こう変わる 高校の教科・科目構成 (2)
12面記事地歴、公民
選挙権年齢などの「18歳以上」への引き下げ、「世界史」必修の見直しなど、高校の地歴、公民の再編が検討されている。公民科目は、新必履修科目「公共」(仮称)や、新選択科目として「倫理」(仮称)、「政治・経済」(仮称)を改訂の方向とする構成案として検討され、「現代社会」は設置しない方向で進む。歴史科目は新必履修科目として「歴史総合」(仮称)と、その学びを生かし、新選択科目として「世界史に関わる探究科目」(仮称)、「日本史に関わる探究科目」(仮称)を構想する。地理科目では持続可能な社会づくりに求められる地理科目として「地理総合」(仮称)を新必履修科目にする方向で検討している。(「地理総合」は次号掲載予定)
新必履修に「公共」「歴史総合」(仮称)
選択履修科目に「倫理」「政治・経済」(仮称)
平成26年11月の中央教育審議会に教育課程の改訂を諮問した際、高校の新科目の設置として「今後、国民投票の投票権年齢が満18歳以上となることや、選挙権年齢についても同様の引下げが検討される」などを理由に「国家及び社会の責任ある形成者となるための教養と行動規範や、主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力を、実践的に身に付けるための新たな科目等の在り方」が求められた。
その後の「論点整理」(27年8月、中教審教育課程企画特別部会)では「公民科における共通必履修科目」として「公共」が具体化した。
審議の過程では、公民教育に関する現状として、国内各機関のデータを挙げながら、高校生や若者の実態について、自分の力で世の中を変えられていると考えている若者が諸外国に比べ少ない▽政治や経済、現代社会の諸課題についての基礎的理論、概念の理解に課題▽情報活用能力が十分に身に付いていない▽若年層の就労者の多くは働く上での権利・義務や働くことの意義を学校教育でもっと学ぶことが大切と考えている―などと分析した。
その一方で、「『課題解決的な学習を取り入れた授業を行っている』『調べたことを発表させる活動を取り入れた授業を行っている』と考えている教員は少ない」と、公民科教育の現状に言及した。
こうした課題、実態などを踏まえて、検討されてきたのが共通必履修科目としての「公共」と、選択履修科目の「倫理」と「政治・経済」である。
「公共」では、三つの大項目で構成する案が検討されてきた。すなわち、「公共の扉」「自立した主体として社会に参画し、他者と協働するために」「持続可能な社会づくりの主体となるために」である。
例えば 「公共の扉」では「公共的な空間を作る私たち」「公共的な空間における人間としての在り方生き方」「公共的な空間における基本的原理」などの小項目の下、内容によって囚人のジレンマ、最後通牒ゲームなどを用いて思考実験、概念的に考える学習活動を取り入れることも提案。
議論の過程では、「倫理」との整合性、総合的な学習の時間を活用して道徳教育を実施している県などの取り組みとの整合性なども話題になった。
新選択科目の「倫理」では、「自己の課題と人間としての在り方生き方」や「現代の諸課題と倫理」について探究することなどが提案され、「倫理的価値の理解」を基にした「考える倫理」への転換が目指されている。
同じく、新選択科目の「政治・経済」は、「民主政治の基本原理と現代の経済」と「グローバル化が進む国際政治・経済」をそれぞれ探究するとし、正解が一つに定まらない課題に協働して探究することで、国家や社会の形成により積極的な役割を果たす主体を育むことへと発展することに期待を寄せる。
公民科目の改訂の方向性として考えられる構成(案)
新選択科目 世界史、日本史で「探究」
中央教育審議会への諮問時には「日本史の必修化の扱いなど地理歴史科の見直しの在り方」が検討課題。
歴史教育の現状は「近現代史の学習の定着状況は、他の指導内容に比べて低い傾向」にある。また、教員への質問紙調査から「課題解決的な学習」や「調べたことを発表させる活動」を取り入れた授業の実施について肯定的回答を否定的回答が上回り、学習活動の工夫を課題に指摘した。
こうした状況、課題を踏まえ、歴史科目の改訂の方向性として、検討されているのが新必履修科目の「歴史総合」。「現代的な諸課題の背景にある歴史を、グローバル化につながる近現代の歴史の転換に着目して追究する」「単元の基軸となる本質的で大きな問いを設け、諸資料を適切に活用しながら、比較や因果関係を追究するなど歴史的な見方や考え方を用いて考察する『歴史の学び方』を身に付ける」ものだ。
なぜ学ぶか、どう学ぶかを「歴史学習の扉」とし、近現代の歴史の転換として「近代化」や「大衆化」「グローバル化」に着目して追究する。「取り上げることが考えられる題材」には産業革命、市民革命、近代科学、明治維新、政党政治など多様なキーワードを例示した。
この新必履修科目で習得した「歴史の学び方」を活用して、追究、探究を深める新選択科目に「世界史に関わる探究科目」と「日本史に関わる探究科目」が提案されてきた。
「世界史に関わる探究科目」は、地球環境、文明、都市などを「諸地域世界の特質」で、世俗と聖俗、イスラーム・ネットワークなどを「諸地域世界の接触と交流」、環大西洋革命、アジアの開花などを「諸地域世界の結合と変容」、宥和政策、人民戦線などを「地球世界の到来」としてそれぞれ学び、その際、近現代につながる諸地域世界の文化の多様性、複合性などを時間軸と空間軸の変化に着目して理解していく。
「日本史に関わる探究科目」では近現代につながる各時代の展開に関わる重要な概念を習得し、わが国の伝統文化への理解を深める。解釈・説明し、多様な資料を活用して歴史を考察し表現する力、「歴史総合」で育てた技能を一層高める。
「歴史の展開と資料―原始・古代の日本と東アジア―」「歴史の展開と解釈―中世の日本と東アジア―」「歴史の展開と説明―近世の日本と世界―」「歴史の構造と地域・日本・世界―近代の日本と世界―」「歴史の記録と論述―現代の日本と世界―」などの構成案を検討している。
歴史科目の改訂の方向性として考えられる構成(たたき台)