跡調査の実施率を掲げた。
 今回テーマの公募には、116大学・短大・高専が申請している。内訳は国立大が31、公立大が9、私立大が54などである。今月下旬をめどに16件程度が選定される。

「高大接続改革推進事業」としての補助期間
「高大接続改革推進事業」としての補助期間

教育カリキュラム再構築へ 金沢大
高大協働で理工系人材育成 千葉大
ギャップタームで留学など 神戸大

 事業初年度となった26年度に選定された大学での取り組み例を見る。
 アクティブ・ラーニングと学修成果の可視化の複合型に着手した金沢大。学生の主体性を涵養(かんよう)するカリキュラム・教育方法・学修支援環境の統合的な改革を目的として、学士課程の専門教育を対象に(1)学域・学類の中核をなす科目群でのアクティブ・ラーニングの深化・充実(2)アクティブ・ラーニングに適した学習環境の活用・展開(3)学修過程・成果の可視化による学修評価の定量的評価(IR)に取り組む―などとした。
 5年間の取り組みの成果目標として「アクティブ・ラーニングの取組を収集・検証・普及するための授業カタログの整備、FD(ファカルティ・ディベロプメント)リーダーの養成、授業改善サイクルの確立」「アクティブ・ラーニング・アドバイザー(ALA)の養成、ワークショップ教室等の学修空間デザイン、グループ学修支援体制の確立」「多元的な教育学修評価指標の開発、学修ポートフォリオ・カルテの運用、学生バックアップ・ポリシーの策定」などを掲げている。
 こうした事業を通して「金沢大学<グローバル>スタンダード(KUGS)を基軸とする教育カリキュラムの再構築」などを目指す。
 千葉大は高大接続に取り組む。大学・高校・教育委員会がコンソーシアムを構築して、高校生対象の「次世代才能スキップアップ」プログラムを開設する構想だ。高校1、2年生を対象にした高大協働講座で科学実験教育やグローバル教育などで大学教養レベルの基礎力を養成、高校2、3年生対象に理系グローバル人材の卵を養成するプログラムを展開していく。
 成果目標の指標に高大連携科学授業数やグローバル化推進教育機会提供数、多様な評価尺度による入学者選抜を経た募集人員の割合などを設定する。こうした取り組みから選抜改革の促進、大学教育の高度化とともに理工系人材養成力の強化を図る。
 神戸大学は長期学外学修プログラム(ギャップイヤー)に取り組むため、28年度から前・後期の授業期間をそれぞれ半分に分け、各8週で授業を実施するクォーター制を導入。一つのクォーターを「ギャップターム」にして、留学や海外インターンシップ、ボランティアなど学外活動を促進する。
 同大の「神戸スタンダード」では「複眼的に思考する能力」「多様性と地球的課題を理解する能力」「協働して実践する能力」を教養教育の学修目標に設定している。
 1、2年生の学外学修を「グローバルチャレンジ実習」として位置付け、3、4年生では留学や1、2年次の活動から発展した活動などを奨励する。
 こうした機会を通じた英語力の向上、国際的なフィールドで活動にチャレンジする精神の育成などを目指していく。

26・27年度 テーマ別選定校一覧
26・27年度 テーマ別選定校一覧

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